自然に囲まれた田舎で生活や仕事をしたいけど、都会の暮らしも捨てたくない。
そんな"いいとこ取り"ができる「2拠点居住」と呼ばれるライフスタイルが、注目を集めている。
長野県富士見町の移住者向け共同オフィス(コワーキングスペース)「富士見 森のオフィス」を拠点に、東京と長野の生活を両立する人たちが体験を語るイベントが、2月27日に東京都内の「DIAGONAL RUN TOKYO」で開かれた。
仕事や子育てはどうするの?お金がかかるのでは?...
経歴や働き方もバラバラな7人のパネリストが、2拠点居住に対するそんな疑問や不安についてパネルディスカッション形式で答えた。
週3だけサラリーマン。事業の責任者だけどリモートワーク
イベントは、30人ほどの参加者が、2拠点居住に対して感じるハードルなどを書き出すグループワークから始まった。
続いて乾杯へと移り、軽食をつまみながら、パネリストが2拠点居住を始めた経緯、今の仕事や生活について説明した。
7人の働き方は、フリーランス、サラリーマンがそれぞれ2人ずつで、残る3人は自営業をしている。
職種は、次の通りだ。
自営業(映像制作、ウェブ・グラフィックデザイン、地域デザイン)
フリーランス(デザイナー、メディアの企画・制作)
サラリーマン(人材サービス、ウェブデザイン)
津田賀央さんは2015年、大手家電メーカーで働きながら、富士見町で自分の会社を立ち上げ、「森のオフィス」をオープン。会社の給料を半分にする代わりに、週5日から3日の勤務にしてもらい、家族と一緒に富士見町に移り住んだ。
その後会社を退職し、現在は週に3日、クライアントとの打ち合わせなどで東京に滞在。それ以外の日は、富士見町で森のオフィスの運営や地域と連携した商品企画などをしている。
「大企業は、大きなプロジェクトにも関われますが、物事の進み方が遅いですし、仕事内容は分業です。10年後の自分のキャリアを考えた時に、社内で強いサラリーマンにはなるけど個人としてものすごく弱いのでは、と思いました」
そんな理由から、働き方や生活を一変しようと、起業や移住を決めたという。
人材サービス大手「リクルートキャリア」で事業・商品の企画担当をする高柳祐人さんは、移住後もフルタイムで働いている。週前半3日は東京で勤務し、残り日は富士町でリモートワーク(会社以外の場所で働く勤務形態)をしている。
「新規事業の責任者的な立場にいるので、東京から不在なのは無理かと思いましたが、会社にお願いしてテスト的な形でやるということで実現しました」
移住のきっかけは、2017年8月に開催された同様のイベントに参加したことだ。その直後の週末に森のオフィスを訪ね、移住を決めた。もともと地方ビジネスに興味があり、会社に相談して2拠点、リモートワーク、副業という形に落ち着いたという。現在は副業として、森のオフィスからの業務委託で新規事業の立ち上げや行政と連携して移住者支援などもしている。
子育て、仕事、お金は...
イベントの後半は、グループワークで参加者から集めた2拠点居住に対する不安や疑問やついて、パネリストが答えた。
家族の同意や子育てはどうするの?
津田さん
妻は専業主婦で、「自然で子育てしたい」と言っていたので、ちょうど良かったです。子供は今8歳と5歳で、(移住する時は)上の子が年長だったので、幼稚園に入れてそのまま小学校とタイミングが良かった。子供はいる人は小学校のタイミングで行くと良いと思います。
野原かおりさん:夫と東京で会社を経営しながら、2人の子供を育てるアートディレクター
2人目の子供を出産した後に移住しました。決め手は(移住を持ちかけた)夫の情熱ですかね。田舎だけど保育園や幼稚園など色々と選択肢があって良かったです。東京の保育園から転園し、公立の保育園に入れました。自然豊かでこちらの子供の方が元気がいっぱいですし、公立なので時間も遅くまで預かってくれるので、そこまでストレスもなく(東京の時と)変わらずにできています。
仕事はあるの、会社をやめないといけない?
松田裕多さん:フリーランスのデザイナー
30歳という節目でもあったので、働き方を変えたいという漠然とした考えがあって、会社を辞めて個人事業を頑張ってみようと思いました。会社員だった妻に相談し、2人で一緒に独立しました。僕はフリーランスで、妻は現在、富士見町の隣村の会社で正社員としてデザインの仕事をしています。
高柳さん
普通のサラリーマンにとって、2つのハードルがあります。一つは会社の制度が整っていない点。今の仕事よりも2拠点を勝ち取りたいのであれば、制度が整っている会社に転職する選択肢もあるのかと思います。
次に、実際に行ったら自分が何ができるのか。僕も見切り発車で行ったのですが、過去に培った営業・企画の経験が役に立つ部分が見えてきました。コワーキングスペースが通じて仕事がくることもあるので、スモールスタート的な形で顔を出してみるのは大事だと思います。
植田晋一さん:富士見町から週5日リモートワークするデザイン会社のウェブエンジニア。
勤務先は40人規模の制作会社で、子育てしながら働きたい人たちのために、リモートワークという在宅で働ける仕組みがあります。在宅で働く人が10人ぐらいたので、「僕も同じように働きたいです」とお願いして、やってみようという話になりました。そんなに苦労はありませんでした。
お金がたくさんかかかりそう...
パネリストのほとんどが富士見町に完全移住し、東京にも家を借りているのは2人だという。
栗原大介さん:映像制作の自営業
東京と長野がちょうど半分半分ぐらいの生活で、東京ではシェアハウスに住んでいます。長野では1軒家を借りていますが、家賃は3万円です。(1拠点と比べて生活費は)1.5倍ぐらいです。中には空き家を買った人もいます。
「自然に囲まれた生活」の現実的な選択肢になるかも
都会で働く人で、いつかは田舎で暮らしたいと憧れる人はたくさんいるだろう。でも本当にするとなると、今の仕事や生活をがらっと変えないといけないし、家族や子供がいれば一層ハードルが高い。
今までだったら、仕事や子育てがひと段落した定年後にでも、と考えたものだろう。
2拠点居住は、そんな悩みに応えるように、今の生活を半分ぐらい保ちながら田舎暮らしを始められる。
自営業やフリーランスほど自由が利かないサラリーマンでも、会社の制度や理解があれば、試しに挑戦することもできそうだ。自然に囲まれた生活に憧れる人の現実的な選択肢になるのではと、参加者のひとりとして感じた。