本田圭佑、まずまずの内容でなぜ低評価だったのか(神尾光臣)

辛勝だったベローナ戦。ミランの本田圭佑は先発出場するも、60分過ぎに途中後退。現地紙は厳しい評価を下した。苦戦にはベローナの徹底対策もあった。今後も予想されるがセードルフ新監督は改めてポゼッション志向であることを明言した。

■新システムをいきなり採用したセードルフ監督

 ちょっとした衝撃だった。前日の公開練習で分かっていたことだとはいえ、セードルフ監督はベローナ戦で4-2-3-1の新システムを本当に使い、そして本田を本当にトップ下で起用したのである。そして衝撃は何より、彼らは前半ほぼ一方的に相手陣内で試合をし、カウンターも許さなかったことだ。

 その上では少なくとも、本田圭佑は効いていた。カカーやロビーニョ、またワントップのバロテッリも加え、彼らと接近したポジションを取り小気味よくパスを回す。ベローナ守備陣のゾーンの隙間にすっと顔を出しては、パスを貰ってそれをワンタッチで裁く。こうしたことで相手はプレスの掛けどころを見つけられず、ミランのポゼッションはさらに上がるのだ。

 その間に本田は、9分のカカーへ通した正確な浮き球のパスや、数々のワンツーなどを積極的に試み、局面の打開を試みていた。前線4人の中で蚊帳の外になることがなく、またモントリーボや最終ラインからもパスを付けてもらい、常に展開の中にいたのだ。

 そして賞味60分をプレーした後に、ビルサと交代。ロシアシーズン終了後、1ヶ月に渡り実戦から遠ざかっていた本田には調整がまだ必要であり、チーム側の発表によれば金曜日にも別メニューで調整が施されている。その状態ではやむを得ずで、新戦術に適応するという点ではまずまずの内容だったといえる。

■まずまずの内容でなぜ低評価だったのか?

 しかし、地元メディアからの評価は結構低かった。評点は軒並み、及第点以下の5.5か5。「過去2戦のパフォーマンスからは一歩後退」。コリエレ・デッラ・セーラ紙でこのように評されていた言葉がもっとも典型的な見方だ。

 必要以上に持ち上げておいて、悪ければこき落とす――長友も言っていたところの、イタリアメディアの厳しい特色が出たとも言えるが、なぜ今回はそういう評価に落ち着いたのかを冷静に見る必要がある。今回は、得点に直結する仕事をしていないというのが彼らの見方だ。

 サッスオーロ戦では、強烈なミドルシュートがバーを叩いた。コッパ・イタリアのスペツィア戦では、言うまでもなくゴールを叩いている。結果を求めるイタリアでは、攻撃陣にはゴールに直結する仕事を求める。

 この点で、過去2戦の本田のパフォーマンスは彼らにとっては『合格』であり、ベローナ戦では『及第点を下回った』という評価になったのである。

 惜しかったのは、前半17分に訪れたビッグチャンスを逃したことにあった。カウンターからデ・シリオがボールを運び、本田はそれに合わせて前線へと走る。DFラインのギャップへ走り込み、絶妙にポジションを取ってクロスを呼び込んだところまでは完璧な流れだったが、トラップが乱れた。

■ベローナの徹底対策

 このようなプレーを多く繰り出し、また少なくても訪れたチャンスは確実に枠へと納める。こういった精度と集中力が必要となる。もっとも9分のクロスが得点につながらなかったのはカカーが外したせいであるのだが、こちらでは課程よりも結果が重視される。アシストへ繋がるプレーの回数を増やせるように、周囲との連係を高めて行く必要もあるだろう。

 ただ、守備戦術がマニアックなまでにタイトなイタリアでは、その機会を増やすことも難しい。その萌芽は、昨日の試合で実は現れていた。ベローナのマンドルリーニ監督は、正体が分からない中でセードルフ新監督、また本田への対策を取っていたのだ。

 試合後の記者会見で、敵将は興味深いことを口にした。

「情報はあまりなかったが、新聞で報道されたメンバーを見たところ、トレクアルティスタを多く並べて来ることは予想がついた。つまり彼らは足元へと繋ぎ、中へ、中へと繋いで攻めて来ると読んだ」

 実際、その通りに彼らは、ポゼッションを譲り渡す一方で中央のスペースをしっかりと固め、最低限シュートだけは許さないように務めた。ミランが前半、75%を超えたと言われるポゼッション率を誇りながら、その間に相手ゴールを割れなかったのは、彼らの堅守の賜物であるとも言える。

■ポゼッション志向である限り本田にチャンスはある

 本田に対しても、寄せは厳しかった。もともと攻撃的と言われるベローナでさえこうなのだから、下位クラブの中には露骨に守備に徹してくるところもある。またユーベやローマなどの強豪は、攻撃的に行きながらもこういった局面でルーズな状況をまず作らない。本田が狙い通りにチャンスを捻出するためには、相手の戦術的な守備への対処も必要になって来る。

 試合後、セードルフ監督は「前線に人数を割き、ボールを支配するのがミランのサッカーで、われわれがボールの後ろを追いかけ回すようなことがあってはならない」と、改めてポゼッション志向を口にした。

 指揮官がこのコンセプトをぶれずに続ける限りは、本田にも引き続きチャンスは与えられるだろう。コンディションをさらに上げ、連係を高めれば、結果も自ずと出てくるに違いない。

 だが、チームは大不振からの脱却を図っている最中で、何より結果が求められる状況だ。その状況であえて攻撃的に行くというサッカーは選手たちをやる気にさせているものの、失敗すればこのコンセプトは、本田もろとも闇に葬られるリスクもある。

 ある種のギャンブルだが、この中で本田が勝利に繋がるプレーを出来るようになるか。チームの命運、そしてミランでの本田の運命もそこに掛かっている。

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