。アメリカのトランプ政権で首席戦略官を務めたスティーブ・バノン氏が来日し、「NHKはフェイクニュースを流す報道機関だ」と会見で述べ、物議を醸した。
バノン氏はトランプ大統領の元側近。「影の大統領」とも言われた人物だ。
「アメリカが第一」を掲げるトランプ政権内で過激な主張を繰り返していたが、次第に孤立。ついには更迭され、古巣の保守系メディアのトップに戻った。
19日、民進党の前代表で現在は「希望の党」所属の前原誠司氏がバノン氏と会い、「感銘を受けた」とTwitterで投稿したところ、批判を浴びた。
スティーブ・バノン氏とはどんな人物なのか。振り返ってみよう。
バノン氏は保守系のニュースサイト「ブライトバート・ニュース・ネットワーク」の会長だ。白人至上主義者として知られ、反ユダヤ主義者として非難されている。
バノン氏は「ブライトバート」を、白人至上主義者とオルタナ右翼(アメリカの「ネット右翼」の総称)に人気のニュースサイトとして育てることに成功した―—。アメリカ国内の扇動的なグループの動向を監視している「南部貧困法律センター(SPLC)」は、そう指摘する。
先の大統領選を通じて、「ブライトバート」はトランプ陣営の主張を代弁する報道機関になった。トランプ氏に批判的だったポール・ライアン下院議長やジョン・マケイン上院議員など、共和党の主流派を攻撃する役割を果たした。
さらに、セクシュアルハラスメントや性差別と闘う女性について攻撃し、有色人種や移民を「生まれながらの犯罪者」だとも伝えている。
退役後、バノン氏は投資銀行のゴールドマン・サックスを経て、メディア専門の投資会社を立ち上げた。こうしてバノン氏は財を成した。1993年、アメリカの国民的コメディドラマ『となりのサインフェルド』の番組放映権販売の交渉に協力し大儲けしたと伝えられている。
稀有な経歴を辿ってきたバノン氏は、一体どんな性格なのだろうか。
ブライトバートの元編集者ベン・シャピロ氏は、バノン氏を強い言葉で非難する。
「バノン氏の野望は、自らが権力の座に着くことだ。だから、たとえ事実と異なっていても、トランプ大統領に『自分は素晴らしい仕事をしている』と伝えるだろう」
「それこそバノン氏が政治家や投資家を操る手法だ。まずは個人が持つ天才的な才能に投資する。その後、内部からえぐり取るのだ」
2016年の大統領選で、バノン氏はトランプ陣営の最高責任者を務めた。 2016年11月、大統領選に勝利したトランプ氏はバノン氏を首席戦略官と上級顧問に指名した。
こうしてバノン氏は、アメリカの政権中枢で最高幹部のポストを得た。 トランプ大統領は、人事案を発表した声明の中で、バノン氏をこう持ち上げた。
「スティーブ(・バノン氏)とラインス(・プリーバス首席補佐官)は非常に有能なリーダーで、選挙では協力して歴史的な勝利に導いてくれた」
「これから2人は私と共に再びアメリカを偉大な国にするためにホワイトハウスで働いてもらう」
さらにトランプ大統領は2017年1月、バノン氏を「国家安全保障会議」(NSC)の常任メンバーに指名した。これによりバノン氏はアメリカの安全保障政策を決定する会議に、閣僚級の高官らと同席することになった。
バノン氏は政権内で、一部のイスラム圏からの入国禁止令や、地球温暖化防止に向けたパリ協定からの離脱といった政策を主導したとされる。
トランプ政権発足からわずか3カ月後の4月5日、トランプ大統領はバノン氏をNSCの常任メンバーから外した。一体、なにがあったのか。
背景には、トランプ大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー上級顧問による「助言」があったとされる。 極右的かつ国家主義的な思想を持つバノン氏のポピュリズム的な政治手法を、クシュナー氏は懸念していたという。
次第に政権内で孤立していったバノン氏は、8月18日に首席戦略官と上級顧問の職を解任された。その理由については、以下のように様々な説がある。
- トランプ氏が軍事作戦の可能性を示唆していた北朝鮮問題について「軍事的解決などない。忘れてしまえ。意味不明だ」と主張し、トランプ氏の逆鱗に触れた説
- トランプ氏の長女イバンカ大統領補佐官とクシュナー夫妻との対立説
- 8月15日にバージニア州シャーロッツビルで発生した反白人至上主義のデモ襲撃事件を受けて、白人至上主義者と呼ばれるバノン氏の更迭を求める声が高まった説
政権を追われたバノン氏は、古巣のブライトバートのトップに戻り、保守派の言論人として活動している。
12月17日、来日したバノン氏は都内で開かれたシンポジウム「J-CPAC」に登壇した。
このシンポジウムでバノン氏は「(中国は)我々を経済的に侵略しており、米国は中国の属国になってしまった」と、相変わらずのバノン節を見せた。