性暴力が起きた時に、被害者に対して「ホテルに誘われて何もないと思っている方がおかしい」「露出の多い服装が問題だったのでは」などの批判が起きることがあります。
しかし、ホテルに行ったことが、デートに応じたことが、一緒にお酒を飲んだことが、好きな服装を着ていたことが、性行為をしていい理由にはなりません。
性行為に及んでいいのは相手との「性的同意」があった時だけです。
その「性的同意」がとれているかどうかは、どうやって確認できるのでしょうか?
紅茶で考える「性的同意」
性的同意を考える上で反響を呼んだのは、イギリスのテムズバレー警察が2015年に公開した「紅茶」の動画です。
この動画では、性的同意を紅茶に置き換えて考えてみるよう提案しています。
あなたが「紅茶はいかが?」と勧めた時、相手が「飲みたいです!ありがとう、ぜひ!」と答えたのであれば、それは「同意」があったということ。
しかし「う~ん...どうしようかな...」と答えた場合、あなたは紅茶をいれてもいれなくても構いませんが、決して相手に無理やり飲ませてはいけません。
わざわざ紅茶をいれてあげたとしても、相手がそれを飲まなければならない義務はないし、飲もうとしない相手に無理に飲ませてはいけないのです。
そして相手が「いりません」と答えたなら、紅茶をいれるのをやめましょう。動画は「飲ませてもいけないし、相手に腹を立ててもいけない」と伝えています。
加えて重要なのは、相手に「紅茶を飲む」という意思が最後まであることです。
「お願いします!ありがとう!」と言われて紅茶をいれた後で、相手が「やっぱり飲みたくありません」と気持ちを変えたのなら、同意はありません。
また「意識がない人に、無理やり紅茶を飲ませてはいけない」という点も重要です。
紅茶を飲む、つまり「性的同意」があるのは、相手が紅茶をいれることに同意し、自らの意思で飲むことを選んだ時だけです。
実際に、私たちは嫌がっている人や意識のない人、眠っている人に、紅茶を飲ませようとはしないはずです。
動画は最後に、「紅茶を飲みたくない人に無理やり飲ませることがどれほど馬鹿げていて、相手が紅茶を飲みたくないと理解できるのならば、セックスも同じです。紅茶もセックスも、Consent(同意・承諾・納得)がすべてです」と伝えています。
テムズバレー警察は「同意のないセックスはレイプです」とも強調しています。
立場を利用した「同意」はダメ
性的同意を確認する時には「立場を利用したり、自分の気持ちを押し付けたりしてはいけない」という点も重要です。
内閣府による性暴力のSNS相談窓口「Curetime」は2023年10月、一つの例えを紹介して「自分の立場や相手の感情を利用して『別れる』など言葉で脅したり、不機嫌になって圧力を加えた『同意』は同意ではありません」と伝えました。
Curetimeが投稿したイラストには、付き合って1週間の彼氏から、性行為を迫られた場面が描かれています。
イラストで「私」は嫌だと伝えていますが、不機嫌になった相手のために、渋々性行為に応じなければいけない状況に。「それって本当に性的同意?」と問いかけています。
性教育の講演や性の健康・権利に関する啓発活動などに取り組むNPO法人「ピルコン」も「強引な行動は支配や性暴力になります」と伝えています。
性的同意をとるためにはどのような環境が必要なのでしょうか。ピルコンは4つのポイントを挙げています。
① NOと言える環境が整っている(非強制性)
② 社会的地位や力関係に左右されない対等な関係である(対等性)
③ 1つの行為への同意は他の行為への同意を意味せず、その都度の確認が必要(非継続性)※いつでも「やめて」と言える
④ その行為が「したい」という明確で積極的な同意がある(明確性)
「京都市男女共同参画推進協会」発行の『Gender Handbook』で紹介されている10のチェック項目も、性的同意を確認するうえで参考になります。
10の項目には「キスをしたら性行為をしてもいい」「家に泊まるのは性行為をしてもいいサイン」「イヤと言っていなかったら、性行為もOKのサイン」などが含まれていて、一つでも当てはまるなら「性的同意」は取れていないと伝えています。
ホテルの部屋に来た、一緒にお酒を飲んだ、家に泊まった、は同意ではないのです。性的同意は相手に明確な「イエス」がない限り、「ノー」です。
日本でも2023年7月、同意のない性的行為が犯罪になりうることを明確にした「不同意性交等罪」が施行されました。
相手に積極的な同意がない限り、性的行為は性暴力であり、決して許されてはいけません。