オーストラリア東部で発生した洪水では、3月3日までに少ないとも14人の死亡が確認されている。
クイーンズランド州やニューサウスウェールズ州では、1週間続いた雨で何千人もが自宅からの避難を余儀なくされ、停電も発生している。さらにいくつかのエリアでは、今後嵐が起きると予想されている。
そういった中で、多くの動物たちも命の危険にさらされており、救助活動が続いている。
クイーンズランド州都のブリスベンの郊外の町では、男性がワラビーを水中から救出する映像が撮影されて話題になっている。
この男性は「友人の家にいた時に、息子が水の中にいるワラビーに気づいた」ABCラジオブリスベンに説明している。
ワラビーはグルグルと回りながら泳いでおり、何度か頭が水に沈んでいたという。
男性は、混乱し疲れ切ったワラビーを助けるために、流れを慎重に確認して水の中に入った。そしてワラビーに近づいて優しく話しかけ、体を支えながら水のない場所へと連れ出した。
相次ぐ救援要請
水が引くのにあわせて、野生生物救助団体への救助要請も急増している。多くの獣医や救助隊は自身も洪水の被害を受けており、できる支援が限られる中で救助を続けている。
ニューサウスウェールズ州北部の都市リズモーは、過去最大規模の洪水に見舞われ、街全体が水で覆われた。
野生生物救助団体「WIRES」のボランティアは、この洪水でハリモグラのような小動物が数多く犠牲になったと話す。
WIRESスタッフのレオニ・バイロン・ジャクソンさんは「残念ながら、洪水はハリモグラにとって最悪な時期に起きました。今の時期、ハリモグラは地中で暮らしているからです」「生息地域が浸水し、ハリモグラたちは溺れてしまいました」と説明する。
ジャクソンさんによると、電柱にしがみついていたハリモグラを見つけたという女性から、WIRESに連絡があった。地中で生息するハリモグラが電柱にいるのは非常に珍しい光景だ。女性はハリモグラを救出した後、高台で放したという。
WIRESの広報担当者は「今回の洪水のような異常気象は、野生生物にストレスやショックを与えます。特に、鳥は浸水して動けなくなり、大きな影響を受けることが多い」とハフポストUS版に述べた。
離れた場所に流され、疲れ切った状態でビーチにいる海鳥や若い海亀が見つかることがあり、時にはそれが何キロも離れた島で起きることもあるという。
WIRESには、救助を必要とするワラビーや鳥類、バンディクート、コアラ、カンガルーの救援要請が次々に寄せられており、同団体は2つの州で救助活動に当たっている。
今後さらに救助要請が増えるだろうと考えられてているものの、これ以上どんな影響があるのか、まだ予測できていない。
WIRESの広報担当者は「今までに経験したことがないという点で(今回の洪水は)は森林火災の時と似ています」と語った。
クイーンズランド州やニューサウスウェールズ州当局は、現在国立公園や施設などで被害を調査をしている。
カモノハシを蘇生させる
クイーンズランド州のサンシャインコーストでは、地元住民のレディ・ペネロペさんが、橋の近くに流されて、死んだと思われたカモノハシを蘇生させ話題になった。
ペネロペさんは「なぜ膝まで水に浸かって、あんなことをしようとしたのかわかりません」とハフポストUS版に語った。
「赤ちゃんが息をしていない時のために教えてもらった、指を2本使って圧迫する心肺蘇生をやってみました。すると驚いたことにカモノハシは唾を飛ばし、咳をして、口から何か出して、息を始めたのです」
ペネロペさんは嬉し涙が出てきて、思わず泥の中に座り込んだという。約10分ほどすると、「カモノハシは目をパチパチさせて私を見て、水の中に戻っていきました」と説明した。
ゴールドコーストにあるカランビン野生生物病院も、救助された動物で溢れた。同病院は3月3日までに、100匹以上の動物を受け入れたという。
獣医でテレビ番組ホストのクリス・ブラウン氏によると、洪水ではトカゲやハリモグラやヘビなど地中に生息する動物が最も苦しめられるものの、フクロネズミや鳥類が木のうろから追われたり、コアラの子どもが母親から引き離されたりと、様々など動物が影響を受けている。
ブラウン氏は「野生生物たちは、この4年で多くの困難に直面してきました。彼らが今回の困難を切り抜けるれるよう願いましょう」とInstagramにつづっている。
異常気象で困窮する動物たち
干ばつや熱波、2019〜20年の破壊的な森林火災、そして歴史的な洪水。オーストラリアは近年、自然災害に次々と見舞われている。科学者たちは、こういった異常気象による災害は、気候変動が悪化すればさらに増えるだろうと警告している。
この洪水を生き延びた野生生物も、自動車事故(ショックを受けた状態で道を横切る時)や低体温症、食糧不足や生息地の喪失による栄養不要のリスクにさらされている。
ブリスベンを拠点にする野生生物保護団体「レスキュー・コレクティブ」によると、3日間で13匹のコアラを救出した人もいる。
2年前の森林火災では、何千匹ものコアラが犠牲になった。気候変動や生息地の喪失でコアラの頭数は激減しており、2022年2月には絶滅保護種に指定された。
洪水の被害を受けた野生生物を見つけた場合は、野生生物病院かWIRESのようなレスキュー団体に連絡するよう勧められている。
さらにレスキュー団体は、救助を待つまでの間、安全であれば動物をタオルで乾かし、布で体をくるんで温め、清潔で蓋のある箱に入れて、救助隊員が到着するまで暗い場所に置くのがいいとアドバイスする。
屋外に箱やタオルを置くと、高い場所に避難した動物の避難場所になるという。
海の生き物たちにも被害
WWF(世界自然保護基金)オーストラリア・海洋部門トップのリチャード・リック氏によると、洪水の長期的な影響は沿岸部で特に顕著に現れる。
押し寄せてきたがれきの問題を解決した後には、有害物質の汚染が何年も続く。広範囲に及ぶ影響で生物の分布が変わり、岩礁のダメージや個体数の減少などを引き起こすという。
ブリスベン北東部のモートン湾は、多くの海洋生物が暮らす場所だ。しかしレック氏は「私たちは、流されてきた堆積物で海藻が覆われ、海亀やジュゴンの食べ物が奪われるのを見てきました」と語る。
ジュゴンは食べ物を求めて沖に移動すると考えられているもの、亀はより厳し状況に置かれそうだ。レック氏は「研究によると、海亀は移動しない傾向があります」とは述べる。
「彼らが十分に食べられる餌がありません。ですからおそらく半年から1年で、非常に大きな影響が出てくるでしょう」
ハフポストUS版の記事を翻訳・加筆しました。