「和歌山を輝かせる!」をテーマにさまざまなプロジェクトを手がける小幡和輝(オバタ・カズキ)さん。
2016年、クラウドファンディング・プラットフォーム「CAMPFIRE」で資金を集め、和歌山が大好きな人を増やすため、同県の名産品を絵柄にした「わかやまトランプ」を制作。
2017年には日本全国で地方創生に関わる人を和歌山に集め「地方創生会議」を主催するなど、精力的に活動している。 しかし、中学校までの彼は1日のほとんどをゲームに費やし、学校に行かない少年だったという。
そんな小幡さんはいかにして高校3年で起業し、社長になったのか? そして彼が和歌山のために活動する理由とは?
不登校のゲーマーが、とある出会いで実業家へ
ーー小幡さんは実業家でもあり、大学生でもありますよね。
小幡:和歌山大学観光学部の4回生です。会社が忙しくて大学へは全然行ってないように言われるんですが、卒業に向けて、ちゃんと出席していますよ。
卒論は主宰する「地方創生会議」をテーマにする予定です。地方創生という言葉はよく使われるようになりましたが、実態はどうなんだと思うところがあって。
ーー大学生活も充実してそうですね。しかし、小中学校の頃はあまり学校へ通えていなかったと伺ったのですが。
小幡:実は、中学校まで不登校の経験があります。幼稚園のころから小学2年生の半ばまでは、「行かないと怒られるから行く」程度。学校が楽しいと思った記憶はないですね。そうしているうちにクラスに馴染めなくなって、小学3年生から中学卒業までは登校していません。
ーーなるほど。学校に行けなかった時期は、家でどんな風に過ごしていたんですか?
小幡:ゲームですね。いとことファミコンやトランプをよくやっていました。特に運の要素と実力の要素がバランス良く混ざっているゲームが好きです。
トランプはその場その場で運の要素が絡まってきて、臨機応変に柔軟に対応する必要がありますよね。それまでに積み重ねてきた実力の部分と、手札や相手がどう出るかわからない運の部分が混ざり合って結果が出る魅力があります。1ゲームにかかる時間が短くて、場所を選ばず気軽に遊べるのもいいですね。
ーーゲームに没頭していた日々からまだそれほど経っていませんが、現在の小幡さんは全く違う人に見えるので不思議です。どこかで変わるタイミングがあったんでしょうか?
小幡:定時制高校に通っていた時に出会った友人の影響ですね。学校は違ったのですが、高校の勉強と部活以外にも、アルバイトやバンド、イベントの企画などもしていて。同世代なのにすごいなと憧れていました。
その彼に「イベントをするんだけど手伝ってくれない?」と誘われて、1年くらいイベントの受付やステージの裏方を担当しました。それがすごく楽しくて、自分の性格や考え方が変わったんです。そこから自分でも何かをしたいと思い、イベントを企画するようになっていきました。
ーー高校生がイベントを企画するのは大変だと思うのですが、うまくいきましたか?
小幡:1回目は50人を想定していたところ、5人しか集まらず大失敗でした。何もしなくても人が来てくれると思っていたんですね。
それが悔しくて、次からFacebookやTwitterのアカウントを作って、高校生にどんどんメッセージを送り、イベントを告知し始めました。その結果、次は70人以上が来てくれて、それ以降も多いときは100人以上が集まるようになりました。
ーーそれはすごいですね。
小幡:当時は和歌山に発表するための場所が少ないと感じていたんです。そこで、カフェのスペースを借りてステージを作り、高校生が中心になって発表や勉強会に使える場所を作りました。
人を集めるのは楽しいし、これを何とか仕事にしたい。でもこのままじゃだめだと思うようになって。本気で取り組む覚悟を決めるために会社を設立しました。それが2013年、18歳のときです。
ーーどこかに就職するのではなく、いきなり会社を作るという発想だったのですね。
小幡:作ることに迷いはなかったですね。
イベントを企画していたときも、高校生という肩書だけでは契約でつまずくことが多かったですし、本気でやっていることがなかなか伝わらずに歯がゆい思いもしていましたから。会社になればそういう点もうまく進むだろうと考えていました。
それに起業すると、「代表取締役」という言葉と並んで自分の名前が書類に書かれるようになるじゃないですか。それだけでも頑張る原動力になったんです。
トランプで遊びながら和歌山を知ってほしい!
ーー会社の活動の一つとして、一昨年、CAMPFIREで資金を集めて「わかやまトランプ」を作られましたよね。そのきっかけを教えてください。
小幡:「わかやまトランプ」を作ろうと思ったのは、和歌山のことをもっとたくさんの人に知ってもらいたいと思ったからです。ただ、一人で「和歌山はこんなにいいところだ」「こんなものがある」というPRをしても、伝えられる人数は知れていますよね。
ならば、さまざまな人に和歌山を好きになって、語れるようになってもらおう、観光大使になれる人材を育てようと思ったんです。それにはまず、和歌山を知ってもらわなければいけない。そこで和歌山の名産品を絵柄に取り入れたトランプを作って、遊びながら和歌山のことを知ってもらおうと考えました。
ーー自分の出身地でも、知らないことは多いですよね。
小幡:そうですね。僕も今では和歌山のことをよく知っていますが、以前は知らないことばかりでした。同じ和歌山でも、地元の湯浅町のことなら「醤油の発祥地ですよ」「こんなにすごいものがありますよ」と語れましたが、地元以外の地域ではそんなことはなくて。
誰でも自分の地元ネタなら語れるので、それを持ち寄れば県全体のいいものが集まります。「トランプ」という形にしたのは、子どもから大人まで場所を選ばず一緒に遊べるものだからです。学校の授業で使いやすいかなという気持ちもありました。
クラウドファンディングで「作りたい!」と宣言するのはノーリスク
ーーそれをクラウドファンディングで製作しようと思ったのはなぜですか?
CAMPFIREでページを作ってチャレンジするのは、初期投資が不要でリスクもほとんどありません。
トランプは印刷費用がかかるので、支援金という形でお金が集まるのは魅力でした。多くの支援をいただき、無事に製品化できたので本当にうれしく思っています。
もう一つの理由は、誰でも資金調達にチャレンジできる仕組みがあるのに、そのことを知らない人が多いと感じていたからです。自分が利用することで、少しでもクラウドファンディングという仕組みを知ってもらえたらなという思いもありました。
小幡:製品化した「わかやまトランプ」は、無料でネットショップを作れるサービス「BASE」で売っているのですが、技術も資金も使わず、商品を全国に販売できるってすごいことですよね。
社会や企業はチャレンジをサポートしていこうという風潮になってきていて、BASE以外にも様々なサービスがあります。でも、チャレンジする側はそれを知らない人が多い。それってすごくもったいないですよね。
僕は自分が地方にいる人たちのロールモデルになれるよう、率先していろいろな仕組みを活用したり新しい働き方を実践したりしていきたいと思っています。和歌山で起業する人が増えてほしいですし、活動して注目が集まると、自分自身へのプレッシャーにもなりますしね。もっとがんばらないと、周りから見られているぞと(笑)。
ーーチャレンジする人が増えてほしいと思う理由はなんでしょうか?
特に地方において、インターネットが発達して以降、状況が全く変わったと思うんです。
場所を選ばず仕事ができるようになり、「地元にいながら、かっこいい仕事をする」という選択肢が生まれています。地元にいるから地元のことしかできないという考えにとらわれてほしくないと思っていて。生活コストの安い和歌山にいながら、東京と同じ仕事ができるのは最高ですよね。
自分がやりたいことができて、収入も得られる。大学進学で県外へ出たとしても、県内の企業に就職するだけでない多様な働き方が実現できるのであれば、地元に帰ってきやすいような気もします。だから、自分で何かをやってほしいなと思っているんです。
これからも和歌山に根ざし、和歌山を輝かせていく
ーー会社設立から5年が経ちましたが、手応えはありますか?
いろいろ変わりましたね。最初はイベントをすることしか知らなかったので、イベントでお金を稼ぐしかなかったんです。どうやったら参加費が、それもたくさんもらえるのか?とばかり考えていました。
それから自分が講師になって、全国を講演活動で回るようになりましたが、会社の売上でいちばん多いのが自分の講演料ってどうなんだと思って(笑)。
それで、「わかやまトランプ」を作ったり、「地方創生会議」(※)のような場作りをしたり、毎年自分がやるべきことを考えて、チャレンジの形を変えていくようにしました。
※地方創生会議...2017年6月、高野山で開催。実行委員長を小幡さんが務める。地方創生に関わる人を全国から集め、各自の活動に関する発表や情報共有を行なった。https://chihousouseikaigi.jp/
ーーこれからの事業展開はどのようにお考えですか。和歌山にこだわらず、東京や世界で事業をすることもできると思いますが。
小幡:単純に事業を拡大させる方向ではなく、和歌山に住んでいる人や和歌山に関わっている人が変わるような何かができればいいなと。僕は和歌山で生まれて育っているから、輝かせたいと思う対象が和歌山ですし、活性化してほしいと思うのも和歌山です。
他の地域のことは、そこに想いのある誰かに任せればいい。僕は「自分がやる意味がある」「ほかの人にできない」と思ったものを作ったり広めたりしていきたいですね。
ーーそれぞれが自分の地元を輝かせていくと。では、そのために必要なことはありますか?
小幡:「こんなのあったらいいのにな」という個人の想いだと思います。それを「万人ウケしないから」と否定してしまうのではなく、商品、サービス、イベントなど形にしてまずは発信してみてください。インターネットを通じて、同じ想いを持っている人には必ず届きます。
(取材・執筆:万谷絵美、編集:BAMP編集部)
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