日仏「宇宙飛行士」が語る「宇宙探査」の展望と意義(下)--フォーサイト編集部

「何かを発見し、新しいものを学び、進んでいくというプロセスは同じ」

山崎直子宇宙飛行士 これから宇宙探査を進めていくには「国際宇宙ステーション」(ISS)で行われているような国際協力が欠かせませんし、国家プロジェクトだけでなく産業界、民間との連携も必要になってきます。様々な技術との融合も大切になってくるかと思います。そういった部分をいかに有機的に結び付けていくかということに関して一言ずつお伺いしてから、会場のみなさんのご質問をお受けしたいと思います。

トマ・ペスケ宇宙飛行士 最も重要なのは、宇宙探査で起きていることと地上の探査で起きていることには大して差がないということです。何かを発見し、新しいものを学び、進んでいくというプロセスは同じ。私たちの場合は宇宙ですが、各国の宇宙機関が新しい道を開き、それをみなさんが辿り、発見されたものを活用するという道のりになっていくと思います。したがって、宇宙飛行士はもっともっと宇宙に行くと思いますし、地球低軌道はどんどん商用化に使われるようになると思います。

中須賀真一教授 今、「第2回国際宇宙探査フォーラム」(ISEF2)の中で、「LOPーG」という月周回のミニ宇宙ステーションをつくっていこうというアメリカ主導の国際計画が進んでいます。これは人間の活動の地平を月にまで広げていくという観点から非常に良いもので、かつ国際的な共同プロジェクトを行う1つのステージとしてはとても象徴的なものであると考えています。

 それをみんなで協力して進めながら、たとえば日本ならどこを目指すのかということをしっかり打ち出していくことが大事。日本は従来、月をしっかり検討してきました。「かぐや」という月周回衛星があり、非常にきれいな地図や写真を撮ってきました。月は日本にとっては非常に大事な探査の先であることを考えると、この「LOP-G」を使って日本が月探査をどう進めていくかを考える必要がある。 

 国際協力を行いながら、日本は日本、フランスはフランス、それぞれの国がやりたいことをどう共同プロジェクトの中に盛り込みうまく利用していくか。ある意味、ズル賢く考えていく必要があるのではないかと思います。

野口聡一宇宙飛行士 トマと中須賀真一先生のお話を聞くと、無人と有人、国家戦略と国際協力、民間と国策、いろんな対比軸がある。それが3次元的に織りなし、非常にダイナミックな時代に差し掛かっているのではないかという気はします。

 昨日(9月18日)も民間の月旅行の話が出ました。ちょうど宇宙航空研究開発機構(JAXA)の定例記者会見があり、山川宏理事長も「同じ宇宙を愛する者として本当に応援する」と言っていましたが、民間は民間でできることがあるし、我々は国の機関として国策としてできることをやっていくんだということでした。

 アーティストや剛力彩芽さんと一緒に月に行くのもいいですが(笑)、我々は、月面無人着陸の技術を実証する「スリム」という月探査機を打ち上げます。それぞれの立場でできることをやったうえで、その時その時の最適解がうまく見つかればいいんじゃないかなと思います。

中須賀 もう1つ忘れてはならないのが、ISSを今後どう利用していくかという話ですよね。2024 年までは国際協力で運用していくことになっていて、それ以降どうするかはまだ明確になっていませんが、個人的な気持ちとしてはISSをロボティクス宇宙ステーションにしていければいいんじゃないかなと思っています。

 つまり、ISSの中で有人がしているような様々なアクションを全部ロボットに置き換えていく。そこで得られた知見が、その後の「LOP-G」であったり、惑星上の探査であったりに確実に有効に使われていくだろうと思います。ロボティクス宇宙ステーションになったら、今ほど運営費もかからないと思います。

山崎 ありがとうございます。ではここで会場の皆様と意見交換ができたらと思います。

――それぞれの国がプレゼンスを示そうとした場合、どう国際的なコンセンサスをとっていくのか。

ぺスケ 宇宙探査はそもそも2カ国間の政治的イデオロギーの競争として始まりました。だからこそ探査への熱意というのはものすごいものがあった。でも一旦、誰かが競争に勝ったらどうなったか。アメリカが月面着陸をしたら、もはや走り続ける理由がなくなってしまったわけです。そこでスイッチが切り替わり、1970~80年代の宇宙探査は「科学協力」というものに変わりました。最初ほどパワフルではありませんが、宇宙探査をよりよい方向に導いてくれています。

 そう思う理由は、目に見える国際協力が実現したからです。もっと国家主義的になったり、閉鎖的になったりした時代もありましたが、今は違います。つまり宇宙探査は、それぞれの国が国家主義的になりすぎないようにするための安全システム、抑止するための機構なのです。

 私がISSにいた時、一緒に滞在していた宇宙飛行士のペギー・ウィットソンさんがアメリカ人の滞在記録を更新したということで、ドナルド・トランプ大統領から祝福の電話がありました。彼女ともう1人のアメリカ人クルーだったジャック・フィッシャーさんが大統領と直接話をしたのですが、彼らはトランプ大統領から「すばらしい記録だね」「すばらしいアメリカの業績だ」と褒められる度に、「ありがとうございます、大統領。国際宇宙ステーションでロシア、フランスの仲間と国際的な達成ができて嬉しいです」と言っていました。その時、そこには国際的な連携が分かりやすい形で示されていました。

 おっしゃる通り、国際的な取り組みなのに自国の国旗を立てたがる人がいることには気をつけるべきだと思います。みんなで一緒にいろいろな国旗を掲げられたらすばらしいですよね。いつかきっとフランス国旗ではなくてヨーロッパの旗、または世界宇宙機関の旗が立てられることでしょう。

中須賀 火星探査のことを考えると、一国の予算だけで火星まで行って帰ってくるのはほとんど不可能です。だからこそ、たとえばアメリカは自分たちだけで行うのではなく、火星に向かうためのインフラを国際連携の中で一個一個つくっていこうとしている。これからは遠いところまで行く競争はなくなってくるだろうと思います。それをやるとほとんど経済が破綻するくらいの巨額の資金が必要になってくるので、月よりもっと遠い宇宙探査は国際協力でやらざるを得ない。その中で、みんなが国際協力を意識していけばいいのではないかと私は考えています。

――エイリアンなど未確認生物は見つかると思いますか。

野口 僕は広い宇宙の2兆個ある銀河のそれぞれの2000億個ある恒星のどこかには地球と同じような高度な知能を持った生命体がいると信じていますし、かつて火星ないし月面に生命がいたんじゃないかというのは面白い研究テーマだと思います。ただ、かつて生命体がいたかどうかが宇宙探査のメインの意義になっているかというと、そうではない気もする。火星ないし月面で生命体の痕跡、あるいはそれに至るような道筋が見つけられなくても、宇宙探査としては失敗ではないのかなと思います。

中須賀 現在、太陽系外にある「系外惑星」が数千個見つかっています。これはアメリカの「ケプラー」という天文観測衛星の成果ですが、その惑星からのダイレクトな光を捉えることにより、惑星の大気の組成などを研究することが盛んに行われています。その結果として生命のいる確率が非常に高い系外惑星が見つかってくるだろうと思います。

 問題はそこまで行けるかどうか。光のスピードでも数年かかるようなところにはなかなか行けないので、間接証拠は見つかっても直接的な証拠は見つからない可能性が高い。

ペスケ ここで思い起こさないといけないのは、スケールの違いですよね。ISSは地球の上空400キロメートルのあたりを周回していますが、月までは38万4000キロメートル。つまり1000倍遠い。火星までは軌道にもよりますが、ざっくり言って4000万キロメートルから4億キロメートルの間です。さらに最も近い系外惑星までは約4光年、つまり40兆キロメートルです。人間がそこまで行くにはとても時間がかかる。

 でも火星ならよりチャンスがある。すでに言われているように、火星には地下深くに水が存在しているので、何らかの生命体がいるかもしれませんし、それを研究することで、どのように生命体が生まれたかという大きな謎のヒントが見つけられるかもしれない。あるいは生命体はどうやって消えたのかということも重要です。

 私や野口飛行士が火星に行くことは難しいでしょうが、いつか人間が到達する日がやってくる。私が生きているうちに、その日がやってくると思います。

山崎 宇宙探査がまさにこれから動いていくということを考えていただけたらと思います。また日仏交流160周年ということで、これを機に日本とフランスの国際協力が宇宙にも広がっていくことを期待したいと思います。

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(2018年10月25日
より転載)

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