ツイッター上のフェイクニュース拡散の生態系は、2016年の米大統領選以降も8割以上がそのまま活動を続けている――。
米ナイト財団が4日に発表した研究報告が、そんな調査結果を明らかにしている。
研究では、米大統領選の前後の期間で、1000万を超すツイートを分析。
その結果、フェイクニュースを拡散していたアカウントの8割以上は大統領選後も相変わらず活動を続けており、1日あたり100万を超すツイートを発信。フェイクニュースの生態系の中核は、そのまま維持されていることがわかった、という。
報告では、このフェイクニュース生態系の中核に踏み込まないツイッターの対策について、「効果に疑問」との指摘を突きつけている。
これに先立つ9月に発表されたスタンフォード大学などのチームによる研究では、米大統領選以降、フェイスブックではフェイクニュースが6割以上減少した一方、ツイッターではなお増加傾向が続いているとの結果が明らかにされ、注目を集めたばかり。
米中間選挙本番を前に、ツイッターにはさらなる逆風となりそうだ。
●1000万ツイートを分析
ナイト財団が4日に発表した調査「ツイッター上の虚偽情報、'フェイクニュース'と感化キャンペーン」は、ジョージ・ワシントン大学准教授のマシュー・ハインドマン氏と、ソーシャルメディア分析ベンチャー「グラフィカ」の科学ディレクター、ヴラッド・バラシュ氏への委託研究として行われた。
調査では、恒常的にフェイクニュースや陰謀論を発信する600を超すサイトを、メリマック大学助教、メリッサ・ジムダース氏による公開リストから抽出。
これらのフェイクニュースサイトへのリンクを含む、7万アカウントによる1000万件を超すツイートを、2016年の米大統領選の前後で分析した。
それによると、米大統領選前の1カ月では、フェイクニュースサイトへのリンクを含むツイートが660万件以上確認された。
これが選挙後の2017年3月半ばから4月半ばまでの1カ月では400万ツイートに減少していた、という。
ただ、フェイクニュース拡散の構造は、関連するアカウントが浮かんでは消える「モグラたたき」ではなかった、と指摘。
大統領選でフェイクニュース拡散を担ったアカウントの8割は、現在もなお拡散を続けていることがわかった、という。
●大手10サイトで拡散フェイクニュースの65%
また、発信源であるフェイクニュースサイトも、上位の大手サイトが拡散の大半を占めていた。
フェイクニュース拡散ツイートのリンク先を見ると、大手10サイトだけで全体の65%を占めており、この割合は米大統領選後、半年を過ぎても変わらなかった。
そして、この10サイトのうち9サイトは、選挙から半年後もトップ10もしくはそれに近い順位にあり、フェイクニュース拡散の構造が、大統領選前後でほとんど変わっていないことがわかったという。
さらに、上位50サイトで見ると、占有の割合は89%まで上昇し、やはりこの割合は大統領選から5カ月後も変わらなかった。
●6割以上はボット
それによると、大統領選後の段階で、フォロワー数が多かった上位100アカウントをAIを使って調べたところ、33%がボットであるとの推定が出た。
また、ランダムサンプルによるAIの推定では、ボットの割合は63%にまで上昇したという。
ツイッターの2018年1月の発表では、ロシアによる米大統領選関連のボットアカウントは5万件にのぼった、としている。
ツイッターもまた、AIを使ってスパムやボットに対処している。
2018年6月末の発表によれば、1カ月あたりのスパムやボットの削除アカウント数は2017年9月の320万件から2018年5月には990万件にまで上昇した、としている。
だがハインドマン氏らの調査では、米大統領選前に最も活発にフェイクニュースを拡散していた100アカウントのうち、90アカウント以上が2018年春の段階でなお活動していたという。
●ロシアの介入は
米大統領選へのロシアによる介入問題「ロシア疑惑」では、ソーシャルメディアでの介入の中心となった"フェイクニュース工場"インターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)による、2700件を超すフェイクアカウント(*その後、総数は3800件超に)が、ツイッターによって特定されている。
ハインドマン氏らの調査ではこのうち、ネットのインフルエンサーでもあった「ジェナ・エイブラムズ氏(@Jenn_Abrams)」(フォロワー数7万人超)や「テネシー州共和党の非公式ツイッター(@TEN_GOP)」(フォロワー数13万6000人超)、政治軍事アナリストを名乗る「ウォーフェア・ワールワイド(@WarfareWW)」(フォロワー2万6700人超)といった著名アカウントなど、65件の含まれているという。
2700件のアカウントの大半は、フォロワー数や影響力が小さいために、今回の調査には含まれていないというが、それ以外でも、ロシア政府の主張に足並みをそろえ、IRAのアカウントよりもフォロワー数も影響力もあるアカウントは数百単位で存在する、という。
●拡散のパターン
ツイッター上での、通常のニュースへのリンクの拡散には、一定のパターンがあるという。
配信後、1~2時間で拡散のピークを迎え、その後、急速に沈静化する、というものだ。
今回の調査では、ロシアのプロパガンダ用と見られるアカウントのグループは、この通常の「ニュースのライフサイクル」を拡張させるような、組織だった連携のツイートを繰り返していた、という。
特徴的なのが、「#WikiLeaks(ウィキリークス)」のハッシュタグだ。
米大統領選においてウィキリークスは、サイバー攻撃によって流出した米民主党全国委員会の内部資料の公開窓口として機能し、ロシアとの関わりが指摘されてきた。
そのウィキリークスは、投票1カ月前の2016年10月から、やはりサイバー攻撃で流出したクリントン陣営の選対本部長、ジョン・ポデスタ氏のメール公開も始めている。
この時期の「#WikiLeaks」のハッシュタグつきのツイートを見ると、トランプ支持や保守、強硬派保守の立場のツイッターアカウントが、連携しながら、機械的、継続的に拡散を続けていた様子が、はっきりと確認できたという。
●発信源に焦点を当てる
ハインドマン氏らの調査では、相互リンクなどにより組織的に連携した中核のツイッターアカウントが、大手のやはり中核的なフェイクニュースサイトのコンテンツを、集中的に拡散する構造が見られた、という。
では、このようなフェイクニュース拡散の構造に対処する方法はあるのか。
そのケーススタディとして、極右サイト「ザ・リアル・ストラテジー」をめぐる動きを紹介している。
「ザ・リアル・ストラテジー」は、70万件以上の被リンクツイートがあり、今回の調査対象の中では2番目に存在感が大きかったサイト。実際の発砲事件にもつながった陰謀論「ピザゲート」の拡散などにかかわっていた、という。
このサイトのツイッターアカウントは削除され、人気掲示板サイト「レディット」などでもブラックリスト化されるなどし、ボットによる拡散ネットワークも機能不全に陥ったという。
その結果、大統領選後のサンプル調査では、「ザ・リアル・ストラテジー」の被リンクツイートは1534件と、選挙前に比べて99.8%の減少となったという。
●ツイッターの対策の効果
この結果を受けて、ハインドマン氏らはこう断じている。
これらのフェイクアカウントが2016年の大統領選で関わった虚偽情報の試みのいくつかは、外国政府によって仕組まれたものとして、連邦当局により刑事訴追されている。しかし、我々のデータが示すように、この虚偽情報のキャンペーンで使われた多くのアカウントは、自動化されたボットであるという明白な証拠があるにもかかわらず、なお活動を継続している。このように多数の顕著なアカウントが虚偽情報の拡散を続けていることで、ツイッター社によるプラットフォームの秩序維持の取り組みについて、その効果への疑問が浮かんでくる。
その上で、このような対応策を提言している。
ボットアカウントへの表示の義務化――加えて「いいね」「リツイート」「フォロワー」の集計表示からのボットの除外――をすることで、悪者たちが目標を達成するのに、より多くの人手とコストをかける必要が出てくるだろう。
●フェイスブックの減少とツイッターの増加
ツイッターには逆風となる研究結果は、その前月にも出されて、話題となっていた。
今回の研究報告では、560件にのぼるフェイクニュースサイトのコンテンツ拡散について、米大統領選前後のエンゲージメント数の変化を、フェイスブックとツイッターでそれぞれ分析している。
それによると、フェイスブックでは、予備選期間を含む2015年からの2年間でエンゲージメント数(*「いいね」・共有・コメントの総計)は右肩上がりとなり、ピークとなった投開票後の2016年12月の月間数で約2億件に。
その後は急速に減少し、今年7月には7000万件とピークから65%減にまで下がった。
一方、ツイッターでのフェイクニュースの共有数は、フェイスブックのエンゲージメント数と比べて1~2桁少ない。
だが、2015年から右肩上がりで2016年末には400万件を超えた後も増加傾向を続け、7月には600万件に近づいている。
フェイスブックが、なおツイッターの10倍以上の規模でフェイクニュースの温床であることに変わりはない。
だが、フェイスブックの減少傾向とツイッターの増加傾向の対比は、ツイッターのフェイクニュース対策に懸念を呼んだ。
●ツイッターの反論
この研究は、ツイッターが公開しているAPIによるデータに基づいて行われています。そのため、ボット(自動化)、スパムのコンテンツやアカウントをツイッター上でユーザーの目に触れないよう、我々が削除のためにどのような対策を取っているかについては考慮されていません。
ツイッターとしては、上述のようにAIを使ったボットなどの削除に従前から取り組んでいる、ということを確認しておきたいのだろう。
今年5月と6月だけで7000万件のアカウント削除が報じられており、さらに11月に中間選挙を控え、フェイクアカウントへの規制強化を10月1日に発表したタイミングでもある。
●オープンと規制
ツイッターは、「オープンなサービス」というポジションに重きを置いている。
ツイッター副社長のデル・ハーベイ氏のコメントには、このような表現もあった。
ツイッターは、オープンサービスという独自の立場から、日々の虚偽情報へのリアルタイムの対策を行う重要な拠点なのです。
ただ、この「オープン」というポジションは、一方では、コンテンツ排除への慎重姿勢にもつながる。
ナイト財団の研究対象にも含まれている代表的な陰謀論サイト「インフォウオーズ」と同サイトを運営するアレックス・ジョーンズ氏のアカウントの扱いをめぐっては、CEOのジャック・ドーシー氏が8月、「ツイッターのルールには違反していない」としていったんは慎重姿勢を表明。
しかし、批判の強まりに押されるような形で、結局は削除に踏み切っている。
中間選挙本番に向けて、フェイクニュース対策に目に見えた効果が現れるのか。
その結果次第では、ツイッターへの逆風は、さらに強まることになりそうだ。
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■新刊『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』(朝日新書)
(2018年10月6日「新聞紙学的」より転載)