僕がいつものようにカウンターの中でレコードをかけていると、飲食店プロデューサーとして有名な中村悌二さんが、「やっぱりこれからはアナログ・レコードが聞けるお店だね」って言ったんです。
ちなみに中村さんは、飲食業界ビジネス・スクールのスクリーング・パッドの運営もされていまして、飲食店の流行り廃りには一番敏感な方です。決してよくあるノスタルジーおじさんの「ノイズの音が懐かしいなあ。やっぱりアナログレコードが良いねえ」という気持ちから言ってるのではないんです。
中村さんは懐古趣味じゃなくて、本気で「アナログレコードが聞けるお店は新しい」と感じているんです。
では、どうして中村さんが、今になって「アナログ・レコード」と言い出したのかを考えてみました。
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あらゆるビジネスをやっている人は、「どういう商品だったら人はお金を出して買ってくれるんだろう?」っていつもいつも考えていると思います。
「有名人や信頼できる人がオススメしていたから」とか「希少価値が高いから」とかとにかくいろんな理由で人はついつい買ってしまいます。
さて、「自分の家では体験できないから」という理由で、そのお店に行くってことありますよね。
下世話なところだと「奥様にセーラー服を着てっていうのはちょっとお願い出来ないから、セーラー服プレイのお店に行く」とか。
お寿司や凝ったフレンチやシェイカーを使ったカクテルなんかも「ちょっと家では再現不可能だから、わざわざ高いお金を払ってお店で体験する」ってことだと思うんです。
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さて、1960年代頃から流行った日本のジャズ喫茶は「当時、レコードがすごく高くて普通の若者が簡単に買えなかったのと、オーディオも良い装置を持っている人がいなかったから、ジャズ喫茶に行って聞かせてもらう」という理由でみんな通ったわけです。
そして、その後、ジャズ喫茶が廃れた理由は、みんなレコードやCDやオーディオを簡単に買えるようになったから、わざわざジャズ喫茶に行って聞く必要がなくなったわけです。
「あ!」って気が付きませんでしたか。
最近の若い人ってレコードプレイヤーはもちろんCDプレイヤーも持ってないですよね。PCも持ってないから大体CD自体読み込む装置がありません。
さらに「ヘッドフォンで聞く」というのが一般的になったので、スピーカーで聞くという体験も出来なくなっているんです(最近は電気屋さんのオーディオコーナーは、まるでヘッドフォン売場ですよね)。
そんな若い世代からすると、アナログレコードに針を落として、スピーカーで大音量で聞くって「ちょっと家では出来ない体験」なんです。
もちろん以前からそういう傾向はありましたが、最近、配信音源をスマホで聞くようになって、ますます「アナログをスピーカーで聞く」という体験が貴重になっているような気がします。
中村さんが「アナログはいける」と言ったのは、決してノスタルジーではなくて「これは新しい、わざわざお店に来てお金を出してまで体験する価値がある」って肌で感じ取ったんだと思います。
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シュート・アローさんのジャズ喫茶探訪エッセイ第三弾『ジャズ喫茶が僕を歩かせる』が出ました。→http://goo.gl/2dHkHO
この本、「飲食店でアナログレコードを聞くこと」の魅力にあふれています。
例えば村上春樹が「ピーターキャット」というジャズ喫茶を経営していたことは有名ですが、そのピーターキャットではどんなオーディオが使われていたかというのを、1975年当時の「月刊JAZZ」から詳しく紹介しています。
さらに1年後の『ジャズ日本列島 昭和五一年版』から「アンプがサンスイBA3000、CA3000に買い換えられている」と指摘します。
そしてさらに後の村上春樹のエッセイから、「当時、JBL L88 Plusよりも本当はもっといいスピーカーが欲しかったそうだが金銭的に難しかったと述べている」という箇所も拾います。
そしてもちろん「ピーターキャット」が千駄ヶ谷に移転してからのオーディオ機器も追いかけます。
1980年のBRUTUSに村上春樹がピーターキャットの店内で撮影されているのはご存知でしょうか。その写真からも作者は想像を働かせます。
そしてさらに「村上さんのところ」から、現在の村上春樹のオーディオも考察します。いやはや「すごい!」のひとことです。
ちなみにシュートアローさんはジャズ喫茶のマッチもコレクションしていて、ピーターキャットのマッチの写真も掲載されています。村上春樹ファンにはたまらないですね。
あ、もちろんこの本は「村上春樹のオーディオ」だけではなく、「東北にジャズ喫茶が多い」とか「美味しいカレー」などなど、ジャズ喫茶への愛が満ちあふれています。
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いろんな定額の音楽配信サービスが始まって、「音楽の楽しみ方」が変わってきましたね。
今、小学生くらいの人にとっては、もしかしてCDも触ったことがなく、「音楽はヘッドフォンで一人で聞くもの」として認識する存在になるかもしれませんね。
だからこそアナログレコードが大きいスピーカーから聞けるお店って本当に新しく感じるでしょうし、「あの世界的に有名な作家村上春樹はどうしてこんなにスピーカーにこだわっていたんだろう」って追体験したくなるかもしれません。
そういう時、「アナログレコードが聞けるお店」、ちゃんと残っていると良いですね。
そして、このシュートアローさんの『ジャズ喫茶が僕を歩かせる』→http://goo.gl/2dHkHO、「今後のリアル店舗のあり方、残り方」とか「何十年も愛されるお店とは」とかを考えるのに参考になると思いますよ。