卵巣がんで亡くなったアメリカ・ニューヨークの女性が、死亡した後に多額の医療債務を帳消しにしている。
2019年に卵巣がんと診断されたケーシー・マッキンタイアーさんは2023年11月12日、38歳で死去した。
夫のアンドリュー・ローズ・グレゴリーさんは、マッキンタイアーさんの死から2日後に、妻が自身の死を見越して用意していたメッセージをXに投稿。そこには次のように書かれていた。
「友人の皆さんへ。もしこれを読んでいるなら、私はもう死んでしまったということです。本当に残念すぎます。皆さんもどうしようもなく馬鹿げていると思いますよね。死因はステージ4の卵巣がんです。私は皆さん一人一人のことが、心の底から大好きでした。そして、私がどれだけ愛されていたかも知っています」
そのメッセージの中で、マッキンタイアーさんは、生きていたことを祝うために、他者が抱える医療債務を買い取って帳消しにするキャンペーンを立ち上げたと報告し、リンクを紹介している。
「幸運なことに私は最高の医療を受けられたけれど、この国では多くの人たちが十分な治療を受けられないことを知っています」
「医療債務を購入してチャラにする」キャンペーンとは
マッキンタイアーさんのキャンペーンは、NPO「RIPメディカル・デット」の活動の一環として作られた。
同団体は、債権回収業者や医療提供者から不良債権化した医療債務を元の値段より大幅に低い価格で大量購入した後に、すべて帳消しにする取り組みをしている。
RIPメディカル・デットのウェブサイトには、元の値段より大幅に低い額で購入するため、団体に寄付した人は、寄付額に対してその100倍もの負債を帳消しにできると書かれている。
支援対象者は、収入が国の貧困レベルの4倍未満で医療負債を抱えている世帯や、収入の5%以上を医療負債が占める世帯が中心だという。
SNSで報告しているように、マッキンタイアーさん自身は、治療費をカバーできる保険に入っていたため、良い治療を受けることができた。
しかし、グレゴリーさんは「恐ろしくなるような金額の書類を目にすることもあった」とAP通信に話している。
「良いがん治療があるにもかかわらず、支払えない人々がいるということに私とケイシーは心を痛めました。がん治療を受けたいとただ夢見るのではなく、医療負債で苦しんでいる人たちを助けられないかと思ったんです」
マッキンタイアーさんは、2023年5月に余命を宣告された。闘病を続ける中、ノースカロライナ州の教会に通う人たちが、帳消しになった300万ドル分の医療債務証書を燃やしているのをグレゴリーさんと見て感銘を受け、自分でもキャンペーンの立ち上げを計画し始めたという。
グレゴリーさんは「ケイシーは最期を迎えた時にはとても具合が悪くて、望んでいたすべてをやり遂げられたわけではありません。でも、彼女が記念となるこの負債免除を成し遂げたがっていることを知っていたので、彼女が望んでいたであろうやり方で立ち上げました」とAP通信に話している。
医療NPO・KFFの2022年の調査によると、アメリカでは約1600万人が1000ドル(約14万8000円)以上、約300万人が1万ドル(約148万円)以上の医療負債を抱えていると推計されている。
マッキンタイアーさんのキャンペーンは、75万ドル(約1億1150万円)の目標額に対して11月28日時点で、95%にあたる71万7080ドル(約1億660万円)が集まっている。
RIPメディカル・デットのダニエル・レンパートさんは「一般的に、寄付された1ドルは100ドルの医療負債を免除できる」とニューヨークタイムズに話している。
それを考えると現在の寄付額で7100万ドル分(約106億万円)の負債が免除できることになる。
レンパートさんは、本人が亡くなった後にキャンペーンが企画されるのは同団体では初めてだとも語っている。
「ケイシーのキャンペーンほど、多くの寄付金が急速に集まった募金活動を私たちは知りません」