人工知能学会の学会誌『人工知能』が、女性型アンドロイドが掃除する姿を表紙にしたところ、女性差別ではないかと賛否両論が沸き上がっているという。ハフポストもこれを取り上げ、先日は、読者からのコメントをまとめた記事が掲載された。
学会は、この表紙絵を採用した理由を「多くの人にアピールすることを考えると、一度は手に取ってみたくなる表紙、ふと目に留めてしまう表紙というのは重要な要素」だと考えたと説明している。表紙デザインは毎回変えるそうなので、それを捉えて「次は工事現場で働く男性の背中にプラグを刺したイラストを採用したらどうか」というコメントもハフポストに寄せられた。
僕はどんなイラストを用いるかには全く興味がない。それよりも気になるのは、学会誌を手に取った人がちゃんと読んでくれるかだ。目次をみる限りは硬い記事ばかりで、一般人を誘うようには思えない。同系統の米国学会IEEEの場合には、論文誌のほかに、一般向けにIEEE Spectrumを発行し、プロのライターが記事を書いている。同誌のサイトを見ればすぐにわかるが、「3-D TV is Officially Dead (For Now) and This is Why it Failed」といった記事は短く、わかりやすく、かつ核心をついている。ロボットについても、最新記事はアップル、アマゾン、グーグルが参入したと伝えるものだ。雑誌『人工知能』の特集「ヒューマンコンピュテーションとクラウドソーシング」にこのような花はない。要は、一般人に訴えたければ中身を変えなければいけないということだ。
「ロボット=アンドロイド」という固定概念も気にかかる。センサとアクチュエータ(駆動系)をインテリジェンスが制御し、目的を達成するものはすべてロボットだと考えれば、ロボットは多種多様な形態をとることになる。人感センサでトイレの照明を自動点滅するのもロボットだ。この人感センサの情報は防犯システムでも利用できるし、居住する高齢者が転倒し大たい骨を骨折して動けなくなったことも感知できるから、緊急連絡を家族やヘルパーに送ることも可能だ。こうして、家屋全体がロボット化し、人はロボットの中で生活するようになる。(備考:このことは、文部科学省の研究所でレポートにしたので参考にしてほしい。)
さらに延長線上には、スマートシティという「都市ロボット」が見えてくる。スマートシティは、教育・医療・福祉・食料・経済・交通・環境・防災といった複雑に絡み合った都市問題を、情報通信の力を利用して解決しようとするものだ。スマートシティには多種多様なセンサとアクチュエータが配置され、インテリジェンスによって最適制御されるが、問題が複雑だから人工知能が欠かせない。スマートシティは、まさに、人工知能が切り拓く新市場であって、そのインパクトは掃除をするアンドロイドとは比べ物にならない。
スマートシティのように複雑な、新しいロボットの姿を、一般人が容易に理解できるような記事にすることを、雑誌『人工知能』に期待する。