新型コロナウイルスは、世界中に影響を及ぼし、私たちの当たり前の暮らしは、ガラリと変化した。働き方においても、テレワークやオンライン会議での業務が新しい働き方様式となりつつある。
USEN-NEXT HOLDINGSは、こうした状況下にいち早く一部の業務をリモート化するなど柔軟に働ける勤務体制の構築や、オンライン面接など先鋭的な採用方法を打ち出している。
さらに、USEN-NEXT GROUP傘下のUSENは、独自の放送システムを使い、コロナ感染防止行動を呼びかける『声で広げる!ソーシャル ディスタンス プロジェクト』 を立ち上げ、賛同するアーティストや俳優の呼びかけ・応援メッセージを配信するなどその活動は多岐にわたる。
コロナ禍により社会の姿がますます見通せなくなる中、企業は生き残るためにどのような道を取るべきか。そしてこれからのビジネスパーソンに必要とされる要素は何か―。同社の宇野康秀社長に、企業が「先の見通せない」時代をサバイブするための方法をたずねた。
コミュニティを選べる社会、変わる幸福感
宇野社長は、ビジネスの世界で現在起きている変化について、次のように語る。
「これまでは社会が変化する中で、必要なテクノロジーが発達した。しかし今はテクノロジーの進化が、社会そのものを変えようとしている」
最も大きな変化は、コミュニティのあり方だという。かつては、人間が所属するコミュニティは家族や地域、国など、ある程度あらかじめ定められていた。だが現在はSNSをはじめとしたコミュニケーションツールの普及によって、コミュニティを自分で作ったり、選んだりすることが可能だ。宇野社長は言う。
「コミュニティの価値観や幸福に対する考え方が変わり、かつて成功したノウハウやビジネスモデルはほぼ通用しなくなっている。さらに言えば、企業が何をもって『勝ち』『成功』と言えるかすら、変わりつつある」
従来の「勝ちパターン」がなくなったビジネスの世界で求められるのは、将来の企業の姿について、働く人一人一人が自分の頭で考えることだと強調する。
「変化の可能性を感じ取り、サービスへ落とし込む力、あるいは人としてあるべき姿や理想的な生活スタイルを言葉にする力が求められる。こうしたサービスや提言が人々の共感を得られた時、ビジネスが成長するのではないか」
変幻自在な組織で変化に対応 「個」の成長がカギに
同社のスローガン「必要とされる次へ」は、次世代のニーズを見つけ出し形にするという決意表明と言える。宇野社長はミッションを達成するために「組織の姿も求められる要素に合わせて、変幻自在に変わる必要がある」と語る。
同社は2017年末、コンテンツ配信や店舗サービスなどを展開する事業会社をグループ化した。10年後にはグループ会社を100社に増やし、計1兆円の売り上げを目指すという。
「各事業会社はヒト・モノ・カネといった資源は共有するが、どう進むかはそれぞれが決める。多種多様な『個』の発想と能力を、自由に伸ばせる仕組みを作ることで、グループとして変化に対応できるようになる」
事業会社が100社あれば当然、100人の社長がそれを率いることになる。2019年3月には、35歳の社長も現れた。若いうちから経営に携わることで、社員一人一人の成長を促す効果も期待できるという。
「金太郎あめのように同じ考えを持つ人ではなく、いろんなタイプの経営者が生まれてこそ、企業全体の柔軟性は高まる」とも、宇野社長は話す。
ただ、多様性は生き残りの「必要条件」であって、それだけでは不十分だという。
「さまざまな事業のそこかしこで行われる『局地戦』にも勝たなければいけない。そのためには、成長し続けることに生きがいを見出し、勝負に挑む仲間が必要だ」
カフェや海辺で仕事もOK 働く場所と時間の自由が成長を促す
同社は、社員の成長をサポートするために、3つの自由を用意しているという。
一つは、若手の社長登用に象徴される「挑戦」の自由だ。宇野社長は「『こんなビジネスをやってみたい』という社員の意思には決して制約を設けず、最大限、事業化の機会を提供したい」と力を込めた。
二つ目はコミュニケーションだ。日本の職場の多くは、若手が上司に意見したり、疑問を口に出したりすることをタブー視しがちだ。しかし宇野社長は
「真っ当な疑問や提言が表に出ないまま、時間が過ぎていくのはもったいない」と話す。
宇野社長は、フラットに意見を言い合う風土づくりを「徹底して突き詰めている」という。新入社員が社長に直接メールを送るのも、社長室をたずねて行くのも「あり」だ。
三つ目は、働く時間と場所の自由だ。同社は2018年6月、コアタイムを設けないスーパーフレックスタイムを開始。育児や介護などの条件を設けず、希望者が回数無制限でテレワークを利用できる制度も導入した。同時期に移転した新オフィスも、フリーアドレス化した。
「社員には家族やプライベートな活動があり、集中できる時間帯も人それぞれ違う。就業時間を縛る必要はないし、自宅やカフェ、海辺で働いてもいい。いつ、どこで働くか自分で決めることが、社員の成長を促すのに最も効果的だ」
一連の改革から約1年半が過ぎ、宇野社長は社員の変化も感じ始めたという。
「かつては目立ちたくない、失敗をとがめられたくないという思いから、個性を消してしまう社員もいた。しかし働く場所と時間が自由になると、自分の存在を仲間にアピールする必要が出てくる。その結果、社員が表情や考え方、服装などを通じて個性を見せるようになったし、自分から『オーラ』を表に出そうとするようになった」
長時間の会議やコミュニケーションのストレスといった、職場の無駄もそぎ落とされた。
「時間やエネルギーなどのリソースを正しい場所に集中できるようになり、生産性を向上させるという本来の目的を達成する準備が整った」
3つの「自由」はもちろん、勝手気ままに働き、言いたい事を言うという意味ではない。むしろ余計な制約がなくなった分、社員には今まで以上に、自らを律することが求められると言えそうだ。
「会社には目に見える成果を出す人だけでなく、誰かのアシストが得意な人、グループの空気感を作るのがうまい人など、さまざまな人材が必要。ただ、こうした価値は外から測りにくいだけに、社員自身が給料に見合う価値を生み出せているか、常に自分に問いかけてほしい」
「可能性に上限を設けないで」就活生へのアドバイス
同社は、採用手法も大胆に変革した。2020年度の採用から「GATE」という特設サイトを開設。新卒一括採用を廃止し、氏名と年齢、メールアドレスだけで応募できる仕組みを整えた。さらに、18歳以上なら在学中でも正社員として働けるようにするなど、より多様な人材を迎え入れようとしている。
宇野社長は採用について、次のように語る。
「さまざまな趣味や特技を持つ人に来てもらい、社内に『社会の縮図』を作りたい。ただ仲間となる人に共通して持っていてほしいのが、世の中と積極果敢に向き合い、主体的に社会を動かそうとする意志だ」
これから就職活動に臨む学生たちには、「自分の可能性に、上限を設けないで」とアドバイスした。
「学生の多くは、ビジネスの経験もないのに『自分の学歴を考えると、この程度の会社が相応だ』などと考えてしまいがちだが、それは実際にやってみなければ分からない。ぜひ、自分は世界で戦える可能性がある、と思って就職活動に挑んでほしい」
宇野社長自身、人材派遣会社のインテリジェンスを創業した後、父親の後を継いで、畑違いの業種である大阪有線放送社(現USEN)の社長に就任した。40代半ばで経験ゼロからトライアスロンを始めるなど、公私とも限界に囚われず、新しい世界に飛び込んでいる。
「私自身、いろいろなことに興味を持ち、挑み続ける中で、『変化の種』を見つける力が付いたと感じている。この『種』を一緒に探し、育ててくれる若い仲間を待っています」
(文:有馬知子 編集:川越麻未)