働く女性のやせすぎ問題が、不妊大国へ導くのか。予防医療コンサルタントと考える、働く女性のカラダ

栄養・運動・睡眠が不足、働く女性の健康状態が深刻

日本は先進国一の"不妊大国"だといわれている。年間の体外受精数が世界最多で成功率は下から3位、結婚したカップルの6組に1組が不妊に悩んでいる。※ICMART(国際生殖補助医療監視委員会)調べ

なぜこうした事態になっているのか。その背景には、高齢出産の増加などの課題があるが、アメリカで予防医療の勉強を重ね、日本で母子健康向上をメインに活動する予防医療コンサルタントの細川モモさんは「妊娠前の働く女性の健康状態が深刻」だと警鐘を鳴らす。

働く女性と不妊リスクはどんな関係があるのか。私たちが気をつけることは? 細川さんに聞いた。

KENJI ANDO

栄養・運動・睡眠が不足、働く女性の健康状態が深刻

——現代は不妊に悩んでいる人も多いですが、細川さんは、前編で、妊娠前の女性の体づくりが大切だと訴えていますね。働く女性の平均摂取エネルギーが、必要量が2000kcal(20〜30代女性の場合)に対して1479kcalで、大幅に足りていないと。

2014年に三菱地所と立ち上げた「まるのうち保健室」では、20~30代の都内で働く女性2,000名以上のデータをまとめています。

調査によって深刻な結果が出たのは、まさに働いている女性でした。ビタミンやミネラルなど、必要な栄養素が十分に摂れていない上に、栄養・運動・睡眠が不足する三重苦になりやすい。

終戦直後よりエネルギー不足となっており、不健康で、ほとんど飢餓状態にあるといえる人が少なくありません。そういう人たちは、不妊のリスクも抱えています。栄養失調やBMIを改善するのには時間がかかるので、今からバランスよく栄養を摂っていくのがいいでしょう。

——働く女性の生活習慣が課題だと。

はい、実はやせすぎていると妊娠しにくいのです。妊娠には、BMIと体脂肪の2つが、妊娠と大きく関係しています。BMIとは、「体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)」で計る指標のことです。

アメリカで妊娠を希望する1万8000人の看護師を対象にハーバード大学が実施した「看護師健康調査」によると、8年間の追跡調査の結果、BMIが最も大きいグループと最も小さいグループは、どちらも排卵障害による不妊症のリスクが高かったんです。

BMIが19未満の(やせすぎの)場合、標準体型の女性に比べて妊娠する期間が4倍ほどかかってしまうことが別の研究において報告されています※Fertil Steril 2013 ; 100 : 631

——将来の不妊リスクにつながる。

BMI値は、不妊症のリスクと関係があります。「看護師健康調査」の結果から、妊娠における推奨BMIは20〜24とされています。また、BMIは別名「妊娠予備能」といわれる、卵巣にある卵子の残り数を示す卵巣年齢(AMH:抗ミュラー管ホルモン)とも相関関係があります。

21以下だと無月経リスクが高まり、16以下だと治療を受けても排卵の再開が困難になります。

2015年度まるのうち保健室報告書より

——やせすぎがそれほどリスクがあることだと、知らない女性が多いと思います。

私たちが都内で就業している20〜30代の女性352名の体を調べたデータでは、BMIが19未満の女性が全体のなんと約28%でした。おおよそ、3人に1人です。(出典:「Will conscious Marunouchi『まるのうち保健室』調査」Copyright 2017 三菱地所株式会社・一般社団法人ラブテリAll Rights Reserved.)。

——そんなに多いんですか。

実はBMIは、卵巣年齢、排卵性不妊、骨密度などとの関係も深いので、あなどれません。でも、やせても妊娠に影響がないと思っているから、安易に食事を抜いたりダイエットをしてしまったりする女性が多いんです。

「卵巣年齢」の高齢化、体脂肪率が影響

細川モモ

——もうひとつ、妊娠の大きな要因である体脂肪については?

体脂肪が17%以下と低い場合は、月経不順・無月経・排卵障害のリスクが高まります。一方、体脂肪率が高すぎても、排卵障害、排卵性不妊のリスクが高まってしまいます。

BMIが適正であっても、体脂肪が妊娠に適していないケースがあります。保健室では21〜28%の維持を推奨しています。

——他に調査からわかったことはありますか。

順天堂大学らと共同で実施した『卵巣年齢共同研究プロジェクト』の結果では、20代で卵巣年齢が40代相当だった女性は体脂肪が少ない痩せ型で、30代ではビタミンD不足、つまり栄養失調だったんです。

ビタミンDは自然妊娠や体外受精の成功率を高め※1、卵巣年齢にも影響する妊活に必須のビタミンですが、日本女性でもっとも低値なのが19〜39歳の妊娠適齢期世代です※2 ビタミンDは骨を丈夫にするビタミンでもありますが、こうした女性からは頭蓋骨がピンポン球のように凹む"頭蓋ろう"の赤ちゃんが京都では4〜5人に1人の割合で産まれており※3、関東でもくる病(骨が歪曲する病気)の発症例が報告されています。

※1:Hum Reprod 2012;27:3321, Fertil Streil 2014;101:447

※2:日本人の食事摂取基準2010年度版「ビタミンD」の項で紹介された2月に新潟県の女性を調査した結果より(出典: K.Nakamuraら Nutrition 2001から抜粋)

※3:Craniotabes in normal newborns; the earliest sign of subclinical vitamin D deficiency. The Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism

痩せすぎや栄養失調は、妊娠において阻害因子となる甲状腺異常やホモシステインなどの高めてはいけない数値を高めてしまいます。

BMIと体脂肪の2つは、自分の体を守るための基準にもなるので、体重をチェックするように、常にチェックして数値が何を意味しているか確認してほしいですね。

「食べている」と「栄養を摂れている」は違う

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——さきほど女性の栄養失調のお話がありましたが、栄養も妊娠に影響するのですか?

もちろんです。「食べている」ことと「栄養を摂れている」ことは違うんですね。現代女性の食事には、ジュースなスナック菓子のように、エンプティカロリーといって"栄養のない食品"がたくさんあります。

朝ごはんを食べずに出勤して、昼はサンドイッチとコーヒー、夜はお腹がすいてトンカツなどをガッツリと食べる......なんていう食生活を送っている方、多いのではないでしょうか?

——そんなライフスタイルの人が多いと思います...。他に、意識して摂るべき栄養素などはありますか。

日本女性は無月経の女性を除いて、鉄分をもっと摂らねばいけません。体内に存在する鉄分の60〜70%がヘモグロビンにありますが、残りの30%は貯蔵鉄(フェリチン)という形で肝臓などにストックされており、妊娠準備において貯蔵鉄がどれくらいあるのかが重要です。男性は月経がないので、平均値は139.6ng/mLですが、女性の平均はなんと22.5~25.7ng/mLです※

いかに月経における栄養損失が大きいかお分かりいただけますね。海外では60ng/mLで鉄剤処方対象になる国もあります。月経が正常に来ている女性が安易に食事を制限するダイエットなどをやるべきではありません。※ 平成21年国民健康・栄養調査より

もちろん、本当はすべての栄養素が必要です。サプリメントで特定の栄養素を摂る女性もいますが、栄養素はチームワークであり、正常な妊娠・出産において予防効果が認められているのはマルチビタミンです。

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——これさえ摂っておけばいい、というものはないのですね。バランスが大事。

それぞれに役割があります。アメリカの「看護師健康調査」では、サプリメントで鉄分を補っていた女性が不妊になるリスクは40%も低く、食事からの鉄も妊娠率に影響することを報告しています※出典:『妊娠しやすい食生活』(日本経済新聞出版社)

——前編では、日本は低出生体重児の割合が高いという話もありましたね。妊娠したいと思ってからでは遅い。普段から自分の健康に気をつけることが大切なんですね。

2017年1月、ユニセフが胎児期から2歳になるまでの「最初の1000日」 に行うケアの重要性を世界に発信しました。

それによると、(子どもが)生涯健康であることの条件は、受精した時点を含めた「最初の1000日」がとても大事で、「妊娠してからでは遅い」というのが世界的な共通見解になっているんです。

国内においても、妊娠前に痩せている女性からは将来の生活習慣病リスクが高いとされる低出生体重児が産まれやすく、こうした女性が妊娠中に体重を増やしてもお腹の赤ちゃんの体重増加には繋がりにくいことがわかっています。つまり、体型も妊娠前がものをいいます。

働く女性の行動は変えられなくても、選択は変えられる

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——日々、忙しく働く女性は、どうやって自分の体をケアすればいいでしょうか。

働く女性の多くが、やむをえず不規則な生活になりがちなのは承知しています。私たちの調査では、鉄分やビタミンDは就業時間が長くなるほど摂取できなくなることがわかっています。また、就業時間の長い女性ほどおやつを多く食べ、栄養がさらに偏ることも。

私は、彼女たちの「行動」を変えてほしいとは思いません。すでに世界トップクラスを争うほど睡眠時間が短く、夜遅くまで働いている女性たちに、自炊やジム通いを推奨するのはトゥーマッチな提案だと思いますし、継続することが難しいと思います。

しかし、彼女たちの「選択」は変えることができると信じています。コンビニに行く生活は変えられなくても、コンビニで選ぶ商品を変えることは難しいことではないはずです。

例えば、間食のために食べていたお菓子をおにぎり1つに変えたり、カルシウムの入ったお菓子に変えたりするなど、より正しい選択に近づけることはできます。

——細川さんは、働く女性にどういう選択肢を提案していますか。

今、「まるのうち保健室」では、働いている女性たちが仕事をしながら、今の生活を変えずにできる健康習慣の開発をしています。

仮説として5つのメソッドを提案しています。

  1. 月に1回体重、体脂肪、BMIを測る
  2. 飲むヨーグルト一本でいいから、朝ごはんを食べる
  3. 栄養のあるおやつを食べること(海藻、梅干し、栗、卵など)
  4. 階段を使うか、電車で立つ
  5. カフェインを減らし、入浴の時間を、寝る90間分前にする

これを全部実践してもらって、働いている女性が実行しやすいメソッドを調べ、できなかった要因を検証しています。

——現実的な提案ですね。

例えば、残業が多くて朝ごはんが食べられない人がいる場合、変えるべきは本人の意志ではなく、残業をさせる会社ですよね。

女性たちのできなかった理由を抽出して、例えば朝ごはんを会社で用意したり、夕食のお惣菜や食材などのオフィスデリバリーを導入したりするような社会を作ることが目標です。2018年には、さらにその行動変容が生活に定着するためにどのようなサポートが有効かを検証する予定です。確かなデータを創出し、働く女性を取り巻く環境を確実に変えていきたいと思います。

———最後に、働く女性にメッセージを。

働く女性は、極めて真面目です。ただし、彼女たちは今までこのような情報を受け取る機会が極端に少なかったのです。そのため、妊娠したいと思っていても、健康でいたいと思っていても、何をしていいのかわからず、日々の生活を忙しく送る人が多かったと思います。根拠に欠ける美容やダイエット情報に振り回され、健康を損なった人もたくさんいることでしょう。

正しい知識を女性がもてば、不妊リスクを軽減することができます。環境を変えることはむずかしいかもしれませんが、食の「選択」を変えることはできますよね。100年を生きる人生をぜひ賢く、健やかな人生を送っていきましょう。

lbo

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