Yahoo!ニュース トピックス「13文字見出し」の極意 難関「コートジボワール」はどう表現?

Yahoo!ニュース トピックス編集に10年間携わってきたベテラン編集部員に解説してもらいました。
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Yahoo!ニュース トピックスの顔となる、13文字の見出し(半角含めて13.5文字)。「1日4000本の記事と向き合う『Yahoo!ニュース トピックス編集部』」でもご紹介したように、見出し作成はいかにユーザーに記事を読んでもらえるかが左右されるところです。実は、この見出し作成には数多くのルールやテクニックが存在しています。Yahoo!ニュース トピックス編集に10年間携わってきたベテラン編集部員に解説してもらいました。

取材・文/中道 薫(ノオト)

※この記事は「news HACK」内に2017年9月27日に掲載された記事です

新聞よりもシンプルに、齟齬なく

――13文字の見出しは短いと感じたのですが、その文字数となった理由はあるのでしょうか。

これでも長くなったんですよ。サービススタート当初は11文字でしたが、2008年にYahoo! JAPANトップページのリニューアルに伴い、レイアウトの都合で半角スペース0.5文字を含む最大13.5文字になりました。

ただ、この文字数だと海外ニュースの見出し作りに苦戦することもあります。編集者泣かせの単語の代表格といえば、「コートジボワール」です。

――これだけで8文字ですよね(笑)。国名を省くのは......?

それではダメなんですよ。事件や事故は、発生場所が国内なのか海外なのかで、ニュースの重要性やユーザーの関心度が大きく変わります。そのため、必ず見出しでわかるようにキーワードを盛り込むルールがあります。

基本的にYahoo!ニュースの表記は「記者ハンドブック」(共同通信社刊)に準じているため、アメリカなら「米」、ニュージーランドなら「NZ」と、定められた省略表記を使いますが、コートジボワール共和国のように、それができない国名もあります。そういった場合は、国名ではなく、「アフリカ」「北欧」「南米」など、よりエリアを広げた表現を使うことがありますね。

同様に、外国の著名人も見出し作りで悩むポイントです。幅広く知られている人であれば、もちろん見出しに個人名を入れたほうがユーザーの反応はいいんですけれど、その他の情報を入れる余地がなくなってしまいます。

たとえば、2012年のホイットニー・ヒューストンさんの訃報は非常に悩みましたが、初報で死去を伝えた後は、最終的に「米歌姫」という表現に落ち着きました。ちなみに、通常は肩書や敬称の省略を認められている芸能人やスポーツ選手でも、事件や訃報の記事では呼び捨てにしないルールを徹底しています。

一方で、5月末に掲載した【WeezerのVo.なぜ紅白目指す】というトピックスは、【米人気歌手 なぜJ-POPに挑戦】と具体的なバンド名を伏せる形に変更したところ、クリック数が3倍になるケースもありました。

Yahoo!ニュースアプリの主要タブ内に並ぶYahoo!ニュース トピックスの見出し(イメージ)

――想像以上に見出し作りは難しそうだという印象を受けました。

とはいえ、私個人の感覚としては、新聞の見出しをつけるよりも簡単だと思っています。私は前職、地方の新聞社で紙面の構成や各記事の見出しを考える整理部にいました。

レイアウトやフォント、記事ごとの扱いの大きさまで考えなければならない新聞の見出しと違って、Yahoo!ニュース トピックスの見出しは13.5文字のスペースに収めるだけ。その意味では、新聞の見出しをつけるよりもシンプルですよね。新聞は見出し一つを5~6時間かけて考えることもありますが、Yahoo!ニュース トピックスは考え込んでも10~20分程度です。

「新元号の時期」を伝える各紙の見出し(写真/アフロ)

――ほかにも、新聞とYahoo!ニュース トピックスの見出し作りで異なるポイントはありますか。

大きく違うのは、「うまい表現」が求められるかどうか、ですね。前職の上長からはよく「記事に書いてあることだけで見出しを作るな」と言われていました。記事中にない言葉を使って、その記事を端的に言い表す見出し作りが求められました。この点、すべてが配信コンテンツから成るYahoo!ニュース トピックスは真逆。基本的には記事の本文中にある表現を使わなければなりません。

Yahoo!ニュース トピックスは、あくまで各メディアに配信していただいた記事を掲出する、独立したニュースサービスです。新聞社であれば、世に出す前に見出しの内容を出稿部にチェックしてもらいますが、私たちにはその工程がない。なので、記事の内容を捻じ曲げることがないように、記事中の言葉を使うのです。例外として、字数に収まらない場合は表現を変更しますが、本文との齟齬がないようにするために、このルールは徹底しています。

アクセスが伸びすぎている見出しを修正する理由

――先ほどのお話にあったような見出し作りのルールは、ほかにもあるのでしょうか。

単純に、「漢字やひらがなばかりが連続しない」「同じ単語や助詞を繰り返し使わない」といった、読みにくさにつながるものはチェックします。あとは、ネット上のニュースサイトでよく目にする「!(エクスクラメーションマーク)」はYahoo!ニュース トピックスの見出しに使いません。そもそもこの記号自体に意味はなく、つけようと思えばどの記事にもつけることができるからです。

――Yahoo!ニュース20年の歴史の中で、ユーザーにクリックしてもらうためのノウハウも蓄積されているのではないでしょうか。

ニュースの硬軟にもよりますが、多くの人の興味をひきつけやすいテクニックはいくつかあります。代表的なものは次の3つです。

・「なぜ」「理由」「訳」といったワード

・読み手の感情を揺さぶるワード(激怒・謎の・珍事・批判殺到)

・ニュースへの反応(場内あ然・まさか・衝撃)

たとえば、「なぜ」「~の理由」「真相」「〇〇の正体」といったワードは、ユーザーがクリックする傾向が高いキーワード。しかし、記事中に「なぜ」や「理由」の答えが明示されているか、その内容に納得感や意外性があるかを判断して使わなければなりません。

ユーザーの感情を揺さぶる「激怒」「謎の」「珍事」や、「まさか」「あ然」「衝撃」などのニュースへのリアクションを織り込むのも効果的です。ただ、これは「釣り見出し」にならないように記事中にワードが盛り込まれている場合に限って使います。

また、【ルーガちゃん 北欧で第1子出産】【三木谷氏 けがで短パン会見】といった、身近さを感じるワードとユーザーから距離のある非日常的な単語の掛け合わせによる「言葉の距離」が、意外性を生むケースもあります。かつて子役としてお茶の間の人気者だったルーガちゃんと「北欧」「出産」、日本を代表する経営者である三木谷浩史氏と「短パン」、どちらも単語に距離感がありますよね。共通していえるのは、「見出しには驚きがある」ということ。これは、新聞社の整理部時代に上長によく言われてきた言葉です。

最も気をつけているのが「ユーザーに誤解されない見出しをつけること」です。もちろん、サイト運営上、PVを集めることは重要です。ただ、PVを稼ぐためにユーザーをあおってクリックさせるような見出しは、ユーザーの失望を招きます。これは、絶対にあってはならないことなのです。

私たちは常にリアルタイムで記事のアクセス状況をチェックしているので、Yahoo!ニュース トピックスの編集者として経験を積むと、徐々に「このトピックスは、これくらい読まれるだろう」というのがイメージできるようになります。その予想を大きく逸脱してPVが伸びているものは、見出しを修正します。

――アクセスが良いのにですか。

はい、何かユーザーを誤解させる表現、あるいはいわゆる「釣り」になっている可能性が考えられるからです。

たとえば過去に、【Xマスに鶏 KFCのウソ】から【Xマスにチキン 定着したウソ】へ見出しを変更したことがあります。これは、当時の日本ケンタッキー・フライド・チキン(KFC)の代表が「クリスマスにチキンを食べるのは、アメリカの風習です」とインタビューで答えたことで、クリスマスに食べるフライドチキンの爆発的ブームのきっかけになったというエピソードの記事でした。

当初の見出しは、かなりの勢いでアクセスを集めましたが、編集部内で「現在進行形で消費者をだましているようにも読めるのではないか」という懸念の声が挙がったために変更しました。

――PVを伸ばすことが必要な一方で、ユーザーへの配慮もされているんですね。

そうですね。確かに、記事単位で見ればいい結果が出せるかもしれませんが、こういった小さな積み重ねこそが、ユーザーの信頼につながると考えています。

――いろいろな見出し作りのテクニックを伺いしましたが、実際にどんなふうに見出しを考えられているか見せていただけませんか。

わかりました。では、「当時はみんなライバルだった 80年代『ジャンプ』の人気漫画家が赤裸々告白」という記事に見出しをつけましょう。

......こんなところでしょうか。

やはり「80年代ジャンプ作家」というのは、この記事でマストのキーワード。これを入れると、あと4文字しかないので、1案目はそこに何の要素を盛り込むか悩みました。2案目は、「今語り合う」で、過去作品のジャンプ作家たちのトークセッションであることを伝えました。本文中にある「本音」というキーワードを拾っていますが、実際に本音かはわからないので、個人的にはあまりいい見出しではないかな、と。

3案目は、先ほどお話しした「読まれる見出し」の要素が多く、最もユーザーの目を引きそうではありますが、「黄金期」という表現がNG。「いつが少年ジャンプの黄金期か」は、公式にうたっているものではないので、ユーザーによって解釈が変わってしまうからです。

――普段もこんなふうに一つの記事に対して、複数の見出しを考えるのですか。

決め打ちで「これだ!」とすぐ考えつくこともあります。過去の記事でもご紹介しましたが、迷ったときは、Yahoo!ニュース トピックス編集部のチャット上に投げて、議論をして最適な見出しを作り上げるようにしています。

ベテラン編集部員の思い出に残る見出し

――Yahoo!ニュース トピックス編集部に10年間在籍ということは、1日10本としても、単純計算でこれまで3万本超のYahoo!ニュース トピックスの見出しを手がけていることになります。その中で思い出深いものはありますか。

これまで数えてみたことはないですが、そんなに膨大な本数ですか(笑)。パッと思い浮かぶのは......2008年に出した【ガチャピンとムックがけんか】ですね。当時は、著名人がブログで情報解禁する文化が定着し始めた頃で、記事のソースとしては珍しかった。ガチャピンの公式ブログをソースにしたこの記事も非常に大きな反響がありました。

現在はブログをソースにした記事が、もはや当たり前の時代になりましたよね。こうした時代の流れの中で、Yahoo!ニュース トピックス編集部では方針を変え、記者がきちんと取材して得た情報にこそ大きな価値があると考えました。例外はありますが、現在は「トピックスに掲出する記事は、メディア自らが取材した記事であること」が前提になっています。

――意外と知られていませんが、大切なことですよね。

また、今年3月に掲出した【もやし安売りしすぎ 業界訴え】は、業界紙である日本農業新聞さんの記事ですが、ネット上で大きな反響がありました。この記事をきっかけに、マスメディアでも取り上げられる話題になったと感じています。私たちが、記事が持っているポテンシャルを引き出せた好例ではないでしょうか。

いろいろテクニカルなお話をしましたが、それらはあくまでユーザーに興味を持ってもらうための工夫。やはり大切なのは、1日4000本を超える配信記事の中から、価値ある情報を届けることにあります。主役は各メディアから配信いただいている記事。私たちYahoo!ニュース トピックス編集部は、あくまでメディアやニュースとユーザーを結ぶ手助けをするための存在なんです。

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