「政府、デジタル教科書の無償配布解禁を検討」と産経新聞が報じている。子供たちの能力や特性に応じた多様な教育を実現するためデジタル教科書を活用することとし、無償配布対象の「教科用図書」への指定や、教科書検定制度の見直し、関連法の改正などについて議論を進めるという。記事は、文部科学省と総務省が実証実験を進めているほか、新経済連盟などからも規制改革会議に要望が出さていたとしている。
21世紀を生きる子供たちの教育に、情報通信技術の利活用は欠かせない要素である。たとえば、OECDは、創造性、批判的思考、コミュニケーション、協働の四つのスキルが21世紀を生きる子供たちには必要だとしている。これらの21世紀力を育てるために、各国は初等中等教育での情報通信の利活用に積極的に動いている。後れを取ってきたわが国で、デジタル教科書の本格採用に向けた動きが出てきたことを歓迎する。
デジタル教科書には紙の教科書にない利点がある。それは、メディア変換の容易性である。デジタルであれば、文字の拡大、ルビの付与、色調の変更、音声読み上げ、外国語への翻訳などが容易になる。
リチャード・ブランソン、スティーブ・ジョブズ、スティーヴン・スピルバーグと、学習障害を抱えながら成功した有名人は枚挙にいとまがない。これらの人々は優れた21世紀力を持っている。一方に、学習障害、注意欠陥多動性障害、高機能自閉症等、特別な教育的支援を必要とする児童生徒の約6.5パーセント(およそ60万人)が通常の学級に在籍している可能性がある、との文部科学省の2012年度調査がある。これらの子供たちには、タブレットを用いた教育が有効で、すでに実践のフェーズに移行しつつある。学習障害児を問題児と排除するのではなく、21世紀力を育成する方向で、デジタル教科書の導入が進むように期待する。
文部科学省の2012年度調査によると、外国人児童生徒数は全国で71545人で、うち27013人は日本語指導が必要である。このほか、日本語指導が必要な日本人児童生徒も6171人いるという。しかし、1校当たりにすると、9割の学校で5名未満しか在籍していない。このような子供たちも、デジタル教科書の翻訳機能で補助されれば、普通学級で学習できるようになる。
2006年の厚生労働省調査によれば、身体障害児は視覚が4900人、聴覚・言語が17300人、肢体不自由が50100人である。同省の2005年調査では、18歳未満の知的障害児は117300人と推計されている。たとえば、視覚障害児には点字教科書や拡大教科書が与えられてきたが、これもデジタル教科書で代替できるかもしれない。僕が理事長を務める情報通信政策フォーラム(ICPF)では、最新の研究を知るために、3月26日に「教育の情報化:障害児教育等への活用」と題してセミナーを開くことにした。
子どもたちの21世紀力を育てるために、また、障害児や外国人児童を排除することなく、社会に包摂していくために、デジタル教科書の全国展開が進展するように期待する。