時事通信が「鳥インフルで2人死亡=中国」と速報で伝えている。その前には、春節で大量に来日する中国人観光客が鳥インフルエンザを持ち込まないか、厚生労働省が警戒しているという記事もあった。先月にはノロウィルスで多くの患者が発生し、季節性インフルエンザは流行の真っ盛りである。
これらの感染症、特に新型感染症の発生が早期にわかれば、速やかに防疫体制を取れるので、流行を防ぐこともできるかもしれない。そこで開発されたのが、症候群サーベイランスである。症候群サーベイランスとは、かかりつけ医などが投入した患者の症状に関する情報を自動収集し、統計的手法で疫学的な解析を行い、何らかの疾病が発生し流行しているかどうかを早期に判断し、その結果に基づいて公衆衛生的対応をとるというものである。わが国では、国立感染症研究所感染症疫学センターが、症候群サーベイランスに関する中核的な機関である。
センターは、全国の約6000園の保育園・幼稚園、19県約18000校の小中高校(全国の約40%)から欠席者情報を収集しているほか、全国約9000薬局(全薬局の20%弱)で特定の薬効分類での処方箋枚数を監視するなどして、感染症の発生・流行を監視している。一方で最も遅れているのが、病院・診療所からの診療情報の収集である。電子カルテから自動的に情報が提供されるのは、総合病院2つを含む19医療機関と、日本医師会経由で提供される3975医療機関にすぎない。厚生労働省の最新統計では、病院が全国に8565施設で、診療所は100152施設だから、5%以下の病院・診療所しか症候群サーベイランスに協力していないという勘定になる。この最大の原因は電子カルテが普及していないこと。シードプラニングが2013年4月に発表したレポートによれば、電子カルテの普及率は病院で28.7%、診療所で23.8%と、進捗は遅い。
この遅れは、鳥インフルエンザのような新型感染症が本格的に流行し始めた時に、致命的な問題として露見する恐れがある。季節性インフルエンザのように先行して予防注射で免疫力を高めておくことができないため、できるかぎり早く防疫体制を取ることが極めて重要だからだ。
症候群サーベイランスは諸外国で実用化が進んでいる。例えば、米国では、2001年の炭そ菌事件を契機にバイオテロリズム対策として開発が進み、CDC(米国疾病管理予防センター)のBioSenseなどが稼働しているという。
症候群サーベイランスはビッグデータ解析の有力な応用分野である。必要なのは匿名化された診療情報だから、機微な個人情報を外した形で、すべての電子カルテシステムから自動的に情報収集するようにしてもよいはずだ。鳥インフルエンザなど新型感染症が恐れられている今こそ、わが国は症候群サーベイランスの本格化を急ぐべきだ。その観点で、僕が理事長をしている情報通信政策フォーラムでは2月12日にセミナーを開催し、感染症疫学センターの大日さんに講演いただくことにした。