インターネットが普及した今の社会では、小さなお店でもサイトをつくり、自社の強みを訴えていくことが重要になっている。しかし、実際にサイトを作っても専門的なサポートを得られず、成果につながらないということも少なくない。そんな問題を解決する人材を育てようと、昨年10月に一般社団法人ウェブコンサルタント協会が発足した。「ウェブアドバイザー」という資格制度をつくり、4月からは各種セミナーも開催していく予定だ。教材としても使える本を出版するために、クラウドファンディングで支援を募っている。
ウェブコンサルタント協会は中小企業のイノベーションを促進する人材育成を目的とし、ウェブ活用教育や資格制度、支援のための会員制度を運営している。
「ウェブアドバイザー」は、飲食店や美容室など、地域に根ざしたローカルショップ向けにウェブサイト活用のアドバイスや更新の支援などをする専門家として育成。店側からは月3〜5万円程度のアドバイス料をもらうことを想定している。子育て中の女性や在宅勤務をしたい人には、自分の時間にあわせた働き方ができそうだ。
■ニーズが高い、ウェブコンサルティング
ウェブ活用のアドバイス、コンサルティングといっても、そのニーズの幅はかなり広い。
「ウェブ活用で最も重要なのは、ウェブサイトをつくる前段階で、商品やサービスをウェブでどう展開していくかという設計の部分になります。ここをコンサルティングするには、それなりの知識と技術、経験が必要で、その習得にも時間がかかります。
一方で、そこまで根本的なところの見直しをする余裕はなく、とにかく今あるウェブをどう活用したらいいのかを知りたいというニーズも、飲食店などを中心にかなり高い。
そういう現状を踏まえて、世の中で今必要とされているアドバイスができる人材を育成しようというのが“ウェブアドバイザー”です。経験値が浅くても、基本理論を習得することで、そういったお店側の切羽詰まったニーズには十分お役に立てるはずです。気軽にウェブ全般について相談できる窓口といえるでしょう」と語るのは、同協会理事で、ゴンウェブコンサルティング代表の権成俊さんだ。
「ウェブアドバイザーの資格を広めたい」と同協会が力を入れる理由は、市場のニーズのほかに、女性の活躍する場を増やしたいということがある。
「資格を得る機会は提供するので、それを利用して、自分に合った働き方を見つけられないでいる女性の皆さんにもっと活躍してほしい。新しい働き方を提案したい、という思いがあります」(権さん)
■家庭と両立できる働き方を探して
そんな働き方を体現しているのが、同協会理事でゴンウェブコンサルティング取締役の村上佐央里さんだ。現在、43歳の村上さんは、新卒でシステム開発会社にSEとして入社。その後、将来の独立開業を意識して、2004年からゴンウェブコンサルティングに入社する。
「大学は教育学部で将来は先生になるつもりでした。でも、教育実習での未熟な自身を知り、もっと社会経験を積みたいと思い、システム開発会社へ。手に職をつけて、将来は独立して働けるようにと考えてのことです」と、村上さんは社会人になった当初から将来の独立を頭の隅に描いていたという。
「結婚しても、出産してもずっと働き続けたいという気持ちがありました。だったら、女性の場合は、資格やスキルを得て、独立してやっていけるように準備するのが一番だと思ったんです。システム開発の会社では5年間働き、結婚を機に28歳で退職。ウェブデザインを少し学んでから、ゴンウェブコンサルティングに転職しました。システム開発とウェブデザイン両方の知見を活かせたらと思いました」(村上さん)
ゴンウェブコンサルティングでは、週2日のアルバイト勤務からスタート。その真面目な働きぶりと、スキルの高さに、すぐに権さんの右腕として活躍し始める。権さんと共著の本を書いたり、セミナー講師をするなど、仕事の幅もどんどん広がっていった。その後、2009年にフリーランス在宅ワーカーとして独立した。
「転職してきたときから、将来は独立したいというのが村上の意向でした。非常に優秀なので、独立してからも業務に関わってもらい、現在は、弊社の取締役にもなってもらっています」(権さん)
■辛い日々を支えてくれた家族、友人。そして、仕事
一方で、在宅で働ける道を、家庭と両立できる働き方を、と考えていた村上さんにとって、独立後、プライベートでは辛い現実と向き合うことになる。
「フリーになった理由のひとつに、そろそろ真剣に子どものことを、というのがありました。2010年に妊娠したのですが、子宮筋腫が原因で流産。そのショックからようやく立ち直った頃に、今度は東日本大震災が。夫の実家は陸前高田で、義父や夫の友人など多くの親しい人たちを失いました」(村上さん)
震災直後から、足繁く現地の避難所に物資を運ぶ日が続く。被災地復興のボランティア活動にも参加し、東北の人々の心に深く寄り添う日々が流れていった。年齢のことも考えて、震災で中断していた妊活をようやく再開したのは、2012年。しかし、妊活に励む村上さんを再びトラブルが襲う。
「2014年に突然脳腫瘍で倒れてしまったんです。幸い良性だったので、手術で無事回復することができましたが、今も薬は飲んでいます」(村上さん)
村上さんの体を心配したご主人は、「子どもなんて、いなくていいじゃん。その分、自分達がより満足できるように生きていこうよ」と明るく笑い、村上さんに妊活をやめようと告げる。
教員を目指していたほど、子どもが大好き。若い頃から子育てと両立できる働き方を考えていた村上さんにとって、とてもつらい決断だった。インタビューでは、これまでの人生を淡々と、ときには笑顔を交えながら語っていた村上さんの目にも、怒涛の5年を思い返して涙が浮かぶ。
「いろいろな辛いことが続いた5年だったけれど、それでも夫や周囲の人々、そして誇りを持ってできる仕事に救われたと思う。それには感謝しかありません」──そう、村上さんは語る。
■もっと多くの女性たちに、働く人生の喜びを
脳腫瘍を経て、本格的に仕事に復帰した村上さんは、権さんにこんな言葉を告げた。
「誰かの利益を増やすためだけではなく、世の中のためにもなったと自分が実感できる仕事を、もっとしていきたい」
そのひとつが、今回のウェブアドバイザーという資格の普及にもつながる。
いろいろな事情のある人が収入を得て、自己実現ができる働き方がもっとあってもいいはずだ。自分が誇りを持てる仕事があることが、どれほど人生の支えになるのか──。
それだけの体験をしてきた村上さんだからこそ、子育てで働くことをあきらめている多くの女性たちに伝えたいと考えている。
「村上のような働き方が、ひとつのロールモデルになっていけばいい。少子高齢化が深刻な日本で、子育て中の女性でも、介護で時間の自由に働きづらい人でも、いろいろな働き方のチャンスがあります。そして、ウェブコンサルティングの世界では、知識を持ってアドバイスをしてくれる人材を求めている。きっと、ウェブアドバイザーという仕事を通じて、人の役に立つ喜びを感じてもらえるはずです」(権さん)
今は週に1〜2回、仕事で外出するほかは、基本的に在宅で仕事をしているという村上さん。家事をしながら、メールや電話会議、パソコン作業などをこなしているという。
「夕方からはファミリー・サポートで、近所の子どもを預かり、元気をもらっています」(村上さん)と笑顔を見せる。
新しい自分に合った働き方を多くの人に見つけてほしい。村上さんの思いは、4月から本格的にスタートする。
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(工藤千秋)