国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」が中止になった問題をめぐり、文化庁は9月26日、「あいちトリエンナーレ」に対して採択を決めていた補助金約7800万円について全額不交付にすると発表した。
この決定に対し、東京大学の教員有志が、「文化庁による補助金の不交付決定について強く抗議し、取り消すことを要望します」とする声明文を出した。
10月3日午前10時時点で、呼びかけ人4人と、賛同者24人の計28人が名前を連ねている。
文化庁は補助金を不交付とする理由について、来場者を含め展示会場の安全や事業の円滑な運営を脅かすような重大な事実を認識していたにもかかわらず、それらの事実を申告しなかったことなどを挙げている。
これに対し声明文では、「展覧会の準備において様々な懸念事項があることは一般的であり、また、文化芸術はどのようなものであっても脅迫やテロ行為の対象になる可能性があることを考えれば、申請時にそうした予測に触れなかったりその後の相談をしなかったりしたことをもって補助金の全額不交付とすることは、均衡を欠いた著しく不当な決定です」と指摘し、「地域で文化芸術事業に取り組む団体の企画や応募を萎縮させ、文化芸術の振興に悪影響を及ぼします」と懸念を示した。
また、文化庁の姿勢について、「脅迫やテロ行為の予告に屈しない姿勢を国内外に示して愛知県を支援することをせず、反対に補助金を全額不交付として展覧会の遂行を困難なものにすることによって、展覧会を妨害する脅迫行為に実質的に加担し、再開に向けた愛知県の動きに不当に干渉しています」と批判している。
有志では、この声明文を文部科学省と文化庁に提出する予定だという。
■声明文(全文)
文化庁によるあいちトリエンナーレへの補助金の不交付決定に対する東京大学教員有志の声明
文化庁の2019年度文化資源活用事業費補助金「日本博を契機とする文化資源コンテンツ創成事業」(以下,文化資源活用推進事業)の補助金審査における「「あいちトリエンナーレ」における国際現代美術展開催事業」(以下,あいちトリエンナーレ)への補助金の不交付決定について強く抗議し,不交付決定を取り消すことを要望します。
文化庁は2019年9月26日に,文化資源活用推進事業の補助金審査の結果,補助金適正化法第6条等に基づき,あいちトリエンナーレへの補助金を全額不交付とすると発表しました。すでに採択通知が出された補助金を全額不交付とする理由として,「来場者を含め展示会場の安全や事業の円滑な運営を脅かすような重大な事実」を認識していたにもかかわらず,それらの事実を申告しなかったことを挙げています。しかし,展覧会の準備において様々な懸念事項があることは一般的であり,また,文化芸術はどのようなものであっても脅迫やテロ行為の対象になる可能性があることを考えれば,申請時にそうした予測に触れなかったりその後の相談をしなかったりしたことをもって補助金の全額不交付とすることは,均衡を欠いた著しく不当な決定です。
今回の決定は,申請書の到着から交付の決定を行うまでの標準的な期間である30日から大きくずれ込んで行われたため,文化庁はその間に報道等であいちトリエンナーレに対する脅迫やテロ行為の予告や「表現の不自由展・その後」の展示中止等について十分に認識する立場にありました。文化庁は,文化芸術基本法の前文で謳われた「文化芸術の礎たる表現の自由の重要性を深く認識し,文化芸術活動を行う者の自主性を尊重する」という理念のもと,脅迫やテロ行為の予告に屈しない姿勢を国内外に示して愛知県を支援することをせず,反対に補助金を全額不交付として展覧会の遂行を困難なものにすることによって,展覧会を妨害する脅迫行為に実質的に加担し,再開に向けた愛知県の動きに不当に干渉しています。
申請時の予測の言及やその後の相談の有無を理由に,採択通知を出したものに不交付決定を行う今回の処分は,文化芸術活動を振興するための補助金の活用として適切とは言えません。このことは,地域で文化芸術事業に取り組む団体の企画や応募を萎縮させ,文化芸術の振興に悪影響を及ぼします。
今回のあいちトリエンナーレをめぐる問題については,海外でも大きな注目を集めています。文化庁は,表現の自由に対する攻撃を看過した上でそれに実質的に加担し,日本及びその文化政策に対する信用を毀損することによって,本事業の目的である「国内外への戦略的広報の推進,文化による「国家ブランディング」の強化,「観光インバウンド」の飛躍的・持続的拡充」のいずれも実現していないばかりか,かえって後退させてしまったと言わざるを得ません。
以上のことから,文化庁による補助金の不交付決定について強く抗議し,取り消すことを要望します。