新生日本代表の初戦はウルグアイになった。チームの愛称はユニフォームの色から「空色」を表す『ラ・セレステ(La Celeste)』。日本からちょうど地球の真裏にある小さな国ウルグアイだが、サッカー的には遥か上を行く強豪国である。一体どのような国なのか、試合観戦の前に少しだけ予習してみよう。
◆隣国リスペクトの国旗
ウルグアイ国旗はアルゼンチン国旗と非常に似ている。似ているのは似せて作ったからだ。1828年のブラジルからの分離独立の際に、援軍をよこしてくれたアルゼンチンへの謝意を表すために、アルゼンチン国旗にならったデザインを採用した。そんなわけで、色や太陽の意味は同じである。空色と白は、かつてのアルゼンチンの革命軍のコーポレートカラーである。太陽はアルゼンチンがスペイン副王軍を破った日に降りそそいだ「五月の太陽」だ。
この太陽だが、ベースにあるのは、インカ帝国の太陽神「インティ」である。インカ帝国は、太陽信仰を国の礎としていた。皇帝は太陽神インティが現世に現れたものとされ、暦をはじめとして、太陽信仰は日常生活のさまざまな場面に影響を及ぼしていたという。
インカ帝国の国土は壮大で、現在のペルーのクスコを中心に、最盛期には1600万人の人口をかかえていた。だいたい、チリ北部から中部、アルゼンチン北西部、コロンビア南部にまで広がっていたらしい。それは、16世紀にスペイン人に滅ぼされるまで続いた。実はウルグアイはその地図の中から漏れている。まあ、そのあたりはご愛嬌ということで。
◆ウルグアイ東方共和国国歌
それでは、対戦国国歌の内容を予習しておこう。前述したように、ウルグアイは最終的にブラジルから分離独立した。なので、他の中南米諸国に多いスペインからの独立を歌ったものではない。全部で11番まであるのだが、普通はコーラス+1番のみが使われる。それでも長いので驚かれる方もいるだろう。前奏だけでも『君が代』くらいあるのだから。歌詞は、先人たちへの感謝と、自由と誇りを勝ち取らんとする気合が漲っている。
★Uruguayan National Anthem - "Orientales, La Patria O La Tumba!"
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『ウルグアイ東方共和国国歌』
オリエンタレスよ、祖国か墓場か
自由か 栄光ある死か
これは魂の誓い
我らは英雄のごとく
この誓いを果たし得よう
自由、自由、オリエンタレス!
叫びは祖国を救った
きびしい戦闘においても
勇敢なる者どもを救った
叫びは崇高なる熱狂でたかぶった
我らは神からの聖なる賜物、
栄光を手に入れたのだ
暴君どもよ、震えよ
我らは戦いのさなかにも 自由!
そして死に際してもまた 自由!
そう叫ぼう
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◆伝説の国歌斉唱プレーオフ
かつてこんなことがあった。先ほどもふれたがウルグアイ国歌はとても長い。その長い国歌を延々4分30秒も続けてしまい、業を煮やした相手チームが、曲が終わる前にピッチに散ってしまったことがある。2010年W杯南アフリカ大会・大陸間プレーオフでのことである。ウルグアイ対コスタリカ第2戦における「ウルグアイ国歌斉唱」は、今や伝説になっている。
この日、誉れ高き国歌斉唱の栄誉に預かったのは、人気歌手のフレディ・ベッシォ氏。バンドネオンによる伴奏にイタリアオペラを思わせるボーカルが素晴らしかった。ところがいつまでたっても歌い終わらないのである。これには、観客ですらたまらなくなり、ざわめきが起こりはじめた。
国歌開始4分、ついにコスタリカのメンバーは「相談」を始める。誰からともなく円陣が組まれ、次の瞬間、選手たちはピッチに散った。残されたウルグアイの選手たちはまだ歌っている。そして、4分30秒にようやく国歌は終了した。コスタリカのメンバーはすでにアップを済ませ、陣形を組み始めていた。その時の模様がこれである。
★URUGUAY ZURDO BESSIO CANTANDO EL HIMNO.mpg
実はこれでも、全体の10分の1にも満たない長さなのだ。フルコーラス歌えば4~50分はかかるはずだ。気合の入ったウルグアイファンは、ぜひ、フルコーラスを体感していただきたい。動画サイトのどこかにあるはずだ。ウルグアイの名誉のために言っておきたいが、名曲です。
がんばれアギーレジャパン☆
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◆「サッカー×国歌」
『フットボールde国歌大合唱!』内で紹介してる各国国歌を、本を読みながら映像&音楽付きで楽しめる連動サイト。
◆『フットボールde国歌大合唱!』(東邦出版)いとうやまね著
スタジアム中にこだまする国歌斉唱。ネイマールが思わず涙するブラジル国歌、伊達男たちが情熱的に歌い上げるイタリア国歌、歌詞がないのに客席はハミングのスペイン国歌......。国歌にまつわる歴史やエピソードを満載。ワールドカップ、欧州選手権、オリンピックをはじめとする国際試合の必読書。
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◆いとうやまね
ライターユニット(いとうみほ+山根誠司)。著書には、『フットボールde国歌大合唱!』『サッカー誰かに話したいちょっといい話』(東邦出版)、『プロフットボーラーの家族の肖像』(カンゼン)、『蹴りたい言葉~サッカーファンに捧げる101人の名言』(電波実験社)、他がある。サッカー専門誌、フィギュアスケート専門誌のコラムニストとして、またサッカー専門TV 番組、海外サッカー実況中継のリサーチャーとしても活動。スポーツ以外の執筆も多数。