9月17日午後、ロスアンゼルス空港に近いホーソーンのスペースX(Space X)本社で同社の大型ロケットBFRを利用した月旅行への民間人搭乗者第一号にスタートトゥデイの前澤友作社長が名乗りを上げたことが発表されました。
下はその動画で、この記事ではこのスピーチの「出来栄え」を批評したいと思います。この動画は1時間22分と長いですが前澤氏が登場するのは26分15秒くらいからです。まずイーロン・マスクは「BFRの開発をするにあたりそれに乗ってみたいという民間のお客さんが乗船料を払ってくれることは必須になる。そこで最初のお客様を紹介したい」と言います。ここから見てください。
かつてアップルのスティーブ・ジョブズは新製品お披露目イベントでファンの事前の期待を盛り上げることがたいへん上手い「演出家」だと評されました。こんにちアメリカの経営者の中で一番そういう演出が上手いのはイーロン・マスクです。この動画では、スペースXの本社工場に置かれた実物のロケットの間を前澤氏がゆっくり歩いてくる様子が捉えられています。
なおこのホーソーンの本社兼工場は、もともとノースロップがボーイング747の胴体部分を下請けするために建設されたものです。つまりとても大きな空間であり、そこを前澤氏が悠々と歩いてくるわけで詰めかけた報道関係者は「一体、誰だ?」と期待感が高まるわけです。
彼の態度は堂々としていて余裕に満ちています。まず「Thank you, Elon.」とお礼を言って「Thank you, everyone.」と報道関係者にお礼を言います。
これは当たり前のことのように思うかもしれませんが、実は日本人の殆どが出来ない(!)のです。欧米で人前でスピーチをするときのキホンのキですので、皆さんもこのやり方をパクること。
つぎに「Wow!(わお)」という感嘆の声を発します。これも、本当に日本人には出来ないことです。前澤氏が外国暮らしをしたことがあることが、この一声でわかります。
次に「I'm from Japan.」と言います。つまり「日本から来ました」ということです。これは極めて効果的な口火の切り方です。なぜなら上に述べたようにワクワク期待させて、東洋人が歩いてきて檀上に登るわけだから「こいつ、一体なにもの?」という疑問を全ての報道関係者が持っているからです。だから「日本人です」という切りだし方は適切。
そして「My name is Yusaku Maezawa. You can call me MZ(エム・ズィー)」と言います。
ここがとても、とても大事なことなのですが、気がついた方も多いと思いますがイーロン・マスクですら前澤氏の名前を発音するのに苦しんでいるわけで、そこで前澤氏は「オレのことエム・ズィーと呼んでくれればいいから。」と助け舟を出すわけです。
しかし本当は、前澤氏がやっていることは、自分のブランディングです。つまりアメリカ人から彼を「エム・ズィー」と呼ばせることで、アメリカ人にも親しみを持ってもらえることが出来るからです。
ZOZOはコンシュマー・ブランドでありスタートトゥデイの野望がグローバルである以上、BFRによる月旅行はスタートトゥデイ社にとってまたとないパブリシティの機会です。その大事な局面で「名前が発音できない」では、折角のチャンスを逸してしまうわけです。
この間、19秒。
みんなもわかるとおり、難しい単語や言い回しは、一切していません。でも19秒で聴衆のハートを掴んでいる。
もし、これをフツーの日本人にやらせたら、たぶん「ユー・キャン・コール・ミー・エム・ゼット」とやってしまうでしょうね。
ゼットは日本語です、つうじません。ズィー(Z)が正しいです。
そろそろダサい日本語英語から卒業すること。
それからもうひとつ苦言を呈すれば「あいつは英語は出来ないけど、仕事は出来る。だから英語はカンケーない」という時代は、そろそろ終わりつつあります。
仕事の出来る日本のビジネスマンの大半は、ちゃんと英語も喋れます。その現実を直視すること。
(2018年9月18日「Market Hack」より転載)