一人ひとりは弱いから労働組合をつくって団結する
救貧院に孤児として預けられたオリバーの話です。そこでは食事も満足に与えられず、餓死するほどのひもじさで、孤児の仲間たちがもっと食事を増やしてもらおうと相談します。
会議が開かれ、その晩、夕飯がすんだら、賄係りのところへ行って、もう少しくれと頼むものを、くじ引きで選ぶことになった。そしてそれがオリバー・ツイストに当った。その晩になった。(中略)粥はたちまち消えてしまい、子供たちは囁きあい、オリバーの方へ眼配せし、隣にいる子供が肱でつついた。まだ子供ではあったが、オリバーはひもじさで絶望的になり、あまりの辛さに自棄になっていたのだ。彼は食卓から立ち上るなり、鉢と匙とを手にして、賄係りのところへ行き、自分の大胆不敵さにいささか驚きながら云った。
「すみませんが、ぼく、もっと欲しいんです」
(チャールズ・ディケンズ 中村能三訳『オリバー・ツイスト』新潮文庫)
1人で要求することがどれだけ緊張するかが伝わってきます。労働者一人ひとりは弱いもので、もっと賃上げしてほしいと要求したくても、1人でするのは勇気がいります。オリバーのようにくじ引きで当たった者が、恐る恐る言っても、要求が通るはずありません。
賃金を支払う側と、受け取る側では、資金力にも情報量にも圧倒的な差があります。労働者はこの差を埋めるため、組合をつくって団結するという方法で解決しようとしました。
労働組合を必要としている職場はたくさんある
団体交渉は、英語でコレクティブ・バーゲニングといいます。コレクティブは集団という意味です。働く人たちが団結して、働き方のルールを決定する。決められたルールどおりに回っているかを監視する。問題が出てきたらそれを個人の問題に帰すのではなく、集団的に解決する。これを集団的労使関係といいます。こうした集団的労使関係の枠組みで、職場におけるワークルールを決めていくことが、職場の活力にもつながっていきます。
ところで、オリバーはこの後どうなったでしょうか。オリバーは即刻、暗い部屋に閉じ込められ、翌朝、「オリバーを引き取ってくれたら5ポンドの報酬を出す」という張り紙が救貧院の門の外に張り出されます。やがて、オリバーは煙突掃除屋や葬儀屋で働かされます。そこでの仕打ちに耐えられず、抜け出してロンドンに行き着きますが、ロンドンで出会った少年に連れて行かれたのは窃盗団の巣窟で...。その後のストーリーは小説を読んでいただくことにしましょう。
最近、働く者を使いつぶすブラック企業の存在が社会問題化しています。オリバーのような少年が現代の日本にいないとも限りません。労働組合を必要としている企業や職場はたくさんあります。
「すみませんが、ぼく、もっと欲しいんです」
「そんなことを言う奴は、暗い部屋に閉じ込めてしまうぞ」
「だからブラック企業っていうんですね」
※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2016年4月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。