コロナ禍や加速する少子高齢化などにより、今まで以上に健康意識が高まっている現代。
ウェルビーイングやQOLという言葉が身近になった一方で、患者数が増加の一途を辿っている病気もある。その1つが、大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができる炎症性疾患「潰瘍性大腸炎」だ。
2024年12月、ブリストル マイヤーズ スクイブは、既存治療では効果不十分な中等症から重症の潰瘍性大腸炎の治療薬「ゼポジア®」について、厚生労働省より製造販売承認を取得したことを発表。
2月25日、同社がメディア向けに開催した「潰瘍性大腸炎セミナー」へ足を運び、潰瘍性大腸炎の基礎知識や本治療薬について聞いた。

治療薬「ゼポジア®」が国内承認を取得
厚生労働省の調査によると、2021年の日本における特定医療費(指定難病)受給者のうち、潰瘍性大腸炎の総患者数は13万8000人にも上る。
潰瘍性大腸炎は、主として大腸の粘膜に慢性の炎症または潰瘍を引き起こす原因不明の疾患だ。主な症状には、下痢や血便、痙攣性または持続的な腹痛がみられ、重症になると、発熱や体重減少、貧血などの全身の症状が起こる。また、腸管以外の合併症として、皮膚の症状、関節や目の症状が出現することもある。多くの場合は治療により寛解(症状の改善や消失)が認められるが、再燃(再度炎症が悪化)する場合も多く、発病して年数が経つと大腸がんを合併するリスクも高まるという。
同社執行役員イノベーティブ医薬品事業部門長の大羽克英さんは「働く世代で発症する人が多い潰瘍性大腸炎は、特に中等症から重症の治療が困難であり、患者の方々にとって身体的、精神的に大きな負荷になります」と説明。
今回、厚生労働省から国内での承認を獲得したゼポジア®は、再発型多発性硬化症の成人患者および中等症から重症の活動性潰瘍性大腸炎の患者に対する治療薬として、2020年から米国や欧州を含む多くの国で承認されている。
日本における本治療薬の承認取得について大羽さんは「1日1回の経口での服用が可能な『ゼポジア®』は、患者の方々への負担が少なく、長期治療にも向いているのではないかと考えています」と話した。
なぜ、潰瘍性大腸炎の治療は難しいのか

セミナーには、札幌医科大学医学部 消化器内科学講座教授の中瀬裕志さんが登壇。
中瀬さんは「潰瘍性大腸炎は発症までのバックグラウンドが個人単位で異なるため、『この薬を処方すればOK』『この方法で治療すればOK』という1つの答えがない、とても難しい病気です」と治療の難易度を上げている根本的な理由を説明した。
遺伝的素因や食事・衛生環境などの環境因子、 ストレスや生活リズムの乱れなど、さまざまな要因から起こる過剰な免疫反応を引き起こさないために、潰瘍性大腸炎の治療においては「ぶれない腸をつくること(=粘膜の状態改善)が必要」だという。
「潰瘍性大腸炎は多くの場合、再燃と寛解を繰り返します。サイトカイン(炎症性物質)を抑えることを目的とした治療薬は多く開発されてきましたが、原因が不確かな場合が多いため、その反応率も人によって異なります。その結果、患者さんは再燃を懸念して『これ食べていいの?』と食生活にも大きな不安やストレスを抱くなど、QOLの低下につながってしまいます」と説明。
実際、2025年2月に30代以上の潰瘍性大腸炎患者さん106人を対象にしたインターネット調査では、回答者の25%が「再燃にとても不安を感じる」と回答しており、「再燃に不安を感じる」(29%)と「少々不安を感じる」(35%)を含めると、全体の89%が再燃への不安と共に暮らしていることがわかったという。
同調査では、回答者の71%が「5年以上の治療をした(している)」と回答しており、その再燃割合は約7割にも及ぶという結果になった。重症度では63%が中等症から重症と診断されているという。
また、若い年齢での発症が比較的多い潰瘍性大腸炎だが、近年は高齢発症のケースも多く、特に後者では強い薬を使えないこともあり、難治と言われている。
臨床試験で認められたゼポジア®の効果

承認に向けた臨床試験(J-True North試験)は、経口5-アミノサリチル酸製剤(炎症性腸疾患の治療に用いられる薬剤)又はステロイドの投与歴がある中等症から重症の活動性潰瘍性大腸炎患者を対象としたプラセボ対照二重盲検比較試験(治験薬とプラセボを比較して薬の有効性を明らかにする試験)だ。日本人の患者を対象に、オザニモド(=ゼポジア)2用量(0.46mg及び0.92mgを1日1回 )の有効性及び長期安全性を評価した。
試験の結果、主要評価項目である投与12週時に臨床的改善が認められた患者の割合は、オザニモド0.92mg群では61.5%と、プラセボ群の32.3%と比べて有意に高かった。またオザニモド0.46mg群では52.9%と、プラセボ群と比べて有意に高くなった。
また、副次評価項目である、①投与12週時に臨床的寛解が認められた患者の割合、②投与12週時に内視鏡的改善が認められた患者の割合、③投与12週時に粘膜治癒が認められた患者の割合は、オザニモド両群でプラセボ群と比較して高く、主要評価項目の結果と一致した。
さらに、①投与52週時に臨床的改善が認められた患者の割合、②52週時に臨床的寛解が認められた患者割合、③投与52週時に内視鏡的改善が認められた患者の割合、④投与52週時に粘膜治癒が認められた患者の割合、⑤投与52週時にステロイドフリー寛解を達成した患者の割合から、投与12週時でみられた有効性が投与52週時でも維持されていることが確認された。安全性についても両群とも忍容性が高く、良好な結果が得られたという。
中瀬さんは「どのような患者さんにより効果を発揮するのかは、 今後もデータを蓄積していく必要があります」と話し、セミナーを締め括った。
ブリストル マイヤーズ スクイブは「今回の承認により、ゼポジア®が中等症から重症の潰瘍性大腸炎の患者さんに新たな治療選択肢となり、患者さんのQOL向上に貢献することを期待しています」とコメントを発表している。