今夜は、お母さんが残業で遅くなるから、私がお迎え。
午後7時。延長保育ぎりぎりの時間になって保育園に駆け込む。
帰り道、スーパーで買い物し、家に着いたら着替える間もなくすぐに料理にとりかかる。
そうしている間も、メールや、絶え間なく飛んでくるチャットのメッセージが気になる。
海外で、大きな事件が起きることもある。
早く返信しなければいけない、早く記事を書かなければいけないと思い、夕飯も早々に切り上げる。
子どもたちがゆっくりご飯を食べている間、私は居間のソファでノートパソコンを広げ、カタカタをキーボードを打ち始める...。
子どもたちから学校や保育園であったことを聞く時も、ほとんどパソコンで作業しながらだ。
出版社時代は、会社に泊まり込んでいた
ハフポストで働くようになって5年近く。リモートワークが認められているから、家での作業が多くなった。
自分の部屋でやればいいのだが、私は居間で作業するようにしている。
子どもたちの遊ぶ姿を見ながら、そして子どもたちと会話しながら、仕事するためだ。
これまで出版社で働いていた私は、何日も会社に泊まり込むような生活をしていた。
子どもの世話や家事は、ほとんど妻に任せっぱなしだった。
今も十分とは言えないが、以前よりは家のことに時間を割けるようになった。
それでも、仕事と家庭の時間をきっぱりと分けられない。どうしても仕事を家に持ち込んでしまう。
私の時間管理能力の問題と言われればそれまでなのだが、物理的に持ち込まざるをえない場合が多い。
以前は仕事と家庭の時間を明確に分けられない自分にストレスを感じていたが、この職場に来てからは、無理に分けないようにした。
子どもたちに、私が仕事している姿を見てもらったほうがいいと感じているからだ。
仕事する父の姿を見るのが嬉しかった
四人兄弟の末っ子だった私は小学校低学年の頃、いつも土曜日になると、父親の職場に連れて行かれた。
医師だった父は、土曜日に健康保険の審査をしていた。
殺風景なオフィスの入り口に、ぽつんと長椅子が一つ。そして、窓。飲み物の自動販売機はあったが、一度も買うことはなかった。
その空間で4〜5時間、ただひたすら父を待っていた。
こう書くと、つまらない時間を過ごしていたように見えるし、親に放置されていたのではと思われるかもしれないが、私にとっては宝物のような時間だった。
いろんな空想をめぐらし、考える。
何より、すぐ近くで父親が働いている安心感があった。
時々オフィスに入り、父が働いている様子を見に行くと、指サックをはめて、忙しそうに書類をペラペラめくっている。
そんな父の姿を見るのが、本当に嬉しかった。
編集長と電話で言い争いしたら...
働いている親の姿を見ると、子どもは安心する――そんな思い込みがあるから、私は子どもたちに自分が働く姿を見せている。
時には、電話で長い時間、編集長と喧々諤々の議論(という名の言い争い)をしている姿を見せてしまうこともある。
その数カ月後、子どもたちは「ねえ、竹下さんと仲直りした?」と気にかけてくる。
子どもたちに起きた変化
仕事と家庭の時間を分け隔てないようにしていたら、大きな変化が起きた。
子どもたちが、父親の書く記事が気になって、読むようになった。
記事を読んだら、感想を言うようになった。
私の記事だけではなく、同僚が書くニュース記事も、ブログも読むようになった。
そこから、子どもたちと会話する時間が生まれた。
日々のニュースに関心を持つ子どもたちが、「あの事件って、なんで起きたの?」と聞いてきたり、「僕はこう思う」と意見を言ったりする。私は、自分なりにニュースの見方を教える。
時には、子どもが読むには少し早いかな......と思えるような記事も出てくるが、「読まなくていい」「それは知らなくていい」と、隠しはしない。真正面から子どもと議論する。
子どもたちから「LGBTQってなんなの?」と聞かれた時は、ただ私が説明するだけではなく、子どもたち自ら当事者の方にインタビューし、現場で取材した。
ライフとワークを分け隔てないことで、子どもたちや妻と話する時間ができる。
家事を十分にこなしておらず、妻には迷惑をかけっぱなしだから、完成された時間ではない。
単なる自己満足かもしれない。
それでも私は、自分の仕事を通じて子どもたちと対話するひとときが、何ものにも代えがたいと考えている。
仕事の中から見つかった「アタラシイ時間」。子どもたちが教えてくれた。
ハフポスト日本版は5月に5周年を迎えます。この5年間で、日本では「働きかた」や「ライフスタイル」の改革が進みました。
人生を豊かにするため、仕事やそのほかの時間をどう使っていくかーー。ハフポスト日本版は「アタラシイ時間」というシリーズでみなさんと一緒に考えていきたいとおもいます。「 #アタラシイ時間 」でみなさんのアイデアも聞かせてください。