フィリピンを想い、横浜で考える食の未来

この冬、日本の私たちが経験した大雪も、昨年11月にフィリピンを襲った台風30号(ハイエン)もまだ多くの人の記憶に新しいだろう。いずれの場合も、食を支える農業そして漁業が大きな打撃を受けた。温暖化が進むにつれ、こうした極端な気象現象による自然災害の頻度が増えることが予測されている。

この冬、日本の私たちが経験した大雪も、昨年11月にフィリピンを襲った台風30号(ハイエン)もまだ多くの人の記憶に新しいだろう。いずれの場合も、食を支える農業そして漁業が大きな打撃を受けた。温暖化が進むにつれ、こうした極端な気象現象による自然災害の頻度が増えることが予測されている。対策が取られなければ、2050年には、新たに5000万人が飢餓の脅威に直面する。気候変動は、私たちの食、そして世界の飢餓問題の最大の脅威ともいえるのだ(1)。

台風ハイエンの被害を受けたフィリピン、レイテ島の26歳の漁師、ジョエルさん。台風で家は完全に崩壊、かき集めた廃材でどうにか家を作った。船はもちろん、網などの道具も全て失った。今は、海沿いを歩き、拾い集めた金属の廃材を売ることで少しばかりの現金を得ている。お金を貯めて船を買い、再び漁業に戻りたいという。しかし、台風によって大切な生態系であるマングローブや珊瑚礁も破壊され、水産資源は台風以前の40%に激減している。復興への道のりはまだ長い。

3歳の息子を抱きながら、無惨な姿のヤシの木の間を行くのは、同じくレイテ島のココナッツ農家のザカリアスさんだ。家は、なぎ倒されたジャックフルーツの木に潰されて損壊したという。ココナッツは、フィリピン農業においてコメやサトウキビと並ぶ重要品目。この地域では、ココナッツ椰子の9割が失われた。椰子の木は、その成長に平均6年から8年が必要だ。農家は、代替収入源の確保が必要だ。

日本の私たちも、決して気候変動の影響から免れることができない。昨年11月からの記録的な大雪による農林水産業への損失額は、1200億円を超えた(2)。 日本の農業や漁業が異常気象などの自然災害に襲われるリスクはもちろん、食料の60%を輸入に頼る日本は、世界の食料生産・供給の動向に左右される。

一方で、日本のような先進国とフィリピンのような途上国における決定的な違いもある。途上国では、農業や漁業など、生活基盤を自然資源に依存する人々が多い。加えて、様々な社会インフラが脆弱なのが途上国の特徴だ。また、貧しいほど、食費が家計支出に占める割合(エンゲル係数)は高い傾向にある。つまり、途上国の人々にとって、気候変動の影響、また、食料生産へ被害などに伴って高騰する食料価格の影響は、より直接的で深刻だと言える。

例えば、2012年の米国における干ばつで生じた農作物の損失のうち、農作物保険の補償対象となったのは、損失額の75%。一方、フィリピンを襲った台風ハイエンによる農作物の損失額のうち補償対象となったのは、全体のわずか6%に過ぎなかった。

また、正確な気象情報の把握と提供は、気候変動に直面する農家への大きな助けとなりうる。しかし、日本では約1,200平方キロメートルに対し1カ所の割合で観測所が整備されているのに対し、アフリカのチャドでは、80,000平方キロメートルに1つしかない。こうした整備の違いは、情報収集や伝達機能の大きな違いをもたらし、災害時の備えの有無や程度に直結する。

今週、横浜では、国連気候変動交渉に対し、気候変動に関する科学的見地の根拠を提供してきた、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第2作業部会総会が開催されている。31日に発表される第5次報告書「影響と適応策」では、気候変動が世界の食料安全保障にもたらす脅威が過去の予想以上に深刻な課題であることを示す新たな証拠が示される見通しだ。

日本を含め、世界では気候変動への取組みがなかなか進まない。新たな削減努力と適応のための備えが講じられることがなければ、日本の平均気温は、21世紀末には6.4℃上昇すると言われている(3)。

気候変動は、遠い未来の話ではない。私たちの食を支える農業や漁業への影響は各地で既に見られている。適切な気候変動対策への取組みが、この先20年の飢餓に直面する人々の具体的な数を大きく左右する。日本のエネルギーと食のあり方を持続可能なものへと変えていくべき時は、今しかない。

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