2025年に国際博覧会(万博)の開催を控える大阪が、大きな変貌を遂げている。中でも大規模な開発が行われているのは、その中心部である大阪駅前の“うめきた地区”。
大阪駅前に、東京ドームとほぼ同じ広さをもつ約4.5haの公園、オフィスビルやホテル、商業施設が並ぶ──。大阪の中心地に新たな街をつくる「うめきた2期」の全貌だ。
UR都市機構が進める、大規模な国家プロジェクトでありながらも、「地域のみんなで育てる」まちづくり。その狙いとは?
変化し続ける大阪駅前の街並み
大阪駅周辺は、高層ビルや商業施設がひしめき、多くの人で賑わう大阪の中心地だ。駅北側の再開発地区「うめきた」を中心に、その景色は大きく変化し続けている。
「グランフロント大阪」が建つ先行開発区域「うめきた1期」は2013年に完成。そのさらに西側に、広大な開発中の区域がある。“大阪最後の一等地”とも呼ばれる「うめきた2期」だ。
大阪駅北側にはもともと梅田貨物駅を中心とする物流拠点「梅田北ヤード」が広がっており、長年、関西の経済を支えてきた。戦後、駅の整備や商業施設の開業が相次ぎ、この地区は急速に発展。1970年の大阪万博も追い風となり、その周辺は府内の一等地となった。
1987年、国鉄改革に伴い、”一等地”の広範囲を占めていた「梅田北ヤード」が清算対象となったことを受け、貨物駅機能の移転、その跡地利用についての検討が始まった。
1999年に貨物駅機能の移転方針が決定し、移転作業がスタート。大阪市から要請を受けてコーディネート業務に着手したUR都市機構は、土地区画整理事業の施行者となり、2005年、約24haに及ぶ跡地での大規模な開発プロジェクトをスタートさせた。
「うめきた1期」では、約7haの敷地に全4棟の高層ビルが誕生。産業創出・人材育成・国際交流・文化発信の拠点となる「ナレッジキャピタル」、ショッピングモール、オフィス、ホテル、住宅などさまざまな機能を持った複合施設「グランフロント大阪」として、2013年に開業を迎え、大阪駅前の街並みを変えた。
その頃、梅田貨物駅の移転も完了。同駅は85年の歴史に幕を降ろし、「うめきた2期」の構想がスタートした。
貨物駅移転で生まれた“大阪最後の一等地”
”大阪最後の一等地”、およそ17haの土地を開発する「うめきた2期」。URが2008年に発表した土地利用計画は、駅前の4.5haを都市公園が占めるというもの。
緑豊かな公園の周りにはオフィスやホテル、商業施設が広がり、新たな産業やビジネスが生まれる場を目指している。
東西と南北に伸びる道路の整備、駅や周辺施設とスムーズにつながる立体通路。さらに、JR西日本が予定しているのが東海道線支線の一部地下化と新駅設置だ。貨物駅により分断されていた周辺地域の一体化が進み、人の流れが大きく変わることが予想される。
このように、景観や人々の暮らし、産業にも変化をもたらすであろう大規模開発の一方で、地域に根ざしたさまざまな取り組みが行われている。その拠点となっているのが、開発区域の一角にあるフリースペース「UMEKITA BASE(うめきたベース)」だ。
うめきた地区の東西をつなぐため、開発区域内に仮設された地上通路は観光客の往来も多く、1日に3万5000人ほどが通るという。その立地を生かし、まちづくりの情報発信の場、そして地域の人や観光客が気軽に集まれる場を目指して、URが昨年10月にオープンした。カフェが常設されながらも飲食物の持ち込みが可能。誰でも、思い思いの過ごし方ができる場となっている。
このうめきたベースで開催されている人気イベントが、地元のミュージシャンらによる「みどりの演奏会」、そして開発中の区域に足を踏み入れ、その全貌を知ることができる「ガイドツアー」だ。
「近隣の人でさえ、開発の内容を知らない...」
ガイドツアーの参加者は、子供から大人までさまざま。近隣に住む親子や、グランフロント大阪で勤務する人、中には淡路島からの参加者も。
普段は立ち入ることができない工事中の開発区域の見学、そしてグランフロント大阪からその様子を一望できるとあって、月1回開催しているガイドツアーは大人気だという。
ツアーの引率を行う同社の中山さんは、「うめきたベースで地域の人々と関わる中、すぐそこに住んでいる人でさえ、開発の内容を知らないということを痛感した」と話す。「一方的に情報発信するだけではダメ。この場所に暮らす人たちに愛され、人が集う街をつくるために必要なことを考えた結果、このガイドツアーが生まれた」。
参加者の一人は「開発区域を毎日見ているが、公園ができるということしか知らなかった」と話す。「ひっきりなしに工事が行われ、何をしているのかついていけていなかった。こうして知れる機会があって、これからできる街に期待が高まった。誇れる街になると思う」と、笑顔を見せた。
うめきたベースの名付け親である同社の昆野さんは、こう話す。「道路や公園などの都市基盤整備だけでなく、開発後も地域づくりに寄与するようなコミュニティの基盤も作って、事業者にバトンを渡したい」。
そんな思いが込められた「うめきたベース」。その名前の通り、うめきた2期のまちづくりを発信する「拠点」であり、地域の新たなコミュニティの「基盤」となっているようだ。
同社の島本さんによると、「学校帰りの学生が宿題をしたり、行き交う人が演奏会の音色に足を止めたり。冬場はこたつを置いているので、外国人観光客が興味を持って立ち寄ることも。地域の人だけでなく、国際交流も生まれている」という。
街並みだけでなく、暮らしも変える都市開発を
URは、長年培ってきた豊富な事業経験から、街をつくるだけでなく、その周辺環境や人の暮らし、コミュニティにも変化を生み出すノウハウを生かし、民間事業者や地方公共団体、地域住民と連携した都市再生事業を展開してきた。
道路や公園などの都市基盤整備を始めとする国家的な都市再生により、都市の魅力向上を図る「国際競争力強化プロジェクト」。地方都市を中心に、地域活性化やコンパクトシティの実現に向け、観光資源や産業など、地域の特性を活かしたまちづくりを支援する「地域活性化プロジェクト」。そして、都市の防災性向上や減災対策を推進する「安全・安心のまちづくりプロジェクト」。
この3つが大きな柱だが、島本さんは同社の都市再生を「ノウハウの集大成、プロデュースの総合力」と表す。
うめきた2期のミッションは、国際競争力を高め、関西の発展をけん引していくこと。5年後に大阪・関西万博を控え、その期待はさらに高まっているが、開発の目的はそれだけではない。立地を生かした地域活性化でもあり、都市公園が防災拠点としても機能するよう計画された、安心・安全のまちづくりでもあるのだ。
同社の都市再生は、まさに「縁の下の力持ち」。うめきたのように、まちづくりのコーディネーターとして計画段階から参加して一連の開発を実施し、完了した段階で民間事業者や地方公共団体に引き渡すケースが多い。だからこそ、うめきたベースのように情報発信し、地域と一緒に盛り上げ、街を育てるベースを作ることもURの大切な役目だと、島本さんは話す。
中山さんは、窓の外に広がる「うめきた2期」を見つめながらこう話した。
「国家的プロジェクトであっても、地域に根ざした視点、地域の皆さんと街をつくるという思いは変わらない。ここに新しい街が出来上がった時、どんな声を聞くことができるのか今から楽しみです」。
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65年にわたる住まいとまちづくりのノウハウを生かし、URは国家的プロジェクトという「マクロ」的視点と、地域に根ざした「ミクロ」的視点を兼ね備えた都市再生事業に取り組んでいる。
第4回は、2020年にビッグイベントを迎える東京・品川での都市再生。交通の利便性を生かした、新駅開業を伴う開発による都市機能の向上が、東京、そして日本にもたらす変化とは?