自分の「ありのまま」を会社にアピールできる就職活動なんて、あるんだろうか?
エントリーシート(ES)を何十枚も書きながら、無個性なリクルートスーツに身を包みながら…こんな疑問を抱いた学生は、少なくないはずだ。
USEN-NEXT GROUP(UNG)は、より自由で便利な「学生ファースト」の就活を目指して、ESの廃止や全選考のオンライン化などに踏み切っている。さらに今年は「就活維新 RecruiTech for U.」と銘打って新しい取り組みを実施。
日本の就活にどんな可能性をもたらすのか。クリエイティブディレクターの辻愛沙子さんと、株式会社 USEN-NEXT HOLDINGS執行役員の住谷猛さんが話し合った。
自分らしさを許してくれない就職活動。変わるべきは企業。
━━現在の就活について、お二人はどう考えていますか。
住谷 猛さん(以下、住谷):今の就活は企業側が選ぶ「強者」、学生側が選ばれる「弱者」になってしまいがちです。企業は学生にESを提出させ、説明会で事業規模や社員数などの無味乾燥な情報を、一方的に伝える。さらに面接では「学校とお名前、自己PRを1分30秒以内でお願いします」と、話をさせます。本来なら学生と企業は対等であるべきなのに、そうでないことがたくさんあるんです。
辻 愛沙子さん(以下、辻):確かに社会ではダイバーシティやマイノリティへの配慮など「自分らしさ」を尊重していこうという風潮に変わりつつあるのに、就活だけは、自分らしさへのこだわりをなかなか許してくれないイメージがあります。
学生にとって、就職はその後の人生を大きく左右する、とても重い決断です。たとえば、最も自分らしい服装がロリータファッションだと思っても、多くの学生は自分らしさと将来とを天秤にかけ、将来を取ってリクルートスーツを着なきゃと思う人も少なくないと思います。
学生側が「自分らしさ」を表現することが、将来に対してリスクになりうる構造には、違和感を感じます。まずは力を持つ側の企業が変わらなければ。
場所の制約から自由に 動画やオンライン面接で自己PR
住谷:私たちが打ち出す「就活維新」というテーマにはまさに「変わるべきは企業だ」という思いが込められています。明治維新で日本の近代化が進んだように、我々の取り組みが、日本企業の採用を進化させるきっかけになればと考えました。
学生に対してフェアであるためには、まず学生にとって便利な仕組みを作るべきです。このためセミナーから内定獲得までの選考プロセスをすべてオンライン化し、学生が場所を問わず、選考に参加できるようにしました。エントリーも名前と生年月日、メールアドレスのみで、ESの提出は不要。代わりに90秒の動画で、自己PRをしてもらいます。
辻:会社の会議室で緊張して、着なれないスーツ姿で面接するより、はるかにフェアだと思います。若い世代はテキストよりも動画で発信する方が、素の自分を出しやすい人もいるのではないでしょうか。
住谷:おっしゃる通り、今の学生はセルフプロデュースに長けています。先日も、サッカーのユニフォーム姿でオンライン面接に臨んだ学生がいて、私がそれを指摘すると、待ってましたとばかりにサッカーに打ち込んだ話を始めました。得意分野へ話題を持っていくための、彼なりの演出ですよね。こうした力は、他人に自分のアイデアを、効果的に伝えるのにも役立つと思います。
また、送られてきたPR動画に、AIを活用したフィードバックを返します。「あなたの話し方は、はきはきしていいけれど、表現のこの部分を注意した方がいい」といった就活に役に立つアドバイスをするので、他社の面接でも活用して欲しいです。
辻:親切すぎる!メンターみたいです。
「採用を変える」という本気度が半端じゃないですね。
今の若い世代は、SNSで生々しい声に日々接しているので、会社がきれいごとを並べているだけで中身を伴わない場合、その真意や違和感を感じとる能力が長けているように思います。
UNGのような大企業が、新しいことに挑戦する「ファーストペンギン」になれば、学生は見抜いて「かっこいい」と思うはず。老舗といわれる企業にもインパクトを与え、就活全体が変わるきっかけになるかもしれません。
AIが就職活動をより自由で便利に
住谷:将来的には「AI面接」も導入するつもりです。といってもAIが採用の可否を決めるわけではなく、選考に必要な材料を、人事担当の社員に提供するんです。
企業の面接枠が、受付開始とともに一瞬で埋まってしまうという学生の声をよく聞きます。でもAIなら深夜でも早朝でも、学生の都合のいい時間に面接を受けることができます。選考のオンライン化が場所の制約を外したのに加えて、AI面接は時間の制約からも、学生を解放できます。
「機械に面接されるなんて」と、敬遠する人もいるでしょう。ただ私たちは、これが多くの学生のためになると信じているので、たとえ万人に受け入れられなくても、実現させる覚悟を決めています。
辻:就活は、パートナー探しのようなものだと思うんですよね。お互いが自分らしさに蓋をした状態でマッチングしても、その後も健全な関係は作りづらいじゃないですか。そういう意味で、UNGさんのように最初の段階からイノベーティブな挑戦を面白いと感じる学生と会社がマッチングするのは、お互いを幸せにする就活のあり方だと感じました。
それに、AIなら人間が無意識に抱いてしまう性別や外見へのバイアスを排除してフラットに評価できるでしょうし、そこも魅力だなと思いました。
深く考える習慣が人生の土台に。 学生へアドバイス
━━就活中の学生に、アドバイスをお願いします
住谷:今年の学生は、昨年にコロナ禍で苦労する先輩の姿を見ているだけに、不安も大きいと思います。ただその分、早くから準備を進めている人が多い印象です。不安と同時にたくましさも感じられて、できる限り応援したいと思っています。
就活準備にあたっては、企業研究や表層的な自己PRのテクニックだけでなく、自分がどんなキャリアを築きたいか、3年後にどうなっていたいかをよく考えてほしいです。深く考える力は、就職してからも非常に大事。私自身も若い頃から、昼食を一人でさっと済ませ、残り時間を読書や考え事に充てるなど、意識的に「考える時間」を作ってきました。
辻:同感です。私もものごとを深堀りして考える習慣が、自分の人生の土台になっていると感じます。
留学して分かりましたが、さまざまな価値観を持つ人とコミュニケーションを取るには、その人の持つ文化的な背景や思考の道筋を考え、理解する必要があります。
ただ日本では、若者がせっかく考えて意見を口にしても、上の世代が押さえつけてしまいがちです。UNGのように、やわらかい頭で学生たちの声に耳を傾ける企業は、若者の希望であり、心強い味方です。
がんじがらめの就活ルールからはみ出そう。就活維新のススメ
最近入社した若手は、どんな思いでUNGを選んだのだろうか。2人の社員に話を聞いた。
「当初は新しいことにチャレンジしやすいと考え、ベンチャー企業を目指していました。でもベンチャーの多くは経営が不安定で、事業領域も偏っていることを知り、入社に不安を感じるように。UNGは安定性と、チャレンジを歓迎する風土を兼ね備えていたのが、決め手になりました。(久保綾乃さん・2019年入社)」
「UNGの「GATE」という通年採用の仕組みがなかったら、今私はここにいません。4年生の夏、就活を終えたものの「これでいいのかな」と不安を感じていました。とはいえ留年してまで就活を続けるのも負担が大きすぎる…と悩んでいた時、「GATE」を知人経由で知りました。選考を受け、社員の方々の姿に感銘を受けて、UNGに入社することに決めました。(長部楓さん・2020年入社)」
選考時期もプロセスも決まった形が多く、そこから外れた人の再チャレンジが難しい、今の就活。学生に自分らしさを求めるのに、服装だって「黒髪」「リクルートスーツ」「スカート丈はこのくらい」といった暗黙のルールでがんじがらめだ。
UNGはそんな常識を超えて行けるようにと、学生たちの背中を押す。
久保さんは最後に、笑顔でこう話した。
「就活維新は、これまでの就活に疑問を抱く学生の励ましになる、と信じています」
(執筆:有馬 知子 企画・編集:川越 麻未)