■ドルトムントの代名詞「ゲーゲンプレッシング」とは?
「ショートパスを繋ぐポゼッションサッカー」。このスタイルが主流となっている昨今のサッカー界において、真逆の路を進む"ヘビーメタル"なチーム。それがボルシア・ドルトムントだ。
ユルゲン・クロップ監督の代名詞は「ゲーゲンプレッシング」。これは、ボールロスト時にリトリートせず、その場でプレスをかけてボールを奪うというもの。
ドルトムントの攻撃は、ディフェンダーやゴールキーパーからの前方へのロングボールを合図に発動され、敵陣で相手にボールが渡れば全員が連動してプレスをかける。そうして奪い返したボールを一気にゴールまで運んでしまうのだ。
これは相手がボールを保持していることが前提であり、状況によっては「あえて相手にボールを渡す」という選択肢もあるほど。そして、驚異的に早い攻守の切り替えと、スピーディーな縦への攻撃が必要となるため、必然的にポゼッション率が下がってしまう。
25日に行われたチャンピオンズリーグのゼニト戦でも4-2で勝利しながら、ポゼッション率は40.7%というものだった。
もちろん、極端に力の劣る相手に対してはボールを支配して圧勝する試合もあるが、この試合に限らずアーセナルにも、ナポリにも、マルセイユに勝った試合でもポゼッション率は40%台前半に留まっていた。そして、ポゼッション率で下回っているからと言って、引いて耐えて少ないチャンスをものにしたという印象はない。
快勝した試合後、クロップ監督や選手たちが満足げに「戦術が機能した。プレスが上手くいった」というようなコメント度々残していることからも、ゲーゲンプレッシングがいかに効果的か分かる。
■クロップは評価していた香川の守備力
では、逆にポゼッション率で上回った場合はどうなるのだろうか?
今シーズン絶不調でクラブ初の降格も現実味を帯びてきたハンブルガーSVに0-3と、まさかの大敗を喫した22日のブンデスリーガ第22節では、何と64.9%ものポゼッション率を記録していた。
つまり、この試合ではゲーゲンプレッシングが上手く機能しなかったが故に、ボールを持ちすぎて敗れたと言えるだろう。
ヘルタやレバークーゼン、ボルフスブルク、ボルシアMGに敗れた試合でもポゼッション率で上回っていた。
そして、香川真司の現在の苦境は、ここに関連性があるのではないかと思う。香川は、マンチェスター・ユナイテッド移籍後に"守備ができない"と指摘されている。しかし、ドルトムントから去る際に、クロップ監督は守備面での戦力低下を懸念するほどに香川の守備力を評価していた。
この「香川の守備力」とは、前線から絶えずプレスをかけ続けるファーストディフェンダーとしての守備力であって、押し込まれた際に激しいタックルを見舞う守備力とは違う。そして、これはチーム全体が連動するからこそ効果を発揮するのだ
さらに攻撃面に関しては、高い位置でボールを奪うことによって生まれたスペースを使い、持ち前の俊敏性と高いスキルを生かしてゴールまで直結する動きを度々見せていた。
■孤立する"ヘビーメタラー"香川
香川真司は、ポッゼッションサッカーにおけるゲームメーカーではなく、ショートカウンターで生きるセカンドアタッカーであり、まさにクロップ監督による「ゲーゲンプレッシングの申し子」なのだ。
そして、香川が現在プレーするチーム、すなわちマンチェスター・ユナイテッドと日本代表は、このゲーゲンプレッシングを取り入れていない、またはできないため、自らの能力をチームにおいて発揮できていないと言える。
サッカーは、ポゼッション率を競う競技ではなく得点数を競う競技。70%や80%のポゼッッション率で圧倒するサッカーも素晴らしいが、時に退屈に映ることもある。素早いカウンターで一気にゴールに迫るサッカーは、ハインテンションでスリリングなものだ。
クロップ監督によると、ポゼッションサッカーはオーケストラのように優雅で美しいが、ゲーゲンプレッシングは泥臭いヘビーメタルのようなもの。
ヘッドバンキングでテンションを最高潮にする人もいれば、壮大なクラシックにスタンディングオベーションを送る人もいる。つまり、「どちらにシンパシーを感じるか」ということであって、「どちらの方が素晴らしいか」ということではない。
香川真司は、このどちらでもない世界的な大御所ブリットポップグループに加入してしまったヘビーメタラーのような存在なのかもしれない。
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(2014年3月2日フットボールチャンネル「香川は本当に守備が苦手なのか? ドルトムントとのスタイルの違いから見えてくるマンUでの不遇の要因」より転載)