自然破壊や気候変動が続けば、新型コロナウイルス感染症のような病気が増える――国連が7月6日に発表したレポートで警告した。
新型コロナウイルス感染症のような動物と人間との間で感染する病気は「動物由来感染症(ズーノーシス)」と呼ばれる。
国連のレポートは、ズーノーシスが自然環境と密接に結びついており、各国が一緒になって環境問題に取り組まなければ、再びパンデミックが起きるだろうと訴える。
感染症の増加、どんな原因が考えられるのだろう
新型コロナウイルス感染症以外に、エボラ出血熱や中東呼吸器症候群(MERS)、HIV/エイズ、ウエストナイル熱といった近年人間を苦しめてきた感染症も、ズーノーシスに含まれる。
レポートによると、これまでに確認されている感染症の60%、最近新しく認知された感染症の75%がズーノーシスだ。
動物から人への感染症が増える要因として挙げられているのが、食肉の需要や、持続可能でない農業、野生生物の搾取や天然資源利用の増加だ。
過去半世紀で食肉生産は260%増え、感染症の25%がダムや灌漑、工場式畜産業に関連している、とレポートは指摘する。
また旅行や移動の増加、食料供給の変化、気候危機なども問題視されている。
国連環境計画(UNEP)エグゼクティブ・ディレクターのインガー・アンダーソン氏は次のように警告する。
「野生生物の搾取や生態系の破壊が続けば、数年後に感染症は動物から人間に移ってくると科学ははっきりと示しています」
「パンデミックは私たちの生活と経済を破壊します。最も苦しむのが貧しい人たちであることを、私たちはこの数カ月で目にしてきました」
「将来の流行を阻止するため、私たちはもっと意識的に自然環境保護に取り組まなければなりません」
犠牲になるのは弱い立場の人たち
同じくUNEPのマーテン・カペレ氏は「1918〜19年のスペイン風邪パンデミックを振り返って、あのような大流行は1世紀に1度と思う人もいるかもしれません。しかしもはやそれは当てはまりません。自然界と人間の世界とのバランスを取らなければ、あのような大流行がまん延するでしょう」と警告する。
動物の中でも特にげっ歯類やコウモリ、肉食動物、霊長類からの感染が起こりやすいという。家畜が病原体を野生生物から人間に運ぶケースも少なくない。
将来のパンデミックを防ぐために
ウイルスは国境を超えて広がる。
獣医伝染病学者のダリア・グレース氏は「この問題は、国ごとでは解決できません。私たちは、人間の健康と動物の健康、そして生態系の健康を一緒になって考えなければいけない」と、国際的な取り組みを訴えている。
国際的な取り組みと同時にUNEPが推奨するのが、公衆衛生と獣医学そして環境の専門家が力を合わせて流行に備える「One Heath(ワン・ヘルス)」という考え方だ。
レポートは具体的な取り組みとして自然保護や食肉需要への対策、食の安全強化、テクノロジーへの投資、そして自然保護関連の人材の増加などを挙げている。
国連のグテーレス事務総長は、次のように述べる。
「将来の流行を防ぐため、各国が野生動植物の保護や、持続可能な農業の促進、食の安全基準の強化、市場の監視や規制、リスクを特定するための技術投資、そして違法な自然動植物取引の規制に取り組む必要があります」