先週、中小出版3社がアマゾンへの書籍出荷を停止したと発表した。学生向けの10%ポイント還元が再販契約違反にあたる、というのが理由である。しかし、緑風出版の説明を読んでも、その理屈は理解できなかった。サイトには「多種多様な著作物が全国的に広範に普及される必要があり、それらは均等に享受されるべきであり、離島・山間・僻地などを理由に価格差があったりしてはならない」とあるのだが、アマゾンは価格差を設けているわけではないし、全国に配達してくれる。ざっと調べた限り、緑風出版・晩成書房・水声社は電子書籍化にも乗り出していないようで、「わが国固有の出版文化を守れ」と叫ぶ守旧派だ。
「わが国固有の出版文化を守れ」だけでは産業は守れない。全国出版協会の統計を見ると、1990年代後半のピークから、書籍は3000億円、月刊誌は4000億円、雑誌は2000億円も市場は縮小しているのである。
大学の講義で、出版界の将来について学生のアイデアを求めた。いくつか興味深い提案があったので紹介しよう。もっとも多かったのは、電子書籍化を全面的に進めるべきであった。丸一日スマートホンをいじっている学生には、画面で閲覧できるようにして欲しい、というのは当然の要求なのだろう。著者と会えるイベントの入場券を付けたり、ランダムに著者サインを入れたり、漫画などでは制作過程の映像を付けたり、といった特典を求める意見も出た。これは、AKB48の握手券・投票券を模したアイデアだ。日本市場は縮小する一方なのだから、翻訳して海外市場に進出すべきという意見もあった。政府のクールジャパン戦略は、すんなり学生に受け入れられるようだ。
価格・販売制度を見直すべきという意見も多かった。月額×円で何冊でも入手出来たら本好きにはたまらないだろう。売れ残りは割引販売すべき、クーポン券を付与すればよい、冒頭部分を無料で提供して残りを購入させればよい、雑誌と同様に書籍にも広告を掲載すれば、と提案は尽きない。
もう一つ特徴的だったのは、ネットを資源として活用したほうがよい、という提案である。無料サイトを利用しての若手を育成・発掘するのがよい、Facebook・Twitterなどから新人を探せなど、新しい書き手を生み出す努力を出版社に求める意見があった。
受講者の大半は2年生だが、彼らでもこんなにアイデアがある。出版社が単独で、あるいは共同で直販サイトを設けることで、アマゾンに代表される流通に利益を渡さないようにすべきという意見も出た。再販制度に凝り固まって批判するだけでなく、3社には将来に向けての戦略をぜひ考えて欲しい。