スイス・スーパーリーグ第4節でバーゼルはチューリッヒを4-1で下した。この試合で途中出場した柿谷曜一朗は、1ゴール1アシストの活躍。欧州でも屈指の熱狂的なサポーターを湧かせ、監督の評価も大きく上げた。
■ファンにとっても絶対に負けたくない一戦
本拠地ザンクト・ヤコブ・パルクでのデビュー戦での活躍は、柿谷曜一朗にとって大きな成果となった。【写真:Getty Images】
出場2試合目で1ゴール1アシスト。3万3372人が詰めかけた本拠地ザンクト・ヤコブ・パルクでのデビュー戦での活躍は、柿谷曜一朗にとって大きな成果となった。
スイス・スーパーリーグの5連覇王者バーゼルは、開幕3連勝で臨んだ第4節でチューリッヒと対戦。チューリッヒは、ここまで消化が1試合多く4連勝で首位に立っているチーム。昨シーズンはリーグ戦こそ5位だったものの、カップ戦ではバーゼルを破って優勝を果たしている強豪クラブである。
バーゼルは、そんなライバルとの一戦で4-2-3-1を採用。柿谷は第3節に続いてベンチスタートとなった。
GK:トーマシュ・ヴァツリーク
CB:ファビアン・シェア、タウラント・ジャカ
SB:(右)フィリップ・デゲン、(左)マレク・スヒー
CH:マルセロ・ディアス、ファビアン・フライ
WG:(右)シュケルゼン・ガシ、(左)デルリス・ゴンサレス
トップ下:ルカ・ズッフィ
FW:マルコ・シュトレラー
昨シーズンはリーグでのホーム戦18試合で11勝6分け1敗と圧倒的な強さを誇ったものの、この1敗はチューリッヒ戦で喫したもの。スタジアムへ足を運んだファンにとっても絶対に負けたくない一戦だったはず。そんなファンの声援を背に前半はバーゼルが主導権を握った。
前半23分、左サイドから切り込んだゴンサレスがエリア外から放ったシュートはGKに弾かれるものの、その後バーに当たって跳ね返ったボールに詰めたガシが押し込んで先制点を挙げた。
さらに同39分、フライのスルーパスから右サイドを抜け出したデゲンのクロスにズッフィが左足で合わせて2-0。バーゼルは、最大のライバルを相手に理想的な展開で前半を折り返した。
■敏捷性を発揮した柿谷。監督の意図を理解して実践
しかし、後半に入ると戦況は一変。バーゼルは2点を奪ったことである程度引いてカウンターを狙う戦い方にシフトしたものの、全体的に積極性を失ってプレスが甘くなったことでチューリッヒに攻め込まれる場面が多くなった。
そして後半10分、エリア内に走り込もうとしたフランシスコ・ロドリゲスをスヒーがエリア手前で倒してFKを献上。これをアミン・シェルミティが直接決めて2-1。早い時間帯に1点差に詰め寄られた。
その後もチューリッヒがペースを握る状況が続き、同点、逆転という展開もイメージ出来てきた同16分、柿谷がガシと交代でピッチに投入。トップ下だったズッフィが右ウイングに回り、柿谷がトップ下の位置に入った。
1点をリードしているものの、勝利のためにはこの1点を守りながら3点目が欲しいパウロ・ソウザ監督は、カウンターの威力を上げるために柿谷の敏捷性をチームに加えた。
そして、この采配は的中。柿谷も監督の意図を完璧に理解して実践。ファーストプレーのドリブルは相手のファールで止められたものの、その後の活躍を予感させるものだった。
さらに、同点を目指して前掛かりとなっていた相手DFラインの裏を狙う動きを繰り返すと同29分、ズッフィとのパス交換で相手DFの裏に飛び出して移籍後ゴール。欧州でも屈指の熱狂的なサポーター達を大いに湧かせた。
同33分にはシュトレラーがマティアス・デルガドと交代したことで柿谷がセンターフォワードの位置へ。その後、同42分にはトップ下に入ったデルガドのゴールをアシスト。
GKヴァツリークのFKを左サイドで受けてピッチ中央のデルガドへパスを送ったこのアシストは、柿谷の敏捷性が生きたプレーだった。
■成長出来る環境とビッグクラブへの道が広がるバーゼル
バーゼルというクラブは、柿谷が成長出来る理想的な環境が整っている場所だ【写真:Getty Images】
もちろん、このプレーだけではなく、ファーストプレーとなるファールで止められたドリブルも、裏を狙う動きも、移籍初ゴールもスピード感のあるプレーであり、パウロ・ソウザ監督の狙い通りだったはず。
バーゼルにとって難しい展開で、試合の流れを変えなくてはいけない状況での起用とあって、監督の期待の高さも伺える。柿谷にとってもこのチャンスを生かすどうかは今後を大きく左右するものだったが、その評価を大きく高めたはずだ。
ただ、得点経過を見ても分かるように4得点全てにガシ、ゴンザレス、ズッフィ、デルガドという2列目の選手が絡んでいる。さらに、FWのシュトレラーは主将でありクラブのレジェンドとなる存在だけに強力なライバルだ。やはり、リーグ5連覇中でチャンピオンズリーグ常連クラブは選手のレベルが高い。
しかし、シュトレラーは192cmと長身でフィジカルが強く、ポストプレーを得意とする選手。柿谷とは真逆のタイプということもあって、チームの戦い方に幅を与える存在として重宝されるだろう。
また、2列目で起用されるにしてもハイレベルな選手たちとの競争は成長を大きく促してくれる上、国内リーグのレベルは高すぎず低すぎずといったところで、海外初挑戦の柿谷にとってプレーしやすいと言える。
その一方でバーゼルはチャンピオンズリーグにも出場するため、より高いレベルでのプレーも出来る。そして、チャンピオンズリーグで欧州各国へのアピールも出来るため、ビッグクラブへの道も広がっている。
近年では、バイエルンのジェルダン・シャキリやチェルシーのモハメド・サラーがチャンピオンズリーグでの活躍をきっかけにバーゼルから羽ばたいている。
バーゼルというクラブは、柿谷が成長出来る理想的な環境が整っている場所だ。移籍先の選択は、良くも悪くも選手のキャリアに大きな影響を与えるが、バーゼルへの移籍という柿谷の選択は正解だったと数年後に振り返るこが出来るはずだ。
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(2014年8月10日「フットボールチャンネル」より転載)