Twitterが「X」に改名したら、 ロックバンド「X JAPAN」の所属会社が持つ商標権に抵触するのだろうか。ハフポスト日本版では、SNSで議論が沸騰したこの件を知的財産権の専門家に取材した。
■「X Japan」の所属会社が複数の商標を登録済みだった
Twitter運営会社を買収したイーロン・マスク氏の意向で日本時間7月24日以降、Twitterの公式アカウント名は「X」になり、長年親しまれてきた「青い鳥」のロゴマークも「X」のマークへと変わった。運営会社も「X Corp.」に変更済みだ。
これに伴い、日本ではある話題が浮上した。Twitterの日本法人はTwitter Japan株式会社であり、Twitterの日本向けアカウントも「Twitter Japan」だった。もし、会社名やアカウント名が「X JAPAN」に変更された場合、人気ロックバンド「X JAPAN」の名前とかぶってしまうのだ。
同バンドのメンバーのYOSHIKIさんも「#XJAPAN 商標登録してあると思うけどなー」と24日に懸念を示した。
調べてみると「X JAPAN」や「X」に関わる複数の商標を、同バンドが所属するジャパンミュージックエージェンシー社が登録済みだった。
■知的財産権に詳しい専門家の見解は?
今後、Twitterのサービス名が正式に「X」に改名したり、日本法人の名前が「X JAPAN株式会社」となったりした場合、ジャパンミュージックエージェンシー社の登録商標「X JAPAN」の商標権を侵害しないのだろうか。
ハフポスト日本版では、知的財産権に詳しい弁理士で東北大学特任教授の稲穂健市氏に見解を聞いた。
稲穂氏によると、日本法人の名前が仮に「X JAPAN株式会社」になったり、日本向けの公式アカウント名が「X JAPAN」になったりしても、「X JAPAN」を商標として使わないのであれば、そもそも商標権侵害には当たらないという。
また、仮に商標として使用する場合であっても、登録商標の指定商品・指定役務(サービス)と類似しない商品・役務について使用する場合は、商標権侵害には当たらないと指摘した。
詳しい一問一答は以下の通り。
―――ジャパンミュージックエージェンシーは「X JAPAN」の文字商標(登録商標第4750523号)を取得しています。Twitter Japan株式会社が、たとえばX Japan株式会社に変更した場合、この商標権を侵害することにはなりませんか?
日本法人の社名が「X JAPAN」になったところで、サービス名など商標として「X JAPAN」を使用していなければ、そもそも商標権侵害とはなりません。また、仮に「X JAPAN」を商標として使用したとしても、登録商標の指定商品・指定役務と同一・類似の範囲内で使用するものでなければ、商標権侵害には該当しません。現状のTwitterの事業内容を考えますと、関係性は薄いように思います。
――もし「Twitter Japan」という公式アカウントが「X JAPAN」という名称に変更された場合には、すでにある「X JAPAN」の公式アカウントと同じ表記になります。この場合は商標権侵害に当たりますか?
社名の場合と同様に、アカウントの表記が同じになっても基本的には問題ありません。ただし、アカウントをどう使うかが問題です。
Twitterが今後どういうビジネスをするかにもよりますが、登録商標の指定商品・指定役務と同一・類似の範囲内で商標として使用した場合は、商標権侵害となる可能性があります。また、使い方によっては不正競争防止法が関係することもあり得ます。
7月26日、「Twitter Japan」の公式アカウントの表記が「X JAPAN」ではなく、単なる「Japan」に変わりましたが、これは同社が無用なトラブルを避けようと考えたからかもしれません。
――ジャパンミュージックエージェンシーは、「X」の装飾文字を楽器や被服など、さまざまな商品・役務を指定して商標登録を行っています(商標登録第3205165号、商標登録3205166号など)。Twitterは今後、「X」に改名したり「X」をベースとしたロゴマークでビジネスを展開したりするとみられますが、同じ分野でビジネスをする場合に、商標権侵害に当たる可能性が出てきませんか?
まず、日本の審査基準では、アルファベット1文字からなる商標は識別力がないものとして、原則として商標登録できません。使用によって識別力を獲得することも容易ではなく、アルファベット1文字に関しては、識別力を持つよう装飾化または抽象化されたロゴとして商標登録することが多いです。
外観が大きく異なれば、互いに類似しない商標と判断されうるため、同一の文字をベースとしたロゴの登録商標で、指定商品・指定役務が重複するものが複数存在しています。もちろん、商標が互いに類似しなければ、商標権侵害には該当しません。