12月4日の参議院本会議で障害者権利条約の批准が承認された。2006年に国際連合で採択されたこの条約は138か国がすでに批准していたのだが、日本もやっと追いついた。遅れた原因は、国内法が条約の求める水準以下であるため、国内法の改正を先行させる必要があったからである。2011年には障害者基本法が改正され、2013年春の通常国会では障害者差別解消法が成立するなどして、やっと国内環境が整い批准に至ったのである。
障害者権利条約の批准に向けて動いたのは民主党政権で、その後、与野党逆転が起きたが、この政策課題については大きな意見の相違はなかった。また、公明党はもっとも熱心に動いた政党であり、自由民主党・公明党・民主党の党派を超えた協調で批准されたということもできるだろう。
障害者権利条約は人権条約である。障害者の人権は、今まで必ずしも守られていなかった。具体的に参政権を例に説明しよう。
投票所入場券が郵送されてきても視覚障害者には内容が伝わらず、代読をヘルパーに頼もうとしても、週に一度しか来ないなどの事情で、投票日が過ぎてしまう事態も起きていた。投票所の場所がわかりづらかったり、点字ブロックがなかったりもした。視覚障害者は代理投票の際、声で候補者名・政党名を言うことになるが、その声が遮蔽されないため、投票の秘密が守れなかった。総務省が公表する候補者名簿が画像PDFで音声読み上げできないという問題も参議院選挙で起きた。
投票所に車いすで入れるかわからなかったりなど、投票所入場券には基本的情報の提供が欠けている。投票用紙の記入台の高さは、普通人が立って記入することしか想定しておらず、車いす利用者や長時間立ち続けるのが困難な高齢者などは、投票用紙に記入できない。
街頭演説という候補者にじかに触れる機会を、手話通訳が禁止されているので、聴覚障害者は利用できない。一般的な手話通訳に比べ特異性(時事単語への対応、公職選挙法の知識等)があるので、政見放送や街頭演説に特化した手話通訳士の養成も必要だが、まったく取り上げられていない。
このように障害者の参政権は、社会の側に配慮が欠如していたために、制限されていた。ましてや障害者が立候補するなど、立候補手続きのバリアフリー化や政見放送での代理人による演説などを進めない限り、不可能に近かった。しかし、条約を批准した以上、これからは選挙権・被選挙権に関わる差別は許されない。障害者権利条約の批准は、このように障害者に大きくプラスに働くだろう。またそれは、高齢化に伴って身体機能に低下が進むことが多い高齢者にも役立つだろう。
なぜ、障害者権利条約の批准は報道されないのだろう。それは、メディアが特定秘密保護法案ばかり報道しているからだ。与野党の激突を報じたいメディアにとって、条約の批准が満場一致で可決されたなど、都合の悪い真実であるかのようだ。しかし、障害者権利条約は人権条約であって、障害者のみならず一般国民にも大きな影響を与える。他の記事で言及したが、東京オリンピック・パラリンピックの成功にも関わるものだ。メディアの報道姿勢には大きな疑問を感じる。