ジェンダー格差の可視化と改善が進む現代、ビジネスシーンにおいても賃金格差や機会の不平等を是正する取り組みが実施されている。
しかし、厚生労働省が発表した「令和5年度雇用均等基本調査」によると、課長相当職以上の管理職に占める女性の割合は12.7%に留まっており、多くの重要課題が残されている。
デロイト トーマツファイナンシャルアドバイザリー株式会社は、一般社団法人社外取締役女性ラボ(通称シャガラボ)とともに、現役の女性取締役や管理職のネットワーク構築、先輩リーダーたちによる新たなリーダーの育成や輩出を後押しする「Women Empowerment『Toget-HER』project」を10月より始動した。
10月中旬、本プロジェクトの始動を記念するオープニングイベントが東京・丸の内新東京ビルにて開催された。
「シスターフッド」というキーワードの下、多様な業界の女性リーダーたちが集結し、プロジェクト開催の背景や社会の現状、プロジェクトで目指すものについて語り合った。
縦と横、ソフトとハードで女性をつなぐ「Toget-HER」
デロイト トーマツは、2025年までに管理職や役員、ボードメンバーにおける男女比率の目標を定めており、どのようなライフスタイルの変化があってもサステナブルに活躍できる基盤の構築に注力している。
知識の交換や情報を共有する場所、コーチングなどを提供する本プログラムでは、ビジネスはもちろん、ライフスタイルやウェルネスなどの広範囲にわたる領域を取り扱うという。
具体的な活動内容は、ラーニングコンテンツの提供や業界の最新トレンドを学ぶ「オンラインスタディグループ」や、共通の興味や関心のあるメンバーが自由にコミュニティを形成する「コミュニティグループ」、さらに同じ分野の女性プロフェッショナルからの個別キャリアコーチングやネットワーキングイベントなど、ハードとソフトの両方をカバーする内容で今後拡充していく。
イベント前半のトークセッションには、各領域を代表する以下の4人の女性リーダーが登壇。
株式会社ポーラ 代表取締役社長 及川美紀さん
富士通株式会社 執行役員 EVP CMO 山本多絵子さん
一般社団法人スタートアップエコシステム協会 代表理事 藤本あゆみさん
ジャーナリスト 浜田敬子さん
ファシリテーターは、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社パートナー/サステナビリティアドバイザリー統括 大塚泰子さんが務めた。
「Women@work2024から考える、働きやすい環境をどう作る?」をテーマに設定し、本プロジェクト立ち上げの背景となっている課題について語り合った。
最新調査で明らかになった「好意的差別」
2021年からデロイトが実施している調査「Women@Work」。2024年度の日本版調査では500人の働く女性を対象にアンケートを実施し、男女格差に関するビジネスの現在地を明らかにしている。
調査では「自分が所属する組織は、ジェンダーの多様性へのコミットメントを果たすために具体的な措置を講じている」という項目に「該当する」と回答した割合が、全体の11%に留まっていることがわかった。女性が昇進したくない理由においては「現場にロールモデルとなる女性がいない」「同じ役割の男性と比べ、給与が低くなると思う」という男女格差に関連する回答がそれぞれ約2割を占める結果となった。
また、45%の女性が1〜2年で現職を離れるつもりだと回答。過去1年間に離職した理由(N=87)は、1位が「給与が低い/福利厚生制度が充実していない」(26%)。次いで「同僚からの嫌がらせやマイクロアグレッション(20%)」「ワークライフバランスがとれない(17%)」という結果になった。
現在の会社を辞めたいと感じている、あるいは現在新しい仕事を探している人にその理由(N=31)を聞いたところ、35%が「燃え尽きたと感じている、または仕事や職場が自分のメンタルヘルスにとってネガティブな影響を及ぼすと感じている」と回答。
マイクロアグレッションやモチベーションの低下の原因の一例として、セッションで話題に上がったのが「好意的差別」だ。良かれと思って「大変だから」と重要な役割を与えられなかったり、「無理しないで」と仕事量を削られたりといったマイクロアグレッションが、機会の喪失や「期待されていない」という気持ちを招く事例が多く、これは管理職に占める女性の割合の低下にもつながってくる。
富士通ではジョブ型雇用やポスティキング制度を積極的に採用したところ、社員約12万人のうち約2万7000人からの応募があり、約1万人が実際に職場を移動しているという。育児や家事の負担が女性に偏りがちな日本では、ライフスタイルの変化によって離職せざるをえない女性も多い。働き方の選択肢が増えることは、離職率の低下はもちろん、女性管理職の比率向上の後押しも期待できるようだ。実際、管理職の43.3%を女性が占めるというポーラでは、求める人物像やスキルを明示することで「私にもできるかも」と思う人が増え、管理職にも一定数の女性が就く結果につながったという。
一方、スタートアップにおいてはチャンスが比較的平等にあるが、組織として整っていないことも多いため、いわゆる「マッチョな働き方」ができる人が評価されやすい傾向にあるという。また社員の人数が少ないため、リーダーの影響力が強く、それゆえの「働きづらさ」が生じることも多いという。
フレキシブルな働き方に関して、山本さんは今後大きな社会課題となっていくであろう「介護とキャリア」についても言及した。「同居者介護を担う人の約7割が女性です。さらに総務省が2023年に実施した調査では、直近1年間で介護等を理由とした離職者が約11万人で、そのうち8万人が女性です。介護が始まるとパニックになり孤立することもありますし、悩みを相談する場所も少なく制度も整っていません。働き手の心理的安全性のためにも介護への体制は早急に進めるべきではないでしょうか」と警鐘を鳴らした。
全員が幸せでないと意味がない
制度や数字設定が重要な一方で、人事評価や働きやすさと切り離せないのが「コミュニケーション」だ。喫煙所や飲み会など、男性同士では「非公式な場面のコミュニケーション」の場が充実しており、育児や家事、介護などの負担との兼ね合いにより、出社率も女性より男性が高くなる傾向にある。一方、女性は上司との意見交換や要望の伝達の機会が少なく、オンライン勤務により評価につながりづらいという現状がある。
京都大学で脳科学の研究をしている大塚さんは「ジェンダーバランスが偏った映像を見たときに女性の心拍数が上がり緊張状態になるという結果も出ています。男性ばかりの会議室に入るだけでも精神的な負担になりえますので、どうか無理だけはしないでください」と伝えた。その上で浜田さんからは「1on1で男性上司が女性部下との会話内容に困っているという話もよく聞くので、女性が自分で議題を準備することで互いに利がありそうですね。1on1の機会がない場合はランチに誘ってみるのもいいかもしれません」という提案があった。
トークセッションを振り返り、山本さんは「組織のカルチャーを変えるには経営者レベルでKPIや仕組みを変えなくてはいけません。『そんなに待ってられない!』と思ったら思い切って飛び出して違う組織に入ってみることも選択肢の1つです。ぜひ自分自身がキャリアオーナーでいてください」とコメント。藤本さんは「組織の外を見てみることも大切です。組織の外から見た景色はもちろん、同じ組織内でも部署が違うだけで色々な違いがあります。俯瞰することで自分の属している組織の魅力や改善点が初めて見えてくるのだと思います」と語り、ミクロとマクロの視点を持つことの重要性を強調した。
及川さんは「会社が『あなたがこの組織にとってこれだけ大切です』『頑張ってくれています』と認めるカルチャーが大きな変化を生みます。弊社も挑戦中の身ですが、働き手の帰属意識を育むことも頑張りましょう」と経営者にエールを送った。浜田さんは「DEIというと明るいイメージが先行しがちですが、仕事や賃金の性別格差は人権問題です。DEIをハッピートークで終わらせず、差別を是正するための営みであるという意識も持ち続けていきたいです」と企業の社会的責任についても光を当てた。
最後に大塚さんは「数字目標を設定することは大切ですが、その数字は全て『人』です。その人たち全員が幸せでないと意味がないんです。不要なハードルを取り除き、平等に実力を発揮できる社会を皆さんと共に作っていきたいと思います」とコメント。
さらに「『今よりもう少し挑戦したい、成長したいという女性たちに仲間になってつながってほしい』という思いをこのプロジェクトに託しています。社会課題や時事問題を学ぶイベントやイヤーエンドパーティなど、リアルとオンラインの両方で色々な企画をしていくので、楽しみにしていてください」と語り、イベントを締め括った。
業界の垣根を超えて、いろいろな立場の働く女性たちが繋がるためのプロジェクト「Toget-HER」を通して、多様な形のシスターフッドが育まれていきそうだ。