厚生労働省の「困難な問題を抱える女性への支援のあり方に関する検討会」(座長=堀千鶴子・城西国際大教授)が10月11日、中間報告をまとめました。複合的な課題を抱える女性を包括的に支援する「法制度上の新たな枠組み」(新法)が必要だと提言しました。1956年制定の売春防止法に基づく婦人保護事業(同法第4章=保護更生)を廃止し、刷新しようというものです。女性支援をめぐる法制度がおよそ60年ぶりに改革されます。そこで、検討会座長の堀教授に解説していただきました。また、2016年に婦人保護事業の抜本的な見直しを提言した、与党「性犯罪・性暴力被害者の支援体制充実に関するPT」座長、上川陽子・元法務大臣に中間報告の受け止め、今後の法制化に向けた抱負を尋ねました。
――なぜ新法が必要なのでしょうか。
現在、婦人保護事業の現場では、売春防止法(以下、売防法)制定時に想定されなかった多様な困難を抱えた女性を支援しています。
例えば、性暴力の被害女性はさまざまな生きづらさが生じ、中長期的支援が必要なことも少なくありません。
JKビジネス(女子高生による男性客への親密なサービス)やAV(アダルトビデオ)出演の強要といった新しい社会問題も浮上しました。
それに対し、被害女性を「福祉の問題」と捉えて支えようという視点は、薄かったと言わざるを得ません。
――なぜいま、この時期なのでしょうか。
2012年度の厚生労働省の調査研究事業「婦人保護事業等の課題に関する検討会」(座長=戒能民江・お茶の水女子大名誉教授、非公開)が契機となりました。全国婦人保護施設等連絡協議会(横田千代子会長)や非営利民間団体のソーシャルアクションによる、この事業をめぐる初の検討会です。
その後の調査で、売防法が根拠法であることによる制度的な課題があることが明らかになりました。現場の熱意ある取り組みと情報発信により、特に若年女性の生きづらさが少しずつ認知されるようにもなりました。
その結果、国会でも与野党問わず政策提言がなされてきました。
――既存の制度ではどういった点が不十分なのでしょうか。
婦人保護事業の基本的な発想は、売春した女性らを「要保護女子」と規定し、指導することによってただそうというものです。
性を搾取される環境に置かれた女性が悪いかのような印象を与えるため、女性は自ら助けを求めて相談しようと思えなくなります。
DV法など売防法よりも後にできた法制度も、婦人保護事業の根幹を変えずに継ぎ足す形で作られていったため、職員配置なども現状に即した見直しがなされていません。総じて福祉の視点は乏しいものになっています。
――新法の方向性も示されました。
新法の基本的な考え方の筆頭に「人権の擁護」を掲げました。他の福祉制度では当たり前の考え方ですし、とても重要な点です。婦人保護事業の「保護更生」という理念とは異なります。
――同伴児も新法の支援対象だとしました。
配偶者による暴力(DV)から逃れる女性の子どもが、婦人相談所の一時保護所に女性と共に保護される実態があり、同伴児と呼ばれます。
一時保護中の同伴児は外出できず、通学も許されません。ナショナルスタンダードがないので、都道府県によって日中の過ごし方や心のケア、児童担当職員や保育士などの配置に格差があります。
婦人保護施設に入所する同伴児もいますが、制度上の位置付けはさらにあいまいです。早急に改善しなければならず、特に児童相談所との連携をきちんと定める必要があるでしょう。
――法制化する上でカギになるのはどういった点でしょうか。
新法で支援対象とする女性を条文でどう規定するかはとても難しい問題です。それに関連し、身近な生活圏域で行政を司る市町村の果たす役割をどう整理するかも大きなポイントの一つでしょう。 中間報告の付属資料「将来イメージ」には新サービスのメニューも描きました。在宅サービスや一時滞在所など支援メニューを増やすことが大切です。
当然、これまで公費支弁を受けることが乏しかった民間団体の力も借りることになります。多様な主体の参入を促しながらサービスの質を担保すること、婦人保護事業の担い手である婦人相談所、婦人相談員、婦人保護施設を発展させることが不可欠です。
《ことば》
婦人保護事業
「性行又は環境に照して売春を行うおそれのある女子」を「要保護女子」とし、保護更生を図る事業。婦人保護施設(第1種社会福祉事業、措置施設・任意設置)、婦人相談所(都道府県に必置・49カ所)、婦人相談員(婦人相談所や福祉事務所に1500人)で構成される。婦人相談員は全814市区のうち354市区に配置されている(配置率は44%)。婦人保護施設は39都道府県に47カ所あり、定員は1290人で、年間平均入所者数は304人(定員充足率は24%)。
(2019年12月03日福祉新聞より転載)