ローマ教皇フランシスコが、新型コロナウイルスに絡む「ワクチン・ナショナリズム」を非難した。各国の指導者に対して「ワクチンを利用できるようための努力を惜しまないで」と訴えた。ロイター通信などが報じた。
フランシスコは12月16日、カトリック教会で「世界平和の日」とされる1月1日に向けたメッセージを発表。その中で、「2020年は新型コロナの深刻な危機が、国境を越えて世界的な現象となり、多大な苦痛と困難をもたらした年だった」と綴った。その上で政治指導者や民間企業に対し「ワクチンの提供と、病人や貧困層など最も弱い人々のケアを惜しまないで」と改めて訴えた。
新型コロナのパンデミックの状況を、福音書のエピソードに例えて「私たちは皆、同じ船に乗っていて、一緒に漕ぐことを求められている」として、世界各国が孤立したままでは「どの国も、国民の共通の利益を保証することはできない」と警鐘を鳴らした。
■ワクチン・ナショナリズムとは?
ローマ教皇がこのように訴えたのには、新型コロナウイルスのワクチンを一部の国が独占しようとしていることが背景にある。
アメリカのシンクタンク「戦略国際問題研究所」(CSIS)は8月、新型コロナに関するレポートを発表した。その中で、欧米や中国など裕福な国が製薬会社に巨額の資金を投入してワクチン開発を促進した上で、自国民に優先的に提供する動きがあると指摘。こうした傾向を「ワクチン・ナショナリズム」と批判した。
その結果として、「低・中所得の国は後回しとなることで、相当な経済的苦境の中で、何年にもわたってワクチンの接種を受けられない。世界の最も貧しい地域の多くでウイルスのまん延が続くことになる」と予測。世界経済の回復が遅れることになる警告した。
■世界中にワクチンを行き渡らせる「COVAXファシリティ」が立ち上がるも、米露は不参加
こうしたワクチン・ナショナリズムに対抗するために、世界保健機関(WHO)などが「COVAXファシリティ」という枠組みを立ち上げた。
NHKニュースなどによると、COVAXとは、資金力のある国がワクチン開発に取り組む複数の企業に、一定の額を投資。開発に成功した場合、人口の20%を上限に、ワクチンを確保することができる。一方、途上国も、国際組織を通じて、ワクチンの提供を受けられるしくみで、2021年末までに、20億回分のワクチンの供給を目指している。12月3日までに、日本と中国を含む189カ国が参加。世界人口の80%以上を占めているという。
しかし、産経ニュースによると、アメリカのトランプ政権は「WHOのような多国間組織に(ワクチンの調達や配布などを)制約されたくない」として不参加を表明。自国での開発を優先させるロシアも「我々は独自のワクチン生産を開始しており(参加する)必要がない」という理由から参加を見送っているという。