ペットボトル1本分でできる、予防接種の副作用被害者の救済

医学生や医療関係者がHBV(B型肝炎ウイルス)ワクチンを接種するのは針刺し事故による血液感染を防止するためです。

私は浜松医科大学に通う医学生です。大学入学時にHBVの抗体価が低く、昨年HBVワクチンを接種しました。医学生や医療関係者がHBVワクチンを接種するのは針刺し事故による血液感染を防止するためです。しかし、いざ接種をする際は、予防接種の副作用のリスクが頭をよぎり、不安を感じました。HBVワクチンを始めとする任意接種に、十分な被害者救済制度が必要です。

針刺し事故、すなわちHBVの感染者に使用した注射針を医療関係者自身に刺す事故によってHBVに感染する確率は、約40~60%と言われます。HIV(0.3%)やHCV(1.2~4%)とはくらべものになりません。

HBVの感染方法は2種類あります。成人から新生児へと感染する垂直感染と、性感染や針刺し事故によって成人間で感染する水平感染です。

新生児の場合は垂直感染によってHBVが持続的に感染します。そのうち、20~30%の患者は10~30代の時に1度、一過性の強い肝炎を起こします。その後、強い肝炎を起こした患者のうち80~90%は一生の間、肝機能が安定しますが、10~20%の患者は慢性肝炎を発症します。その中には、肝硬変、肝臓癌といった病気で死亡する方もいます。新生児はB型慢性肝炎の高リスク群です。

他方、成人がHBVに水平感染すると、しばしば急性肝炎を発症します。B型急性肝炎は、全身倦怠感、食欲不振、黄疸といった症状が現れます。このうち、1%ほどの患者は劇症肝炎へと進展します。稀にしか起こりませんが、死に至ることもあります。血液に触れる回数の多い医療関係者はB型急性肝炎の高リスク群です。

2012年、熊本大学の研究者は、看護師の女性が針刺し事故を起こし、一か月後にB型劇症肝炎を発症し5か月後に死亡したことを報告しています。このように、医療関係者は些細な日常業務の際にHBVで死亡するリスクを負っています。

私は、2年後に臨床実習でベッドサイドに出る予定です。医療行為は行わないものの、ふとした拍子に汚染された注射針を刺してしまうかもしれません。万が一に備えてHBVワクチンを接種する必要があります。

HBVの感染者が多いのはアジア、特に中国です。世界のB型肝炎持続感染者の10%(1億3000万人)を占めます。予防接種には必ず一定の割合の副作用が生じます。中国疾病コントロールセンターの王華慶医師の報告によると、2000~2013年の間に188人がHBVワクチン接種後に死亡したそうです。ただし、18例を除いて死亡と予防接種の因果関係は明らかではありません。

他方、中国ではB型慢性肝炎に関連する肝臓癌や肝硬変で毎年、約26.3万人の人々が死亡していると推定されています。中国においては慢性肝炎の防止を行う垂直感染対策が最優先です。結果として新生児の感染率は10%から1%まで下がりました。ワクチン接種によってHBV感染を防止する社会的メリットは副作用よりも大きいといえます。

しかし、自分自身がワクチンの副作用により死亡する可能性が頭をよぎると、メリットよりも恐怖を感じます。

副作用の恐怖を減らすには2つの手段があります。1つは科学技術の発展によって副作用を限りなく減らすことです。私は第2世代のHBVワクチンを接種しました。第1世代ワクチンはヒト由来の血清を用いていたため、血液が未知のウイルスに感染していると、ワクチンが汚染されている可能性がありました。第2世代ワクチンは、HBV自体に遺伝子組み換え技術を用いることでその感染力を弱めて製造しています。ヒト由来の血清を使用していないため、ワクチンが別の感染症で汚染されている可能性は激減しました。科学技術の発展が予防接種の副作用を減らします。

もう1つは補償を手厚く行うことです。もし、私自身が予防接種の副作用によって死亡したら、現在大学に通うために借りている奨学金を返済しなければなりません。また、重篤な障害が残ってしまったら、奨学金の返済に加えて多額の医療費や介護費が掛かります。避けることのできない副作用によって家族に迷惑をかけてしまいます。金銭面でとても不安です。

日本には「予防接種健康被害制度」という制度があります。死亡時には、一時支給金として4310万円が支払われており、1977年の制度施行から3965件が申請され、3530件が認定されています。(認定率89%)

一方、アメリカには「VICP」という制度があります。VICPの死亡時一時支給金は約3100万円であり、1988年の制度開始以来、14117件が申請され、4150件が認定されています。(認定率29.8%)申請数が異なるため一概に比較はできませんが、予防接種健康被害救済制度の方が、多額の死亡時一時支給金が支払われ、認定率も高くなっています。

このように考えると、日本の補償制度は充実していると言っていいかもしれません。

ただ、問題もあります。日本のワクチン事情に詳しい久住英二医師(ナビタスクリニック)は「日本では少しでも多くの被害者を救済するため、密室で救済か否かの判断がなされる。しかし、その判断基準は不明確だ。」と言っていました。

また、予防接種健康被害制度はVICPに比べて補償される予防接種が少ないことが問題です。VICPがアメリカで推奨されている12種類すべてを対象に補償がなされるのに対して、予防接種健康被害救済制度は定期接種の9種類のみを対象としています。

定期接種とは、予防接種法で種類や対象者、期間などが定められたワクチンで、費用は全額、公費負担されます。任意接種とは、法律で定められておらず、費用をほぼ自己負担するワクチンです。よって、HBVワクチンのような任意接種はVICPでは補償されるものの、予防接種健康被害救済制度で補償されません。代わりに任意接種の場合は、医薬品医療機器総合機構法(PMDA法)に基づく「医薬品副作用被害救済制度」で補償がなされます。しかし、死亡時の給付額は約713万円です。この金額は手厚い補償とは言い難いと思います。国に認可された同じワクチンにも関わらず定期接種か任意接種かの違いで補償に大きな差があります。

ワクチンの副作用では、しばしば補償が問題となってきました。最近では、HPVワクチンが有名です。HPVワクチンは平成26年4月より定期接種に追加されました。そのため、それ以前の接種で副作用が生じた人は、任意接種として被害者救済を受け、定期接種に追加後の接種で副作用が生じた人は、定期接種として被害者救済を受けることとなり、「不公平だ」という声が上がったのです。厚労省は先日、この差額を解消するために、一律で定期接種として補償すると発表しました。

もう一つの両制度の違いはその資金源です。前者が税金から拠出しているのに対して、後者はワクチンの価格に75セント上乗せして拠出しています。前者は予防接種を打たない国民も含めてすべての納税者が負担していますが、後者は副作用のリスクを負うワクチン接種者が、救済資金を負担します。

税金とワクチンへの上乗せ、資金源としてどちらの選択肢も可能です。平成26年度、予防接種健康被害救済制度には約9654万円の税金が充てられています。しかし、バブル崩壊以降、我が国は財政難です。財政が圧迫された状況下で、これ以上の予算を獲得することは困難です。

任意接種にも手厚い補償制度を実現するためには、「国が補償すべきだ」と強硬に主張するよりも、米国のようにワクチン接種者が自主的に資金を出し合う、つまり保険を設けるほうが現実的だと感じます。

ちなみに、HBVワクチンの自己負担額は約18000円です。75セントは、約100円です。ペットボトル一本分ほどの値段です。約97万人が100円を支払えば上記の予算は満たせます。充分に実現可能な「共助」です。私がHBVワクチンを受ける際に、副作用の補償が十分に受けられるならば100円を払いたいと思いました。共助を行う基金を作りませんか。

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