中国人ジャーナリスト・周来友(しゅう・らいゆう)さんの活躍の場は広い。
ジャーナリストとして主に中国社会を取材し、民放の番組や雑誌などで伝える傍ら、バラエティ番組では中国人代表としてひな壇に座る。
ひな壇では「中国の文句言うんだったら漢字使わせないぞ!」など、かん高い声で「中国の偉大さ」を主張してスタジオをかき乱すシーンが印象的だ。
その周さんが、ファン0人からYouTuberを始めた。視聴者数はお世辞にも順調には増えていない。月間約150万円の投資ばかりが吹き飛んでいく。
それでも、自分の作るメディアにこだわる理由が周さんにはある。バラエティで見せる「愉快な中国人」の仮面を外した周さんを取材した。
■二丁目のゲイバーにて
新宿二丁目の交差点に立った周さん。ブツブツと口元で呟くのは、これから始まるオープニングで喋るセリフだ。
カメラが回る。パッと明るい表情を見せると、中国語で話し出す。
「ゆあチャン!今は夜9時半!新宿2丁目を知っているかい?ゲイバーとかが集まっている場所なんだ...」
周さんが2019年4月から始めた動画チャンネルの収録だ。日本では「ゆあチャン」という名前でYouTubeにアップしている。中国では「您的频道」名でビリビリ動画というプラットフォームを使っている。いずれも「あなたのチャンネル」と言う意味だ。
この日訪れるのは二丁目のゲイバー。ママのタクヤさんは中国にもファンが多いという。出演したテレビ番組の動画が、中国のネットで拡散されたからだ。
収録には、制作会社に所属するプロの放送作家やカメラマンが参加する。事前に練られた台本をもとに、周さんが「中国で人気が出たのはどう思いますか?」などと質問をし、タクヤさんとのトークを繰り広げていく。
ロケは1時間ほど。収録した映像素材は5〜10分程度に編集しネットにアップされることになっている。
■“思っていることと違うことを...”
元々、テレビなどに発信の場を持つ。
それでも、1から自分のチャンネルを持つことにこだわった。「テレビで、アドリブ(で喋ること)もあるけどね。でも、本当に(放送で)使われるのかなって思ったりするんです。これは自分の番組だから、100%使いたい場面を使える」と、自分の思い通りに制作できるのが魅力の一つだ。
動画のネタも全て自分で決める。ゲイバーを選んだのも、単に中国で人気があるからではない。「中国も同性愛などをだんだん認める方向になってはいる。でも日本には及ばない。見本ではないけど、色々な人を受け入れる場所もあることを知ってほしい」という狙いからだ。
一番大きいのは「ひな壇」に座る自分の仮面を外せることだという。
「僕はあくまで使われる側だった」という周さん。
テレビが求める“愉快な中国人”に応えようとするあまり「必ずしも自分が言いたいことを言えない時もあったし、自分が思っていることと違うこと(を喋ること)もたまにあった」と打ち明ける。
「素の周来友」になって喋る時間にやりがいを感じている。だが、成果はまだ上がっていない。
YouTubeはチャンネル登録者140人ほど。動画の再生数も数百回程度だ。本命の中国では、再生数が100に届かないものもある。
だが、周さんはとにかく質にこだわる。放送作家と共に台本を考え、プロカメラマンに撮影を依頼し、専門の編集者と制作する。
出来栄えは民放のバラエティと比べても全く遜色がない。それだけに制作費も高くつく。一本の撮影、編集で約30万円。一月だいたい150万円ほどの出費だ。
「(出費は)痛いですよ。気長にはできない」と本音も漏れる。それでもこれからも続けていくつもりだ。
「1年間で登録者5桁(1万人)が最低ラインです。テレビでわいわい言っているのとは違う私が見られますから。もうちょっと見てもらえるんじゃないかな」