ビジネスマンから大学教員へ~転身成功のための3つのポイント~ (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)

目標を明確にしたうえで、まずは目の前の仕事に真摯に取り組みたい。
The view on classroom in Japan.
The view on classroom in Japan.
Getty Images/iStockphoto

先日「ビジネスマンから大学教員に転身する方法とは」を寄稿したところ、多くの反響を頂いた。当該記事は筆者の経験に基づく総論的な内容であったが、本稿では、ビジネスマンが大学教員へ転身するにあたり押さえたい具体のポイント3点について紹介したい。

■大学教員への転身に関する3つのポイントとは

前掲記事中でも述べたが、大学教員採用については多くが公募で行われ、採用要件は実態として各大学の裁量だ。一般に公募要件には「(1)大学院修士課程修了もしくはそれと同等以上の能力を有する者(2)経営・ビジネスに関する実務経験を有する者が望ましい(3)大学等で教育経験を有する者が望ましい」等と記載されている。

上記は某大学の経営学分野の教員公募から抜粋したものである。ここで押さえたいのが、ビジネス実務系の教員公募についても、修士以上の学位や教育経験が求められている、ということである。大学によっては博士の学位を求めるものもある。これをどう乗り越えればよいのだろうか。

■第1のポイント「学位」

第1に「修士・博士の学位」についてである。10年来の大学教員公募ウォッチングの経験からも、いかにビジネス実務系の教員公募であったとしても、最低修士以上の学位と明記している公募が殆どだ。

これは前掲記事中でも書いたが、高等教育機関である大学・短期大学において教鞭をとるに際し、最低限修士レベルの研究能力はほしいよね、という意識の表れと言わざるを得ない。実務家枠とは言え、最低限の研究レベルは担保したいのだ。学位を持たないビジネスマンにとってぶち当たる最初の壁といえるだろう。

そこで検討したいのが、通信制大学院への進学だ。公益財団法人私立大学通信教育協会HPによれば、本稿執筆日現在17大学の通信制大学院があるようだ(※同協会に加入していない大学院もあると思われるため具体は希望する大学院の情報を確認願いたい)。

専攻は経営学・教育学等が大勢を占めるが、心理学や社会福祉・現職の大学職員をターゲットにしたものなど、多彩かつ実務に直結するようなメニューが用意されている。筆者が人事・教育の実務家として「職場におけるメンタルヘルス対策」を研究すべく心理学系の通信制大学院の門を叩いたように、研究成果を現職に応用できるような(逆に、現職で得た知見をアカデミックに援用できるような)専攻を選ぶと仕事の成果が学修の成果となり、一石二鳥であろう。

■第2のポイント「実務経験・資格」

第2に、「具体の実務経験・資格」である。これはビジネス実務系の教員公募ならではの要件といえるだろう。例えば「キャリア教育・就職活動支援」の公募であれば「大学生の就職支援に携わった経験、人材派遣会社での勤務経験」等が求められることが多い。昨今国家資格化したキャリアコンサルタントの資格を求めるものも散見される。

既に具体の実務経験を積みながら教員公募を眺めている人はそのまま両者を並行して進めるべきだが、実務経験が浅い(無い)がある方向性で大学教員転身を志向する人には厳しい要件と言わざるを得ない。上記の公募であれば、現在は経理の仕事をしているがいずれ人事の仕事を経験したうえで、最終的にキャリア教育分野での教員転身を目指す、といった場合だ。

ビジネスマンから大学教員への転身に際し、筆者は「現在の持ち駒で勝負すべき」という立場だ。経験則上3足以上の草鞋は履きがたいことや、あまりにも長期的すぎる計画は実現可能性が低くなるためだ。主に経理畑でやってきたのであれば財務・会計分野での転身を図るのがスマートであるというのが実感だ。

もちろん、ジョブローテーションや希望転任制度が活発な会社であれば、公募から逆算して専門を定め、その方向で努力することも想定されるだろう。

資格についても、現在の業務の延長線上で取得すれば負担感が少ない。筆者は勤務の傍ら産業カウンセラーやキャリアコンサルタントの資格を取得したが、何れも人事担当者としての問題意識にかかわる内容であり、勉強を苦に感じることは皆無であった。しかしながら、簿記の資格を取ろう、と考えたならばかなりの苦行であったはずだ。資格の難易度というよりも、自分の興味関心がどこにあるのか、現職での問題意識はどこにあるのか、という視点を重視したい。

■第3のポイント「教育経験」

第3に「大学等での教育経験」である。実はビジネスマンにとって最大の難関が教育経験であろう。

素直に読めば、「大学等で実際に講義をした経験」となる。「等」はかなり広義にとらえれば専門学校や初等・中等教育を含むのかもしれない(判断は各大学によるだろう)。現職が専門学校の教員ならまだしも、いわゆるホワイトカラーのビジネスマンが大学等で講義をすることは一般的ではないだろう。

しかしながら、これも解釈次第ではないか。例えば就職支援会社の社員であれば大学に招かれて就職ガイダンスの講師を務めることは日常であるはずだ。業界内でのセミナー講師や社内研修講師など、規模や内容にもよるものの、幅広に捉えて教育経験と言えなくもない。

実際に筆者も社内外の研修講師としてプログラム構築や講師の経験が複数あったため、研修規模や対象の属性、研修コンセプト等を明らかにしたうえで、自身の教育歴と明記したうえで応募書類を作成していた。これがどの程度加味されたかは知る由もないが、少なくとも「特記事項なし」よりは有用であったものと考えている。

特に昨今は「副業解禁」の政策的な流れもある。先進的な会社ではむしろ副業を推奨しているという。人脈を活用して無償ででも何処かの大学等でゲストスピーカーを担当する等はできないだろうか。まずは大学教員の知り合いを探すところからかもしれないが、オリジナルのパワポ資料を作成し、事後アンケートの分析を行ったとすれば、立派な教育歴になり得るはずだ。教育歴については何とかして作り上げるべし、と言わざるを得ないのが、普通のビジネスマンの現状なのだ。

■大原則は、現職の延長線上に大学教員転身を見据えることだ

上述したポイントを抑えるためには、並々ならぬ努力が必要であるのは言うまでもない。しかしながら自身の経験に照らして言えば、大学教員になる・ならないは別として、ビジネスマンとして大成する人材は、恐らく同程度の努力をし、実績を上げているはずだ。要は、興味関心のベクトルが学位の取得や論文の執筆に向くのかどうかということなのだ。

筆者が見知った「デキる」上司や同僚は、当然ながら各自の職場で自身のポジションを確固たるものにしておられたが、その気になれば上記のプロセスをなんなくこなしてみせるだろう。3つのポイントを前に「できるかなぁ・・・」と決意が鈍るようであれば、厳しいようだが大学教員への転身など忘れてしまったほうがよい。プロの教育研究者集団に自分を売り込むということは、心身ともに疲弊することにもつながるのだ。

繰り返し述べるが、大原則は「現職の延長線上に大学教員転身を見据えること」だ。その結果、現職での努力や成果がニアイコールで転身への近道となる。結果として仮に転身が叶わなかったとしても、相応の実績や成果が形として残っているはずだ。逆に考えれば、現職の手を抜けばビジネスマンから大学教員への転身などおぼつか無いのだ。目標を明確にしたうえで、まずは目の前の仕事に真摯に取り組みたい。

【参考記事】

■企業説明会で「危ない会社」を見分ける方法。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)

■ビジネスマンから大学教員に転身する方法とは。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)

■「給料より休暇が大事」は「自分ファースト」なのか。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)

■「就活に有利な資格ってありますか?」と問われたら。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)

■国会議員の皆さん。朝5時から国会前に並ばなくて良いので、しっかり睡眠を取っていい仕事してください。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)

後藤和也 産業カウンセラー キャリアコンサルタント

注目記事