自分をハッピーにできるのは自分だけ。だから、めいっぱい生きる。NY在住・佐久間裕美子さんの生きかた

ひとりで自分らしく生きるってなんだろう?

アメリカに住んで20年になるフリーライターの佐久間裕美子さんが、本を書いた。冒頭のかっこいいタイトルを見て、「ヒールなら履いてもいいのかな」「いつでも動けるような靴を選んでいるのかな」などと考えをめぐらせた。

Kaori Sasagawa / HUFFPOST

本からは、ニューヨークの女性たち生き方を通じて、女性がひとりで立って、歩いて、自由に生きていくことへのエールが伝わってきた。離婚した元夫の病やその家族との佐久間さん自身のエピソードも染み込んできた。

ひとりで自分らしく生きるってなんだろう? 帰国中の佐久間さんに、これまでの歩みや人生のヒントを聞いた。「幸せのかたちは一人ひとり違っていい」と語る佐久間さんは、スニーカーがよく似合っていた。

Kaori Sasagawa

ーーアメリカに住んで20年。『ピンヒールははかない』の冒頭にありましたが、ゼミの教授の言葉が、佐久間さんの背中を押したきっかけだとか。

今でも、言われた瞬間を思い出します。ゼミの1回目の懇親会で「自由人になりたかった」と言われて、「ああ、私もそれ目指す」って思ったんです。

そのとき先生は、「自由人は通勤列車に乗らない」とか「定期を持たない」とか、そういうことを言ったんですけど、私はそれを勝手に膨らませて「縛られない人間になりたい」と思った。

——本には、ニューヨークで生きる女性たちの生き方、恋愛が描かれていました。本を書くことになったきっかけは?

女性のことを書きませんかというお誘いをいただき、自分の周りにいる女友達が、自分が幸せに生きられるための存在としてセーフティーネットになってくれている。 その人たちのことを書こうと思いました。

——たとえば、離婚して女性と同性婚した人やレイプ被害者など、すごく多様な人たちが登場しますね。佐久間さんの身近な人を描かれたのでしょうか。

本を書くために、普通に会社に勤めてる人も含め、たくさんの女性の話を聞きました。

ただ書いているうちに、やっぱり一番インパクトのある、際立ったストーリーを選んだので、結果的にそうなったのかもしれません。変わった人、人と違う考え方をできる人が好きだというのもあるかもしれませんね。

——彼女たちから学んだこと、感じたことは?

幸せのかたちは一人ひとり違っていいし、自分の状況設定も一人ひとり違う。それは自分が決めればいい。

家族や他人、世間の常識でいわれたりすることをベースに人生を作っちゃうと、やっぱり絶対、どこかで精神的な齟齬みたいなものが出てくる。

自分のことをハッピーにできるのは自分だけで、状況や他人、他人からの承認とかは、本当には自分をハッピーにしてくれないんだなあって思いました。

——なかでも印象的だったのは?

夫を捨てて、夫の部下の、しかも女の子と一緒に暮らす道を選んだヘレナは、勇気あるなと思うし、私がその状況になったらその選択を取れるか分からないけど、多分彼女の中ではこれしかなかった。

娘たちに伝えたときにどう反応するか、と考えてしまうと思うんだけど、愛のない結婚をするより、同性間でも愛を教えてあげたいって、彼女は思ったんでしょうね。

夫婦間で愛がないことを当たり前だと思って欲しくなかった、というのが、彼女が母親として思ったことだから、世間一般のかたちとは違うかもしれないけど、お母さんが誰かと愛し合う姿を見せる方が健全だと思ったんだと思うんです。

——大学でレイプ被害を受け、犯行現場のマットレスを引きずる女子大生のことも書かれています。ニュースは当時、ハフポスト日本版でも大きな反響がありました。彼女主催のイベントが初対面だったんですか?

初対面だった。普通にイベントのPR担当者から「アーティスト本人があなたを招待したいと言っています」ってメールが来たのね。エマ・サルコウィッツって聞いた名前だなと思ってGoogle(で検索)したらニュースがずらずらっとでてきて「お! 絶対行く」と思った。

彼女のストーリーも読んでたし、ニューヨークタイムズの一面には、顔は出なかったけど、彼女が告発した男性の反論も出ていて、ニューヨークではすごく有名なストーリーだったんです。

イベントは、「彼女が招待客全員と喋る」というテーマだったから、短く話をしたんですけど、私の存在を知っていたみたいで、改めてちゃんと話を聞きたいなと思った。

——後日、一緒にお茶をされていました。話した印象は?

本当に普通の子。私たちって、子どものときの刷り込みとかトラウマとかが人格形成に影響しているじゃないですか。彼女は両親とも精神科医で、良くも悪くもそれが彼女の人格を形成していた。

自分に対するリアクションがアート表現になっていて、気持ちを吐き出す場所が彼女にとってたまたまアートだったんですね。本当に一生懸命生きてる。自分の傷や抱えてるものに真正面から向き合ってる一人の女の子なんだって感じでした。

——本に登場したのは、みんな"一人の女の子"でしたね。

みんな本当にそうなんですよ。エマの場合は大騒ぎになっちゃったけど、でも普段の彼女は普通の女の子だし。普通が何なのか、もう分からなくなってくるんですけど、愛する人と一緒に居たいとか愛されたいとか、理解されたいという人間の欲望レベルではみんな一緒っていうか。

——ちょっと話が逸れますが、女性同士で生理の話とかしますか?

しますよ、いつも。私はずっと、みんなが恥ずかしいとか言うことをあえて話したいってタイプだったから。でも私が話すとみんな話してくれるから。もうお腹痛くて倒れそうだとか。何にも恥ずかしいことはない。大きな声で言わないの、ってたしなめられますけど。

アメリカ人は基本、元々オープンでお風呂でも体を隠さないし人も多いし、30くらいのときだけど、アメリカ人の女子と初めて出張したときもトイレのドア開けっ放しで普通にパンツ降ろしてジャーって。最初はびっくりしたけど、そういうもんなんだなって。そのまましゃべり続けました。

男の人にいうのは嫌かもしれないけど、女性だったらみんな抱えてることだから。私はそんなでもないけど、生理痛が激しすぎてピル飲んでる子とかもいるし。

日本人の友達でもそういう子いるし。自分だけが痛いと思ってるとすごいつらいけど、みんな痛いんだと思うと軽くなるから。もっと話そう、話そうって感じですよ。

Kaori Sasagawa

——前の夫の病気や、その家族との悲しいエピソードなど自分の経験を書くことは、どんな意味がありましたか?

セラピー的な役割を果たしてくれたなと。

今までは、つらいことには蓋をしたいと思ってた。離婚したこともなかったみたいな感じで蓋をしてきちゃった。だから私が結婚してたっていうことを知らない人もいっぱいいた。でも、ああいうかたちで彼と一緒に居たことを、書くことで消化してもいいんじゃないかと思った。

最初は発表するつもりで書いたわけじゃなくて。 この気持ちどうすればいいの? みたいな感じで、夜中にベロベロに酔って、へべれけな状態で書いたんです。彼が亡くなって、まわりの友人たちが心配してくれて、夜ご飯食べに連れ出してくれてたんだけど、それでも12時には終わっちゃう。

そこから一人で延々にやけ酒を飲んでる時期に、やっぱりこの気持ちを吐き出しておかないと、と思って、わーっと書いたものを、この本に入れてもいいかなと。たまたま私が連載をさせてもらってる1年間に起きたことを、発表しないのはずるいというか、嘘をつくことになると思った。

連載が完結してまとめる作業をしてるときに、(前夫の)お母さんががんになって、最後に何日か一緒に過ごすことができて、それも(この本に)入れることができたので、今はやっぱり書いて良かったと思っています。書くことがセラピーになるっていうのは、やってみるまで全然気がつかなかった。

——自由を大切にして、ひとりで生きる佐久間さんが、セーフティーネットが必要だと感じたのは、2年前に足を怪我された経験が大きかったですか? 足を3カ所骨折して、半年間自力で歩けなかったそうですね。

もう本当に人生変わりましたよ。それまで4時間睡眠とかで生きてたから。ずっと仕事してたし、4時間しか寝てなくても遊びに行っちゃうし、ひどいもんでした。

見直しましたよ。やっぱり、健康。

私の身体は壊れないって思ってたから。突っ走ってて、自分のキャパとかを考えずに仕事はすべて引き受けていたし、かといって遊びに行かないのもありえない、みたいな感じだったから。

楽しいこともやりたい仕事も全部引き受けて、後は何とかなるでしょみたいな感じで。そしたらそういう大事件が待ってた。あのままいってたらどっかで死んでたかもしれないし、怪我の功名とはよくいったもので、根本から自分の生活を見直す結果になったので良かったですよ。

——他に、ふり返って、どん底だったときはありますか?

ある恋人と別れたときに、大きなプロジェクトがあったから走り続けたんだけど、それが終わったときに燃え尽き症候群のような状態になって、ベッドから起きられなくなったことはありますね。

長い間、(コムデギャルソンのデザイナーの)川久保玲さんをインタビューしたいと思っていて、それが実現しちゃったときにちょっと呆然として、これからどこを目標にして生きていったらいいのか、と思ったりもしました。目標があるって大事なことなんだなって気がづきました。

ーー自由に生きたいけど、将来やお金が不安。そういう人も多いと思うんですけど、佐久間さんがメッセージを送るとしたら?

私はとにかく能天気だから、そんな風に言われてもって思われちゃうかもしれないんですけど、不安って何もプラスは生まないとは思っています。

不安に感じたところで、貯金するとかはできるかもしれないけど、不安自体は何も生まないから、ネガティブな気持ちになるだけ無駄だと思う。無駄っていうと言い方悪いけど。

自分の精神と肉体は繋がってるから、不安も精神から出てくるもののような気もする。不安に思ってウジウジしてるひまがあったら解消するために体を動かした方がいい。

私のソリューションは深く考えないっていうことなんです。ちょっとネガティブな気持ちになるときもあるけど、そういうときは大体生理前だし、それに対するソリューションは、体を動かすか、思いっきりこれ以上落ちないっていうところまで落ち込むか。それしかない。

ーー不安は何も生まない。

明日人生終わっちゃうかもしれないのに、最後の日に不安におののいていましたとか、嫌でしょう。

最近立て続けに、この本出した後も3人ぐらい友だちががんで死んじゃって、本当にいつ終わるか分かんないなって思ってる。いつ終わるか分かんない人生を、不安に苛まれて生きたくない。

やりたいことは簡単なことでも良くて。たとえばタイに行きたいとか、行ったことのないところに行くとか、そういうことでまた新しい世界が広がったりとかするから。

でも一番のチャレンジは、年を取ることを面白いと思いながらやり続けること。そのために、じゃあまだやってないことは何だ? って常に思い続けてないといけない。目を開けば転がってると思うんですよ、その辺に。

私だって、川久保さんにインタビューできる日が来るなんて自分では夢にも思ってなかった。若いときは、一生の目標、一生そこを目指して行くんだ、ぐらいの感じに思ってたら、意外と早く実現しちゃった。今は、強く願うと大体叶うんだなって思ってます。

ハフポスト日本版は、自立した個人の生きかたを特集する企画『#だからひとりが好き』を始めました。

学校や職場などでみんなと一緒でなければいけないという同調圧力に悩んだり、過度にみんなとつながろうとして疲弊したり...。繋がることが奨励され、ひとりで過ごす人は「ぼっち」「非リア」などという言葉とともに、否定的なイメージで語られる風潮もあります。

企画ではみんなと過ごすことと同様に、ひとりで過ごす大切さ(と楽しさ)を伝えていきます。

読者との双方向コミュニケーションを通して「ひとりを肯定する社会」について、みなさんと一緒に考えていきたいと思います。

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