「ヘルシェイク矢野ではありません(笑)」 矢野正明は『ポプテピピック』出演で人生が変わった

「少しずつ親孝行もできるようになりました」
アニメ「ポプテピピック」公式サイト

声優・矢野正明、『ポプテピピック』出演で仕事急増 「平穏な生活に戻りたい」

TOKYO MXなどで放送中の人気アニメ『ポプテピピック』に、脇役で出演している声優・矢野正明。アニメは30分の放送中、前半と後半ほぼ同じ内容で、毎回メインキャラクターのポプ子とピピ美を、大御所声優や人気声優が入れ替わり担当することでも話題となっている。矢野はその話題作に第5話以外すべて出演。その影響で現在、仕事の依頼や問い合わせが急増しているという。「平穏な生活に戻りたい」とうれしい悲鳴をあげている彼は、アニメ作品関連のインタビューも今回が初。今の率直な気持ちを聞いてみた。

■モノマネ初挑戦で評価は上々も「手応えはない」

 『ポプテピピック』の出演が決まったのは収録日の前日でした。有名なアニメのキャラクターに似た役(※第1話、"モンスター"らしきキャラクター3体が登場するシーン)だったので、すぐに自宅に帰って役作りをしましたね。そのアニメは小さいころ見ていたので思い出しながら、ものまねをする感じで。第三者からの意見を聞こうと思い友人や友人の子供に電話越しで披露しましたが、子供から「なんか違う」と言われてしまって(笑)。なぜ駄目だったのか考えると、自分が見ていた世代と今の世代のキャラクターにギャップがあることがわかりました。急いで研究し練習をして、本番は声に抑揚を付けて修正しました。そしたら共演者やスタッフの方から「クオリティー高すぎ! 普段から(ものまね)するの?」と言ってもらえて。ツイッター上でも「(ものまね元の)本人だと思った」と書かれているということを聞いて、うれしかったですね。自分自身では似ているかどうか自信がなかったので、周囲の反応をみてホッとしました。

 その後の仕事で面白いことがありました。実は第1話のオンエア終了後に、自分がものまねをしたキャラクターを演じている方と共演する機会があったんです。その時は「もし自分がものまねをしたことを知っていたら、快く思っていなかったら、どうしよう」とビクビクしていました。(笑)本人が知っていなくても、周りの人が伝えたりしているかも知れないので、その日は落ち着きませんでした。

■第1話終了後、ツイッターのフォロワーが約2倍「世の中に監視されている感じ」

 第1話の放送終了後、『ポプテピピックに出演しました』とツイートしたところ、『リツイート』や『いいね』の通知が止まなくて、しかもどんどんフォロワーが増えて行く。この日から1週間は、人生で初めて通知の音をオフにしました。最終的にフォロワーは、放送前と比べると2倍くらいになりましたね。『ポプテピピック』関連のことをつぶやくと普段よりもコメントや反応が増えて、急に100リツイートされたりするんです。うれしいことなのですが、急に世の中から監視されているというか、たくさんの人に見られている感じがしてドキドキしてしまいます。うれしい反面、早く平穏な日々に戻りたいです(笑)。

 ただ、アニメに出演してから、4年ぶりに友達からメールが届いたり、現場で会う人から「あの役、矢野さんでしょ。現場どんな雰囲気なの」と話しかけられることが多く、距離が縮まりました。自分から話しかけることは少ないので、良いコミュニケーションのきっかけにもなっています。

■アニメ作品への出演依頼増加も自身の「声優論」に矛盾し苦悩

 今までは海外ドラマや洋画の吹き替えのお仕事をいただくことが多かったのですが『ポプテピピック』に出演してから、名前のある役で呼んでいただけたり、アニメ作品の依頼や問い合わせも、約2倍に増えたと聞いています。スケジュールも休みはありますが、ありがたいことに、以前より仕事のお声がけをいただいている気がします。最近、少し広い部屋に引っ越ししたり、親に旅行をプレゼントしたりと経済面では安定しました。少しずつ親孝行もできるようになりました。

 ただ、わがままに聞こえるかも知れませんが、目立つことは苦手で(笑)アニメや映画を視聴していると「あ、あの声優さんだ。この役もやっているのか」と気付かれる方もいるじゃないですか、個人的にはそれが悔しいんです。持論になりますが、一回現実に戻るじゃないですか。声優さんの名前を知らない小さいころは、ストレートにアニメの作品の世界に入れた。有名になると「あの声優さんだ!」と(視聴者を)素に戻らせて、「作品を100%の気持ちで楽しんでもらえなくなるのでは」と申し訳なくて。なので、エンドロールを見て初めて「あ、矢野さんが演じていたのか」と言われたら「やった!」と思いますね。

 主役がやりたくないわけではないのですが、やれば確実に目立ちますよね。ここの矛盾は感じます。例えばイケメンのキャラクターを演じることになれば、ファンの方は「どんな声優さんが担当しているのだろうか」と興味を持って調べてくれたりすると思うんです。そこで自分が出てくるのは怖いですね。(笑)マネージャーには事務所HPのプロフィール写真を消してほしいくらい(笑)。今回のインタビューも「目立つこと」かも知れませんが、『ポプテピピック』は自身が出演させていただいた中でも思い入れの強いアニメ作品のひとつなので、出演者やスタッフ、作品に対して感謝の気持ちを伝えることができればいいなと思い引き受けました。

■大御所声優の演技を間近に見て圧倒「とんでもない経験値に」

 アニメを見返していると、大御所の方、人気声優の方々の掛け合いの現場を思い出してしまいます。「もう二度と見られないな」って。視聴者を楽しませるために、真剣に全力で、即興劇にようにお芝居をする姿を間近で見られて「その演じ方、引き出しは思いつかない」と毎回貴重な勉強の連続で、とんでもない経験値になりました。今の自分に甘えちゃ駄目だと実感しました。ただ、収録中に笑いを堪えるのが大変で。楽しい現場なのですが「(笑い疲れるので)現場に行きたくない」という矛盾が生まれたくらいです(笑)それを考えると、寂しいのでずっと続いてほしいですが、そうすると、またツイッターの通知が鳴り止まなくなるので難しいですね(笑)。

 「(アニメ内の)"くちばし男"や"魔王 "と言った面白いキャラの役作りはどうやっているの」と聞かれることがありますが、自分は最初に見た絵や映像のイメージを大事にしています。視聴者の方も初めて見るようなキャラなので。ですが、収録の雰囲気や流れを崩さないように、自身が用意していたプランを変えることもあります。こういう対処の仕方は感覚的ですが、今までいろいろな役を演じてきて得た経験が、今回の作品で活かせたかなと思います。あと、ヘルシェイク矢野ではありません(笑)

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