若者の存在感が増す時代、U30が活躍できるのは「古い日本企業」?【常見陽平さんインタビュー後編】

働き方評論家で千葉商科大学准教授の常見陽平さんに「若者の転職傾向」や「若者が輝ける社会」について話を聞いた。

リスキリングの流行、オンラインコミュニケーションの浸透、急激なインフラ、そして多様化するキャリア。

新たな風が次々と吹き込み、変革期を迎えている日本のビジネスシーンにおいて、一歩先の未来を担う「若者のキャリア」について考えることが求められている。

「U30(30歳以下のビジネスパーソン)のキャリアトレンド」をテーマに行った、働き方評論家で千葉商科大学准教授の常見陽平さんへのインタビュー。前編ではU30が企業に求めるものや、若手が働きやすい環境を作るために積極的に取り組む企業の現状について聞いた。

後編では若者が注目すべきスキルと成長産業、そして、若者の活躍が期待できる企業についてひもといていく。

常見陽平さん
常見陽平さん
本人提供

若者の存在感が増す時代

─── 転職も一般的になった現代ですが、若い世代の間で顕著な転職の傾向はありますか?

スタートアップやメガベンチャーに転職する若者が目立ち、注目が集まります。私の周囲でも、親を安心させるという目的も兼ねてまずは大手企業に入って、そこでスキルやビジネスマナーの基礎を学んでから、自由度が高くて挑戦もしやすい企業に転職する流れをよく見ます。

若者の人口が減っている現代、このような若者の動向を受けて「若者に元気に働いてもらうにはどうしたらいいだろう」「子育てをしながら働くことができる環境を整えないとダメだよね」と企業も既存の体制や価値観を大きく問い直しています。つまりは「若者の存在感が増す時代」とも言えるかもしれませんね。

一方で、人口的には上の世代の方が圧倒的に多いので、気をつけながら仕組みを作り直さないと、若者を意図せず搾取してしまうなど、いった上の世代に有利な仕組み、いわゆるシルバーデモクラシーが出来上がってしまうリスクもあるでしょう。

若者が注目すべきスキルと成長産業

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─── 今後の社会で、特に役立つスキルとはどんなものなのでしょうか?

強いて具体的なスキルを挙げるなら、ファシリテーション能力はどこにいっても使えるでしょう。場所に応じた立ち振る舞いがわかることはもちろんですが、ファシリテーションには「前向きな対立や摩擦を煽る」という大切な役割があります。なんとなく上手く収まっている場面でも「全員が合意してるようだけど、相違点が生じた場合はどうしますか?」という問いを投げることができれば、リスクヘッジやプロジェクトの質を上げることができます。

スキルをつけてキャリアを築くという手段がある一方で、成長産業に焦点を当てて、その追い風も受けながらキャリアを築く方法もあります。例えば現在、チャンスの入り口が広いのはホテル業界ですね。ホテル業界は外資からの投資が急速に進んでいます。政府が2030年には年間6000万人の訪日客を目標に掲げている一方で、地方には滞在を充実させてくれるようなホテルが少ないのが現状です。

コロナ以前にホテル業界で働いていた人が別の業界へ行ってしまったなどの理由で、成長産業でありながら、とにかく働き手が足りていない業界でもあります。人材の流動性が生まれている今は、特にチャンスにも恵まれやすいのではないでしょうか。

あとは単純なことですが、「何を学ぶべきか」以前にピュアに「これを学びたい」という好奇心を大切にしてほしいですね。色々な分野で働き手が足りていないので「この能力があったら面白いな」とか「これとこれを組み合わせたら何かできそうだな」といった気持ちで学びを楽しみながら突き詰めていけば、それが仕事につながりやすい時代だと思います。

若者が活躍できるチャンスは「古い日本企業」にある?

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───  U30をはじめとした若者が活躍できる社会とは、どんな社会でしょうか?

ポジティブな言い方をするならば世代を超えた想像力と助け合い、味気ない言い方をするならば利用し合うことではないでしょうか。

経済力はないけれどパッションとビジネス構想力がある若者はたくさんいますし、経済力はあるけれど使い方が分からない上の世代もたくさんいます。私の60代の友人にスタートアップの立ち上げ請負のようなことをしてる人がいます。若い世代にビジネスの知恵と経済力を付与して、その若者が社会に有益なビジネスを成功させることで、お金は返ってくる。社会、若者、上の世代、どの視点からもwin-winな循環が生まれるというわけです。

───  ポテンシャルや能力があっても、経済状況によって形にできない若者がいるということですね。

そもそも日本の広義の大学進学率は60%程度で、家庭の事情などにより大学へ行きたくても行けない人もいます。残念なことに学歴社会はまだまだ根深いので「若者が活躍できる社会」を広義の意味で考えるためには、そういったこぼれ落ちてしまう若者にも目を向けなくてはなりません。

また、キャリアの話からは少し逸れますが、政治においても、色々な世代やバックグラウンドの人同士が手を取り合ったり意見を交換したりする場所であるべきだと思います。当たり前に一定数の若い政治家がいて、当たり前に多様なバックグラウンドがある政治の方が健全です。これは企業でも同じことですね。

─── 最後に、U30をはじめとした若者が活躍できる企業とは、どんな企業でしょうか?

エンゲージメントが高い、抜擢されている、年収が高い、自由で柔軟な働き方ができる、など、分かりやすい指標はたくさんありますね。しかし敢えてそれとは別で言うならば、若者が活躍できるチャンスは「変わろうとしている日本の古い企業」にたくさんあると思います。

時代に合致したアップデートを試みる中で滑ったり空回りしたりして、前編でも名前が上がったようにJTCと揶揄されたりすることもあるのですが、やはり長く続いている企業の多くには素晴らしい実力とポテンシャルがあります。実際にお邪魔してみると、行くたびに変化があって「すごいな」「面白いな」と感じます。

日本の中小企業においては、買収や世代交代のタイミングに変化が起きやすいでしょう。中小企業の場合は、大手以上に「地方」という要素が入ってくることが多いので、どうしても衝突や摩擦が起きやすいですね。

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地元に帰れば20代でも「いつ結婚するんだ?」「焦った方がいいぞ」と言われてしまうような現状は確かにあるようです。私の勤めている大学でも、就活において親の保守性が障壁として話題に上がることが多々あります。そういった価値観の違いを加味すると、結局は一人暮らし物件が多くて、独身でも誰にも指をさされない都市に住んで、大手企業やベンチャー、スタートアップに若者が集中するのも頷けますね。

とは言え、私は希望を込めて「日本企業の底力を信じています」といつも伝えています。U30と日本社会が今後どのようなコミュニケーションを重ねて社会を豊かにしていくのか、とても期待しています。

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