正直に言うと「真実の愛」なんて見たこともない

果たして、永遠の愛、真実の愛などと呼ばれる美しいモノがこの世界に存在するのでしょうか?そしてそれは本当に重要なモノなのでしょうか?
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果たして、永遠の愛、真実の愛などと呼ばれる美しいモノがこの世界に存在するのでしょうか?そしてそれは本当に重要なモノなのでしょうか?

まず、真実の愛の存在を年末ジャンボ宝くじと比較してみましょう。

一等賞金五億円の宝くじ、五億円は滅多に当たりません。

当たる確率は天文学的に低いのですが、しかし厄介なことに当選者は確実に存在しています。そのため、もしかしたら自分も当たるのではないかという幻想を抱いてしまい、多くの人が購入してしまいます。もし当選者が一人もいなければ、そんなクジは誰も買いません。ここが人間の不思議なところで当選確率が「ゼロ」なら誰ひとり買わないのに、当選確率が「限りなくゼロに近い」場合にはとてもたくさんの人がクジを購入してしまいます。

真実の愛についても似たことがいえます。そんなものを生で目にしたことはないですし、見つけたと言いたがる人ほどすぐに離婚してしまいます。架空の物語以外で真実の愛に触れる機会は一生ありません。しかしテレビでみた愛の物語は嘘か誠か実話を元に構成されているらしいなんてことはよくあります。滅多にない真実の愛やそれっぽいものを見つけると、特に美しいエピソードばかりをつなぎ合わせてドラマや映画にしてしまいます。もし真実の愛なんて地上にないと言い切れるのなら、誰もそんなものを気にかけたりしないのですが、存在するかもしれないと思うと欲しくなってしまいます。なおかつそれが、さも誰にでも手に入るもののごとく聞かされるものだから「自分も手に入れなくてはいけないのではないか」とたくさんの人が思ってしまいます。

宝くじを買う時には、実際の確率以上に大きな期待を抱いていますが、いざ宝くじがはずれたら「まぁそんな簡単に当たるものじゃないよね」と思います。しかし真実の愛を探す人の多くは、実際の確率以上に大きな期待を抱いて、それが手に入れられなかった時「まぁこんなもんだよね」とは思わずに「どうして私は真実の愛を手に入れることができないのだろう?私の人生の何が間違えているのだろう?」と思ってしまいます。メディアを通して、いつのまにかそれが誰にでもあるものだと思いこまされてしまった人達は、真実の愛がない状態が「不幸」だと勘違いしています。

「なぜ私は五億円当たらないの?私の人生は何が間違えているの?どうすればみんなみたいに五億円当たるの?」と思って悩んでいる人は精神病院にもなかなかいないでしょうが、「なぜ私は真実の愛に出会えないの?私の人生は何が間違えているの?どうすればみんなみたいに真実の愛を手に入れられるの?」と思い悩んでいる人は驚くほどたくさんいます。

真実の愛は地上のどこかに存在するかもしれません。それを手に入れればきっと幸せなのでしょう。しかし、宝くじが当たらないことが不幸ではないように、真実の愛が手に入らないことも不幸ではありません。真実の愛がないことは恥ずかしいことではないですし、真実の愛を持っているふりをする必要もどこにもありません。そもそも「あの人のためならすべてをなげうってもいい」なんて一度も思ったことのない人が、自分のためにすべてをなげうってくれる人がどこかにいるはずだと信じているというのがムチャクチャな話なのです。

「愛」という言葉を便利なものとして利用することには何の問題もありません。しかしそれはあくまで「意味が曖昧で便利な言葉」でしかなくてそれ以上のものではありません。こういう外側だけ美しくて中身がスカスカの言葉を過度に持ち上げて大切なものとして扱っても、人は幸せにはなれません。

本当は「愛」という言葉が便利だから「私たちは愛によって結び付けられたのだ」ということにしておいただけだったのに、いつのまにかその言葉が一人歩きしてしまって、「真実の愛」なんてどんなものなのか知りもしないのに、お互いにそこに「真実の愛」があるふりをしなくてはいけない、多くの人がそんな状況に追い込まれてしまっています。

「愛してるんだ」なんて言ってセックスする理由やセックスさせる理由にしている間は何の問題もないのですが、数ヶ月後に「ねぇ、私のこと愛してる?」なんて聞かれると困ってしまいます。まともな人は「愛してるよ」なんて恥ずかしくって言えません。自らを鼓舞してなんとか言った時には嘘をついてしまったような苦い気持ちになります。ちょうど自分の知らない話題に知ったかぶりして相づちをうってしまった時のような気持ちです。だって真実の愛がどんなものかなんて本当はまるっきり知らないのですから。

さて、あなたはどう思いますか?

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(2014年11月26日「誰かが言わねば」より転載)

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