山梨県山梨市が、3月18日に予定していた、上野千鶴子氏の講演会を当初中止するとしていたわけですが、中止を撤回し講演会を予定通り開催することになったわけですが、これについて少し。
1 経緯
上野千鶴子氏は、日本におけるフェミニズムの第一人者で、女性学等を専門とする社会学者ですが、近年は高齢者の介護問題についての発言も多く、「おひとり様」についても積極的に発言してきております。
その上野氏が山梨県山梨市で3月18日に「介護」をテーマに行う予定だった講演会「ひとりでも最期まで在宅で」が、突然中止の連絡がきました。
なんでも、上野千鶴子氏の性に対する発言や、著書のタイトルについて過去にふさわしくない発言をしたことがあることを理由に、「公費で催す講演会の講師としてふさわしくない」という意見が10件ほど寄せられたのを受けて、2月の市長選で初当選した望月市長が中止を決めたそうです。
ところが、中止が報じられると今度は、市民から開催を求める意見が相次ぎました。結果、市の担当者が市長に翻意を促し、開催が決まったわけですが、何でも「その際、『介護以外の話をしない』ことを上野さんに確認し、同意を得た」とも報道されています。
2 上野千鶴子氏
確かに彼女の言動については、過激な一面もあり、それをして彼女に対して批判的な方もおられ、それが結局今回の騒動のもとになったようなところもあるわけで、今回も『セクシィ・ギャルの大研究』などの過去の著作のタイトルが問題視されたようです。
他にも、上野子氏はかつて「性に悩む男子中学生は熟女にやらせてくれと頼めば10人に1人はOKしてくれる」などと述べており、こうした発言に反応した方もおられるようです。
これまでフェミニズムについて言及したことがありますが(フェミニズム)、私は正直フェミニズムそのものについては、失敗だったのではないかと思っております(女性だけが専業「主婦」になりたいのか?)。
こう書くと、ある意味、日本でフェミニズムを主導してきたといっても過言ではない上野千鶴子氏について批判的と思うかもしれませんが、私は彼女の作品は評価しており、彼女を話を聞きたいと思っている方なので、初めから今回の山梨市長には批判的です。
先に断っておきますが、私は結構好き嫌いが激しいほうで、これまでも嫌いな方を批判してきました(デヴィ夫人と「言論の自由」、みのもんたと農業共済)。当然そうなると好きな方を擁護する傾向もあるという話です。
3 自主規制
この手の話でやっかいなのが、「自主規制」です。その場合私の経験として、直接思いつくのが言論の自由です。中国では言論の自由が制限されていることは周知の事実ですが、私的に怖いと思ったのが、この自主規制です。
如何に中国政府とは言え、自分に都合の悪い発言をしたものを全て処罰することなどはできません。その際用いられるのが「一罰百戒」で、何かあったときに目立った発言を行ったものを逮捕することがよくあります。
結果、同じような発言をすると同じ目にあいかねないということを国民に提示し、国民の自主規制にゆだねるわけです。
失うものが何もない方ならともかく、これだけ経済発展が進みそれなりの生活を送るようになると、人間それを失くしたくないと考えるもので、下手に政府非難などをして今の職、現在の生活を失いたいと思う人は少数派となります(大気汚染問題で中国人が政府を批判しない理由)。
4 自主規制2
今回の問題はそれとは次元が違う話ですが、他人からの批判を恐れるあまり、過剰に反応しているという点では同じですし、結果それにより、上野氏の言論の自由を制限することになっている点でもかなり共通する部分はあるかと思っています。
実際、講演が開催されても「介護以外の話をしない」ことを確認し、その上での開催という面もあるわけで、私的には十分言論の自由が存在されていますし、講演をする方に対してかなり失礼なこととおもっております。
この点は先に述べた様に私は上野氏をひいきにしており、彼女の『セクシィ・ギャルの大研究』もかなり興味深く読ませてもらったということが背景になくはありません。
それに今回の騒動では、10名程度の反対で一時は中止になりかけたわけで、上野氏という影響力のある方だったので、記事にもなり、結局中止は撤回となりましたが、これが一般の方だったらどうかという話です。
その人がどういう人だかわからなければ、中止が妥当かどうかも判断できないわけで(だったら最初から反対意見がこないという話もありますが)、最近では、原発がらみなどであれば、十分ありうる話で(原発と歴史認識と「思考停止」)、いろいろ考えてしまった次第です。
5 最後に
山梨市長にしてみれば、市長に就任したばかりで、問題を起こしたくなかったということなのかもしれませんが、もう少し余裕を持って行動しても良かったのではないかと言う話です。
ただ、結構やっかいなのが、批判を無視すると、民意を無視した等とマスコミに叩かれるおそれもなくはないという点です。そのため、一概に全否定するつもりはありませんが、私は上野氏のファンなので、そういう目で見ているという話です。
(2014年3月18日「政治学に関係するものらしきもの」より転載)