コロナ前に「戻す=後退」ではない。U30のキャリアトレンドに企業はどう向き合う?【常見陽平さんインタビュー前編】

「U30(30歳以下のビジネスパーソン)のキャリアトレンド」をテーマに、働き方評論家で千葉商科大学准教授の常見陽平さんに話を聞いた。若者が企業に求めるもの、若者が輝ける社会とは?

リスキリングの流行、オンラインコミュニケーションの浸透、急激なインフラ、そして多様化するキャリア。

新たな風が次々と吹き込み、変革期を迎えている日本のビジネスシーンにおいて、一歩先の未来を担う「若者のキャリア」について考えることが求められている。

若者は企業に何を求めているのだろうか。そして、若者が輝き続けられる企業とはどんな企業だろうか。

「U30(30歳以下のビジネスパーソン)のキャリアトレンド」をテーマに、働き方評論家で千葉商科大学准教授の常見陽平さんに話を聞いた。

常見陽平さん
常見陽平さん
本人提供

U30の若者が企業に求めるもの

───「若者のキャリア」と聞くとZ世代というワードがまず出てくる人も多いと思います。Z世代とU30(30歳以下)に違いがあるのでしょうか?

Z世代は主に1990年代後期から2010年頃までに生まれた世代とされています。Z世代とU30は年齢層が重なっています。U30とは、年代的にZ世代のカテゴライズされる人たちのことも包括している言葉だと思います。加えて、これは主観ですが、そもそも世代論を語ること自体が時代遅れになってきているような気もしますね。

また、日本における「Z世代」は、マーケティングの視点から社会が希望も込めて描く「Z世代像」にあてはまる人に限定される傾向にあります。社会的感度が高くて、SNSを駆使して情報収集や社会運動に参加しているといった感じでしょうか。

しかし、環境問題やジェンダー平等に強い関心を持って活動している若者はごく一部であって、ほとんどの若者が自分ごとになっていないのではないでしょうか。私が大学で教えている学生の多くも、休日に“推し活”などをする趣味の時間を除いたら、通学、単位取得のための課題、アルバイトにほとんどの時間と労力を持っていかれるというのが現実だと思います。「若者=Z世代」ではないということですね。

─── 「若者」という視点から企業や働き方のニューノーマルを考えたとき、どのような変化が実際に起きているのでしょうか?

20代を必ずしも下積み期間ととらえなくなりつつあるのではないでしょうか。

大企業を中心に、若手でも勤務地や職種、待遇を選べる企業も増えつつありますし、新卒初任給が25~30万円を超えることも一般的になってきました。仕事に値札をつける「ジョブ型雇用」を取り入れる企業も増えつつあります。企業が若者のニーズに合わせた結果でそうなっているのか、企業全体の働き手の獲得と成長を促そうとした結果そうなっているのかの見極めは難しいところです。

加えて、若い世代を中心に社会課題に関心を持つビジネスパーソンが増えていることも大きな変化でしょう。起業や独立についても、一昔前は「起業=大きな成功を成し遂げたい」という人が多かったのですが、最近は「自分らしく生きたい」「社会の役に立ちたい」という動機で選択する人もじわじわと増えてきていると感じます。もちろん、安定して同じ職に就きたい人も、社会課題にはあまり関心がない人も世代を問わずいるでしょう。

若者に向けた取り組み=社会的な取り組み?

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─── 「社会の役に立ちたい」という若者の思いは、企業選びにも影響しているのでしょうか?

「Z世代らしさ」と合致する部分になりますが「社会に対して良いことをしているか」と「働きがいがあるか」を選択基準にしている若者は増えていると感じます。一部の学生たちの中で起こっている「何らかの形でガザ地区攻撃に加担している企業で働くのはやめよう」といった運動は、まさにそういった変化の表れだと思います。

その他にも、環境問題や格差などに対する、企業の社会的なスタンスが、経営者や経営の評価と直結しつつあります。誰もが安心して働ける環境作りに務める企業が増えているのも、こうした「社会的な正しさ」を求める声に応えようとしている側面が大いにあると思います。

メルカリが男女の説明不能な賃金格差の是正に取り組んだことが印象的でした。以前から人材マネジメントに力を入れている企業ですが、中途採用の社員の賃金設定に前職の基準を用いていたということで、意図せず外部で出来上がっていた男女の賃金格差を引きずってしまっていたのですよね。ここに踏み込んだことは注目です。

他にも、リクルートでは管理職に求める条件を現代のビジネスモデルに合致するようにアップデートした結果、女性比率が大幅に上がったり、また三井物産では「人的資本レポート」という形で社内の格差解消に取り組む様子を外部に発表しています。

─── 社会的な取り組みと若手のビジネスパーソンに向けた取り組みの中には、重なる部分があるんですね。

そうとも言えるかもしれませんね。特に日本企業では、20代の年収やポジションの見直しを積極的に行う傾向が生まれつつあります。就活において、時代に合致しない価値観や組織体制を体現した日本企業をJTC(Japanese Traditional Company)と呼んで揶揄する若者も少なくないですが、働き手が納得のいく仕事環境の整備や若者の抜擢、年収のアップに力を入れている企業が増えていると感じます。

「戻す=後退」ではない。オンラインから対面へ移行する企業

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─── 仕事環境で言えば、オンラインでのコミュニケーションも一般化し、対面でのコミュニケーションに苦手意識やストレスを抱える若者も増えていると言われています。大学にも勤めている常見さんは、実際に学生と接する中でコミュニケーションの変化や時代性を感じますか?

現在の2年生あたり、つまり高校での3年間がコロナ禍の時期だった代から大きな変化を感じます。

ソーシャルディスタンスや黙食、蔓延防止措置などでコミュニケーションに色々な制限がかかり、友人関係に揉まれたり恋愛を経験したりする機会が少なかった代です。青春の阻害を受けた傷がまだ癒えていないのかもしれませんね。特に始めの頃は、グループワークで苦戦していたのをよく覚えています。

しかし、対面とオンラインという大きく分けて2種類のコミュニケーションが実現したことは、今後の社会や若者にとってもメリットだと思います。例えば、ここ最近の就職活動では、企業説明はオンラインやオンデマンド、企業の理解を深めるためのグループワークや組織風土の体感の機会には対面といったように、上手くハイブリッド化されています。

企業では、出社してオンライン会議に出るということも増えていますね。意見がありそうな人の表情や所作に気付きやすかったり、その場の雰囲気に刺激や安心をもらえたりなど、やっぱり対面には対面の良さがあるわけです。「テレワークは効率が良いのでパフォーマンスが上がる」という意見もありますが、それだけだと運動不足にもなりやすいですし、精神的にも孤独に陥りやすい。いくら高性能な車でもずっと走っていたら壊れてしまいます。

なので私は、一概に「対面に戻した会社は古い」と断言することは大間違いだと思いますね。一方で、意図なく何となく戻してしまった会社があるのも事実なので、そこは今後の明暗が分かれる部分かなとも思っています。

Businessmen meeting and working in a big city.
Businessmen meeting and working in a big city.
Susumu Yoshioka via Getty Images

社会的な感度が高い「Z世代」像と実際の若者との間には溝がある現実がある一方で、社会性と若者の働き甲斐がより重なりつつあることもまた事実だという常見さん。

若者が求める企業像の背景には、コロナ禍を通して社会を「自分ごと」として感じる若者が増えていることが推察できそうだ。一方でコロナ禍により生まれたコミュニケーションの変化の中には、時間をかけて向き合っていくべき若者の「傷」もあるという。

こういった背景を踏まえ、インタビューの後半では、U30が身につけるべきスキルや成長産業、そして、若者の活躍が期待できる企業について聞く。

後編に続く〉

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