前回に引き続き、3月19日(土)に行われるイベント「女性の「自分らしさ」と「生きやすさ」を考えるクロストーク」 (朝日新聞社WEBRONZA主催)の開催にあたって行われた「Change.org」の武村若葉さんとの事前対談の続きについて書いていきます。今回は性表現が与える女性観の問題を中心に話し合いました。
勝部元気(以下勝)「話は少し戻ってしまうのですが、今回のイベントの告知をSNSで投稿する時に、武村さんはおっぱい募金について言及したんですね?」
武村若葉(以下武)「自分の性的なイメージは自分で決めたいというリプロダクティブライツ的な意味で問題があると感じています。参加したAV女優の方々は嫌だと思ってはいないかもしれないですが、産業構造は男性がほとんど仕切っているのが現実だと思うのです」
勝「本当にその通りです」
武「女性にとって同じ肉体を持っている人がこのような扱われ方をして良いという表現であり、それによって女性の自己イメージが毀損されていると思うのです。社会における女性の性的イメージをおかしなことにしている」
勝「WEBRONZAで書いたおっぱい募金に関する記事 では、まさに社会における性的イメージに影響を与えるものか与えないもので分けて考えています。つまり、小さなイベントでかつ個人が主体的にやっているなら基本的には問題無いと思うんですよね」
武 「WEBRONZAの記事 は私も読みましたよ。本当に当たり前のことしか書いてなくて、こんなに当たり前の記事をやっと読めたなと感激しました。当たり前の指摘をしてくれる記事が全然見つからなくて、勝部さんの記事しかない。ほっとした同時に、なぜみんな書かないんだろうと不思議なくらいでした。「本当に当たり前のことやっと見つけたよ」と友人にも教えて回りましたよ」
勝「ありがとうございます!有料記事なのですが、是非たくさんの方々に読んで頂きたいです」
武「ただ、個人でやっていれば問題無いとおっしゃいましたけれど、根源に性差別なものがあるということは意識化されていって欲しいですね。たとえば、以前会田誠さんの作品が六本木ヒルズの特別展で展示されたことがありましたが、一部の人から展示するなという抗議があったかと思います。私は実際に見に行ったのですが、ちゃんとゾーニングしてあるし、「展示するな」は踏み込み過ぎなんじゃないかなとその時は思っていました。
でも、あのような作品が作品として成り立ってしまう価値基準があるということは、女性性を暴力的に扱うことで可愛く見えてしまう価値観が内在している証拠だと今は思います」
勝「若い女性ばかりが描かれているのがそれを如実に表しているでしょうね」
武「手足が切断されていて、女の人は性的な部分だけで良いんだという意味のメッセージだとも受け取れる作品だと思っていて、感受性が強い時に見れば、そのような価値観を増強・増長してしまう表現です。そのような表現物を「展示するな」「出版するな」と言うのは難しい問題ですが、少なくとも「あれは性差別的な表現・性暴力的な表現だよね」というような共通認識を社会が持てるようになったほうが良いと思うのです」
勝「本当におっしゃっている通りです。規制の問題を論じる以前に、まずは彼のような作品を性差別的な表現や性暴力的な表現として捉えるという共通認識ができあがっていないために、議論が噛み合わないのでしょう」
武「少し話が変わってしまうんですけど、以前宮崎でレイプ加害者が犯行時にビデオを撮影していて、裁判でそれを証拠として提出して欲しいと被害者側の弁護士さんが言っているのに、加害者側が出したくないと拒否したケースがありました。Changeでもキャンペーンが立ち上がって、結果的に最高裁で証拠として没収が認められて勝利したキャンペーンになったのですが、そういうところにも女性の性が軽くぞんざいに扱われている感覚を受けます」
勝「そうですね。そもそも論的に日本の裁判って時間かかり過ぎです。確かにそのキャンペーンのように勝利を掴むことはできるかもしれないのですが、そのような"必死の防衛戦"を強いられる人たちの姿を見ていると、時間的にも金額的にも精神的にも多大な時間を消費しないと女性の性って守れないんだって感じてしまんですよ。女性が自分の性を守るのにこんな荊の道では、泣き寝入りを勧めているのに等しいと思うのです」
武「本当にそう思います。女性の性とか肉体というのは差別や暴力に晒されてもそんなに問題無いよという証拠でもあると思うんです。殴る蹴るなどの暴力事件はふるった側がおかしいって大多数の人が思いますけど、痴漢などはなぜかされた側がおかしいという人がひょっとしたら過半数になっちゃうような世の中です。それだけ女性の性が差別や暴力に晒されることに対して問題意識が無いのかなと思ってしまうのです」
勝「勧善懲悪のストーリーの漫画でも、暴力や殺人のような被害を主人公側が受けた時、概ね主人公のリベンジが行われるのですが、強姦のような性暴力の被害ってリベンジの対象にならないことも多いように思うんですよね。主人公が性暴力行為そのものに怒るケースはほとんど見たことありません。
それに、ヒロインは処女という設定のものも多いです。女性の性を蹂躙したいという欲求と、意中の女性の性を管理したい欲求というダブルスタンダードを反映しているから、そのような奇妙な構図になるわけですね」
武「なるほど」
勝「主人公はヒロインに飛んでくる悪の手は跳ね除けるので、ヒロインが強姦未遂を受けたとしても主人公が助けます。でも、脇役の女性キャラクターの性は主人公が守るべき存在ではないので、悪役に蹂躙されておしまいみたいな漫画を時々見かけて、不快感を覚えたことは何度かありましたね。
このように、たとえ勧善懲悪的な帰結を心掛ける作品でも、脇役の女性の性を蹂躙することは悪として描かれているわけではないんだなと感じます。それにはもちろんヒロインに対する性差別や性暴力は悪という共通認識があるのに、性差別や性暴力自体が悪であるという共通認識が無いからだと思うのです」
武「へー」
勝「自分の好きな人やパートナーに飛んでくる性暴力は悪だけれども、性暴力自体は悪ではないという感じは別に漫画だけに限らず、たとえば痴漢やセクハラもそうですね。自分の娘がされたら許さないのに、行為自体を悪だとは認識し切れていないから、赤の他人には平気で行ってしまうわけです」
武「そういうのが如実に出ているのが萌えキャラの問題だと思いますね。Changeのキャンペーンでも、志摩市公認の萌え海女キャラ「碧志摩メグ」の問題がありました。擁護している側は「あなたじゃないから良いじゃん」という主張をするのですが、性差別的表現を地方自治体が採用するということが、性的な欲望の対象としていて良いというメッセージを自治体の税金を使って助長していることになっているということが分からない人も多いのだと思います」
勝「萌えキャラ採用に関してはしばしば抗議の声が上がりますが、決定する自治体側はいったいどういう意思決定の構造しているのか本当に疑問です。批判されるということが全く分からない人たちばかりで意思決定しているのでしょうか。2016年1月にセクハラ表現満載で自主回収になった駿台の漢字問題集があり、WEBRONZAでも記事にした のですが、あのケースも出版社側は「女性社員が見ていたから良いと思った」と言っているわけですよね」
武「意思決定の構造は外にいたら分からないですが、出て来る度にそれっておかしいですよねって声を届けて行って、コンプライアンス的にマズイんだなという認識が広まって行くのがまず大切でしょうね」
勝「それに対して、「最近窮屈になり過ぎだよね」という反論をする人が時々いると思うのですが、その意見に関してはどう思われますか?たとえばテレビでも放送禁止用語がどんどん増えていると言われています」
武「その駿台問題集の時にも「これおかしいって言われるのはちょっと寂しいよね」というコメントを見かけました。私はエログロナンセンスみたいな表現自体を否定するわけでも、そのようなコンテンツが全て無くなれば良いともは思っていないですが、何で窮屈って感じるか考えて欲しいです」
勝「性的なのか性差別的なのかという視点を持って欲しいところですね」
武「それに、駿台問題集も男性の上司や有名講師が提案して進めているとしたら、女性社員が見たところで、「これはちょっと...」って言える雰囲気だったのかどうかということは、簡単に想像できます。基本的に言えるはずがありません」
勝「そのように性差別的な表現に対して嫌な気持ちをしているのに、周りの雰囲気的に言えないという人もたくさんいると思います。「窮屈だ」という人たちにはそういう人たちの窮屈さはどう考えているのかと聞いてみたいですね」
武「はい」
勝「でも、本来は規制というのはなるべく少ないに越こしたことはないと思います」
武「同感です」
勝「でも、そのためにはリテラシーが重要。リテラシーをしっかりと育てられる社会環境が重要だと思うのです。そういう土壌があまり育っていない現段階では、個々の情報発信者が表現を窮屈にせざるを得ないのかなとも感じています」
第三回につづく
「女性の「自分らしさ」と「生きやすさ」を考えるクロストーク」概要
●日時:3月19日(土) 14時~ (開場13時30分) *終了は16時の予定です
●会場:朝日新聞メディアラボ渋谷分室
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6丁目19−21 ホルツ細川ビル4階(明治通り沿い。JR渋谷駅、地下鉄渋谷駅から徒歩5分。地下鉄ですと13番出口が便利です)
*ベビーカー可。託児所はありませんが、畳敷き(3畳ほど)、絨毯のスペースはあります。
*飲みものが必要な方はご持参ください。
*館内は禁煙です。
●参加料:無料
●申し込み: http://t.asahi.com/womanlife までアクセスしていただき、お申し込み下さい。
*必要事項とアンケートにお答えください。当日の参考にさせていただきます。
*応募多数の場合は抽選のうえ、当選された方にのみお知らせします。
*当日のトークを踏まえて、後日、WEBRONZAとハフィントンポスト日本版で関連記事を配信する予定です。
●主催:朝日新聞社 WEBRONZA
●問い合わせ先 WEBRONZA編集部
webronza-m@asahi.com