新聞社や出版社からの記事配信を受け、日々無料で記事を公開しているYahoo!ニュース。実は、これ以外にも良質な記事を有料で購読できるサービスを提供しています。さらに2018年春からは、媒体ごとではなく1記事単位での購入も可能になりました。
記事単位での販売は、紙の雑誌にはないネットならではのサービスです。これにより、有料記事の流通やユーザー体験はどのように変わるのでしょうか? 有料記事サービスの運営に携わる3人のスタッフに話を聞きました。
取材・文/友清 哲
編集/ノオト
Tポイント対応でより購入ハードルの低いサービスに
Yahoo!ニュース 有料のPC版トップページ
「記事単位での課金は、2017年11月末からテストマーケティングを進めていました。背景にあるのは、フェイクニュースの蔓延が問題視される中、より信頼性の高い有料記事のニーズが高まったことです。さらに、記事の内容にかかわらず一定額を要する月額課金よりも、ハードルの低い購読システムが求められていたことが挙げられます」
Yahoo!ニュースの有料記事提供についてこう説明してくれたのは、ヤフー株式会社メディアカンパニーの田中淳子さんです。2018年8月20日現在の対応媒体は、「文春オンライン」「週刊東洋経済」「現代ビジネス」「週刊ベースボールONLINE」「Forbes JAPAN」「FOOTBALL CHANNEL」「SOCCER DIGEST」「ASIA PRESSINTERNATIONAL」「THE PAGE」の9媒体。記事の価格は10~300円で、媒体側が任意に設定しています。
購入のオペレーションは実に手軽です。Yahoo! JAPANヘログインした状態であれば、読みたい記事をセレクトして「記事を単品で購入する」ボタンを押すのみ。購入確認画面を含め、実質2クリック程度で決済が完了します。現在は、Yahoo!ウォレットもしくは保有するTポイントで支払うことが可能です。
ユーザーとしては、ポイント利用の選択肢が増えるのは大歓迎でしょう。お金を払って記事を買うことに何となく抵抗がある人でも、Tポイントならその心理的ハードルを大きく下げてくれそうです。
記事単位の有料提供は、媒体側からも強いニーズがあったと田中さんは語ります。
「コストをかけてつくられ、かつYahoo!ニュースに配信されていない良質の記事が世の中には多数存在しています。一方で、ネット上でのマネタイズ戦略に頭を悩ませる媒体は少なくありません。今回のサービスがそれらを解決する手段になれば、と考えています」
ユーザーと媒体、それぞれの利害がぴたりと一致したこのサービス。今後はより一層、オンラインにおいて有料記事の提供が進みそうです。
記事単位の販売が、媒体側に与える恩恵とは?
Yahoo!ニュース媒体担当者の松田有美香さんは、有料記事の特性について次のように語ります。
「これまでネット上の記事は無料で読めるのが当たり前でしたが、媒体側には当然、オンラインでのコンテンツ販売を望む意見が多々ありました。しかし、自社でそうしたシステムを運用するには、流通や決済のシステム構築に高いコストとノウハウを要するため、なかなか実現できずにいたのが実情です。その点、Yahoo!ニュースのシステムに参加するだけで複数の決済手段を利用できるのは、媒体側にとって大きなメリットでしょう」
Yahoo!ニュースは現在、記事の売り上げの7割を媒体側に還元しています。そのため、早くも参加に前向きな意向を示す媒体社は少なくありません。現在のラインアップはニュースとスポーツが中心ですが、これからさらに拡充していく見通しです。
同メディアカンパニーの浅井直樹さんは、この有料記事サービスの活用法が少しずつ多様化していると説明します。
「例えば『文春オンライン』では本誌の発売前日、毎週1記事だけ先に販売しています。コンテンツの発信を紙だけに留めず、オンラインでのリーチを増やすために、いろいろな可能性を探っている段階ですね。実際のところ、週刊誌の中吊り広告を見て、目当ての記事だけをその場でスマホから購読できる時代が到来しつつあります」
さらにYahoo!ニュースを活用したオンライン販売では、マーケティング機能のアウトソーシングも期待されています。
「弊社の仕組みを使えば、Yahoo!ニュースから媒体社に購読者の属性情報や統計データなどを提供することができます。今後のコンテンツ販売戦略に生かすことができるのもメリットの1つでしょう」(松田さん)
データを通して、オンラインで注目されやすい記事の傾向が媒体ごとに浮き彫りになれば、ヒット記事を企画するためのヒントになるかもしれません。
有料でネット記事を読む、新たな文化の醸成を
購入前のプレビュー画面には、記事の導入部分や写真、購入後に読める文字数などが明記されている
記事の有料化で懸念されるのは、やはりユーザー側の満足度ではないでしょうか。わざわざ購入に至った期待値の高さから、そのギャップに対するクレームの発生も考えられます。そこで記事の購入画面では、ユーザーファーストを意識した工夫が凝らされています。
「購入を判断する前のプレビュー画面には、記事の導入部分の文章と掲載写真、そして購入することで読める本文の文字数と、写真や図版の総点数を明記しています。それがどのくらいのボリュームの記事なのかをあらかじめ明らかにすることで、購入後のギャップを少しでもなくそうという狙いがあります」(松田さん)
今夏の正式リリースにあたって、実際に記事を購読したユーザーへのアンケートも実施しました。リアルなユーザーの声を集めることで、さらなる利便性の向上につなげています。さらに、出版社サイドとも見せ方や機能面についての意見交換を行い、サービス側は今後のアップデートにも意欲的に取り組む姿勢を見せています。
「例えば、記事内への動画コンテンツの組み込みは、複数の媒体社から要望をいただいています。これはインターネットだからこそできる提供価値なので、前向きに考えていきたいですね。また、キャンペーン企画を求める声も多く、我々としてもそれぞれの媒体のセールスポイントを読者に分かりやすく伝えられる手法を考えていかなければなりません」(浅井さん)
Yahoo!ニュースの有料記事提供は読者にとって、ネット記事との付き合い方を大きく変えるサービスになるでしょう。そして、お金を払ってネット上の記事を読む文化が広く浸透する可能性を秘めています。これは新聞・出版業界にとっても、新たなマネタイズの一手となるはず。今後にぜひご注目を。