外国人観光客が成田空港に到着した際、ICカードを渡し、使用言語や宗教、アレルギーなどの情報を入力してもらう。現金が必要になったその観光客が、都内でATMにこのICカードをかざしたら、瞬時に表示が使用言語に切り替わった。券売機も言語が切り替わるので、移動に困らなかった。レストランでタブレットにかざしたら、豚肉を使わないハラルフードや、アレルギー食材を含まないメニューがわかった。視力が衰え始めた高齢の観光客も、文字が大きく表示されるので、操作に迷わなかった。これらは夢ではなく、今すぐに実用化できる技術である。
使用言語や宗教、アレルギー、あるいは文字拡大や音声出力といったICカード保有者の希望を「支援リクエスト」と総称する。ICカードの空き領域に、「支援リクエスト」をどのように記述するかについて、国際標準が定められている。日本がリードし、欧州諸国に支えられて、標準化が完了したのである。北欧の人々が太陽を求めて南欧でバカンスを取るといった、域内観光が盛んな欧州では、ATMなどの表示を簡単に利用者の言語に切り替えるというニーズが高かったからだ。ICクレジットカードにも、Suicaにも、いつでも搭載できる準備は整っている。
この国際標準化を進めたIEC(国際電気標準会議)が、今、東京で年次総会を開いており、その機会に、「支援リクエスト」のデモンストレーションが実施されている。東京フォーラムに出向けば、だれでも無料で見学できる。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックを目指して、政府は外国人観光客を倍増させる計画である。これらの観光客がぶつかるのが言語の壁だが、スマートフォンを活用した自動翻訳技術などの開発は急速に進展している。
自動翻訳に比べれば、この「支援リクエスト」は簡単で、費用もさほど掛からない。観光立国推進閣僚会議が公表した「観光立国実現に向けたアクション・プログラム 2014」をチェックしたが、「支援リクエスト」への言及はなかった。情報通信を用いたこのような「おもてなし」について、銀行・公共交通機関・飲食店などの賛同と協力が得られるように、政府に動いてもらいたい。