Twitterを買収した世界一の富豪イーロン・マスク氏は、“言論の自由”を取り戻すと宣言した。
しかしどうやら、マスク氏の主張する言論の自由は、加害者が罰を受けることなくLGBTQ+などマイノリティの人々を公に誹謗中傷できることを意味するようだ。
Twitter社はこの数年、ようやく同性愛嫌悪やトランス嫌悪的な投稿への対策に力を入れるようになった。
しかし、かつてドラァグクイーンのことを「グルーマー(性犯罪などの目的で子どもや若者を手なずける人物)」と呼んでアカウントを停止させられた格闘家のジェイク・シールズ氏は、マスク氏がTwitterを買収した後の10月29日に写真を投稿。
「これはグルーマーだ」と書き込み、「まったく同じツイートをして1カ月前にアカウント停止されたが、Twitterが自由になったか試してみよう」とコメントした。この投稿は今でも残っている。
またTwitter社は3月に、トランスジェンダーの人たちに対するヘイト発言を投稿していた風刺サイト「バビロン・ビー」のアカウントを停止させた。
マスク氏はこのアカウント停止に強い不満を抱いたという。バビロン・ビーのセス・ディロンCEOは4月、マスク氏からアカウント停止について尋ねられ、その後Twitterを買収する可能性を示唆したとツイートしている。
《セス・ディロンの投稿:マスク氏は、Twitterが言論の自由を守っているどうかを尋ねる投票をする前に、我々に連絡してきた。彼は本当にアカウント停止になったかを知りたがり、その電話でTwitterを買う必要について熟考するとさえ言った。その彼は今、最大の株主で取締役だ》
もしそうであれば、マスク氏のTwitter買収の目的の少なくとも一部は、トランス嫌悪的なツイートを自由に投稿できるようにしたかったからだといえる。それはLGBTQ+の人々にとって歓迎できないことだ。
しかし複数の著名な極右の人々は、買収によって言論が自由になると祝っている(言い換えれば、同性愛嫌悪、トランス嫌悪的なツイートが自由にできることを喜んでいる)。
マスク氏自身が、反LGBTQ+の発信をする可能性もある。マスク氏は30日、下院議長ナンシー・ペロシ氏の夫を襲撃したのは、彼のゲイの恋人だという虚偽の投稿をリツイートした(その後取り消している)。
さらに「女性は災いの根源である」という思想を持つ右派のジョーダン・ピーターソン教授の娘から「父親のTwitterアカウント復活は認められるか」と尋ねられ、マスク氏は「些細そしてあいまいな理由で停止された人は誰でも、Twitterの牢獄から解放される」と答えた。
TechCrunchによると、ピーターソン氏はトランスジェンダーを公表した俳優のエリオット・ペイジ氏をデッドネーミングし(以前の名前で呼ぶこと)、さらに胸を除去した執刀医を「犯罪者」と批判した後にTwitterのアカウントを停止された。
こういったマスク氏の発言は「TwitterはもはやLGBTQ+コミュニティの人々を危険にさらす虚偽情報を禁じないだろう」という気持ちにさせる。
そして実際、TwitterはすでにLGBTQ+の人々にとって安心できない場所になっている。
ヒューマン・ライツ・キャンペーンは10月28日に声明を発表し「マスク氏は、過激主義や虚偽情報を発信する危険人物のアカウントを復活させると約束した。実現すればTwitter――LGBTQ+の人々を含め、社会の隅に追いやられた人々の多くにとって、コミュニティであると同時にヘイトが押し寄せる場所――はあっという間に、今よりも敵対的になるだろう」と警告した。
また、マージョリー・テイラー・グリーン氏やスティーブ・バノン氏など、LGBTQ+の人々の権利や福祉に批判的な発言を繰り返してきた論客のアカウントも、復活するだろうと言われている。
マスク氏が、TwitterでLGBTQ+、中でもトランスジェンダーを軽視する人々の権利を守ろうとしていることは明らかだ。
問題は、マスク氏が「憎しみは単にマイノリティの人々を居心地悪くさせるだけのものではない」ということを理解しないであろうことだ。
ヘイトは、最も弱いコミュニティに対する暴力を加速させるきっかけとなる。
もし誰かが、過激な右翼が発進するトランスジェンダーの知識だけを取り入れれば、その視点をそのまま信じてしまうだろう。それは、恐ろしい結果を招く可能性がある。
マスク氏は、Twitterで言論の自由を守ろうとしているのではない。
もしそうであれば、力を奪われた人々の権利を守り、彼らが声を上げやすいプラットフォームにするだろう。
マスク氏がやろうとしているのは、以前のように自由に誰かをいじめられなくなったことに怒っている人々が、再び弱い者いじめをできるようにすることだ。そして、彼らがよく知らない相手のことを論破し、見下す権利を復活させている。
ハフポストUS版の記事を翻訳しました。