新型コロナウイルス感染症の拡大は、障害者就労支援施設にも大きな影響を与え始めている。イベント自粛や学校臨時休校の影響で売り上げは減り、マスクなどの衛生用品確保の見通しも立たない中、各施設は生産活動の継続、利用者の工賃確保に頭を悩ましている。
地元産大豆にこだわった納豆を作っている新潟県長岡市の多機能施設「ワークセンター千秋」は、学校の臨時休校で6小学校に納品予定の給食用納豆がキャンセルされた。スーパーからの注文は増えているが、2月末から1カ月間で約10万円の減収になった。
栃木県足利市の「社会就労センターきたざと」は、A型利用者10人が働く屋内遊び場「キッズピアあしかが」を2日から23日まで休館した。行政からの感染防止要請を受けた対応だが、約30万円分の売店売り上げがなくなった。
手作りパンをワゴン車に乗せ移動販売している和歌山県海南市のB型施設「ぱん工房かたつむり」は、高齢者施設12カ所での販売が3月末まで中止になった。学校臨時休校で家にいる子ども用にパンを購入する人が増えたことや、新規販売先を開拓したことで売り上げはかろうじて微減で済んでいる。
京都府亀岡市の多機能施設「第三かめおか作業所」は、各種イベント中止の影響で約50万円の減収になった。同作業所は、クッキーやポン菓子など約50種類の手作り菓子を地域のイベントで販売したり、学校・企業などからOEMで行事用記念品などを製造したりしている。しかし、2月以降約30のイベントが中止。仕事は激減している。
クラスター(小規模感染者集団)が発生している名古屋市にある多機能施設「わーくす昭和橋」は、名古屋コーチンなど地元食材にこだわった肉まんを作っているが、家族が濃厚接触者に認定されたため、利用者2人が通所を自粛した。インターネットによる注文は好調だが、普段なら1カ月200~300人の客が店舗に来るが、今はほとんど来なくなったという。
各施設共通の悩みは、マスクやアルコール消毒液がなくなることと、売り上げ減が利用者の工賃に影響が与えることへの不安だ。各施設の管理者は「このまま長引けば大変なことになる」と口をそろえる。
5施設は、およそ1~3カ月分のマスク・消毒液を確保しているが、取引業者に注文してもすぐ届かない状態だという。使用枚数や量を制限して対応しているが、食品加工する施設は「無くなったら生産活動ができなくなる」と懸念する。
このほか企業の生産調整で仕事がなくなったり、ホテルの宿泊客減に伴いクリーニングの受注が減ったり、運営するレストランやカフェの客が少なくなるなど障害者就労支援施設にはさまざまな影響が出ている。
セルプ協が緊急要望
全国社会福祉協議会・全国社会就労センター協議会(阿由葉寛会長、セルプ協)は18日、厚生労働省に、新型コロナウイルス感染症への対応について緊急要望書を提出した。
要望書は「企業の生産抑制に伴う施設外就労の日数減少や請負加工の受託減少など深刻な影響が出ており、4月以降も悪影響が続く」として緊急支援策の実施を求めた。
具体的には、工賃減への対応など利用者が安定的な生活を維持するための所得保障や、利用者の欠勤による報酬減への対応など社会就労センターの継続的運営を可能とする報酬確保を要請した。
また、マスク・消毒液・手袋など衛生用品の優先的な配布を検討すること、施設外就労が困難になった利用者を施設内作業に従事できるよう定員超過特例に明記することも求めた。
職員採用のめど立たず
新型コロナウイルス感染症の拡大は、社会福祉法人の2021年職員採用計画にも影響を及ぼし始めている。
全国社会福祉協議会・中央福祉人材センターのまとめによれば、企業エントリー開始に合わせ、3月に予定されていた都道府県・指定都市社協主催の就職説明会(21都道府県・27回)のすべてが中止になった。
また、若手福祉人材の採用・育成・定着を支援している一般財団法人FACEtoFUKUSHI(F2F)が2月24日から3月末までに予定していた7都府県8カ所の就職フェアもすべて延期された。マイナビなど民間企業主催の就職説明会も同様だ。
法人独自の説明会も開催できず、面会制限のため施設見学なども実施できない。求人活動をしたくてもできないのが現状だ。
東京都内で特別養護老人ホーム2カ所を運営する社会福祉法人芳洋会は、21年4月に練馬区の特養ホーム「サンライズ大泉」を増床する。現在の入所50床・短期入所5床を倍増する予定で、番場隆市施設長は「介護職員を最低30人は確保したい」と話す。
どうなる増床分
同会の職員採用活動は、2~3月にさまざまな就職説明会に出展し、求職者をバス見学ツアーに誘って施設を知ってもらい、その後、面接につなげる流れを柱にしている。今年4月に採用する9人中5人がこの流れで採用した。これに養成校からの紹介、実習生からの採用などで、夏前にはほぼ職員採用は終える。
同会は、就職説明会を「母集団形成の機会」として捉えている。母集団形成は自社の求人に興味や関心を持っている学生を集めることだ。説明会で120人の母集団を確保できれば、その半分の60人がバス見学ツアーに来てくれ、最終的に30人を採用できるという経験則からくるものだ。
しかし、今年は2月19日のF2Fの就職フェアで14人の母集団ができただけ。その後に出展予定だった20回の説明会はすべて中止・延期になり、バス見学ツアーも実施できないという。
「増床分と通常採用分を合わせると200人の母集団が必要だが、4月以降も説明会が開かれるか分からない。職員採用のめどはまったくつかない」と番場施設長は話す。
就活生の不安も懸念されるが、日本社会事業大学生支援課は「福祉系学生は一般大学に比べ動きが遅い。4月以降就活を始める学生が多く、今はまだ不安の声は上がっていない」という。
オリンピック・パラリンピックが延期になり、当初の予定が大きく変わった21年の就職戦線。社会福祉法人の職員採用もこれまでとは違った対応が求められている。
2020年3月31日 福祉新聞より転載