世界の優秀な教員をたたえる2018年の「グローバル・ティーチャー賞」の授賞式が3月18日、アラブ首長国連邦のドバイで開かれ、イギリスの美術教師、アンドリア・ザフィラクさんに贈られた。世界173カ国の教師約3万人から選ばれ、優勝賞金は100万ドル(約1億円)。
ザフィラクさんは、イギリス・ロンドン北西部にあるアルパートン・コミュニティスクールで美術とテキスタイルを受け持っている。ザフィラクさんの功績を紹介する同賞のサイトや動画、学校のサイトなどによると、この学校は日本の中学、高校にあたり、生徒数は約1400人。
生徒の多くが移民家庭出身で、校内では35言語が使われている。1軒の家を5家族でシェアするような、最貧レベルの家庭出身の生徒もいる。 ギャングによる暴力にさらされることもある。英語が母語でないために学力が低迷し、孤立した気持ちを抱えて入学してくる子どもも少なくない。
そんななか、ザフィラクさんは、学校生活の中で孤立しがちな生徒が最高の能力を発揮できるようなアプローチをすすめた。一つのカリキュラムを生徒全員に当てはめるやり方は、生徒から共感を得られないと気づき、生徒の生活に関連づけた内容になるよう、同僚の教員の力をあわせ、全ての科目のカリキュラムを改訂した。
自身が受け持つ美術の授業では、同校に一定期間招いたアーティストとカリキュラムを再構築、生徒たちの発想を促進させ、複雑な家庭環境にきちんと向き合うのを手助けするようにした。その結果、同校はビジュアルアート専門校として表彰された。
また、音楽教師がソマリアの合唱団を立ち上げるのを手伝ったり、保守的な地域を刺激しないようなやり方で、女子生徒が運動できる時間割をつくり、同校の女子クリケットチームの優勝に導いた。
学校生活の外でも、家庭とのつながりを重視。グジャラート語、ヒンディー語、タミール語、ポルトガル語など、学校で生徒が話す35言語のあいさつや基本会話を学び、英語を話さない生徒やその家族との信頼関係も築いた。また、教師のほか、メンタルヘルスの専門家や地元警察も加わってもらい、あらゆる角度から生徒について話し合い生徒たちが前に進むためのサポートに様々な人がかかわれるようにしたという。
こうした努力が実を結び、同校はいま、資格の取得と認定に関しては、国内で上位5%の優秀校に入っている。「生徒の出発点がどれほど低いか、5〜7年間にどのくらい急速に進むかを考えれば、非常に大きな成果」と、学校は評価している。
ザフィラクさんは、こう語っている。「アートやテキスタイルは言語の壁から生徒たちを解き放つ、強力な科目なんです。英語が話せるかどうかなんて関係ない。生徒が美術でスキルと自信を得て、さらに向上していくことを手助けできるんです」